〜3〜


 

 その名を口走った瞬間。
 背後の男が、クク、と喉を震わせて笑った。可笑しくて仕方ない、と言うように。
 そして、可哀想になァ、と口先だけで呟いた。
「あいつは来ないぜ。何たって今頃は地上遠征の真っ最中だ。あんたを助けに来る奴はいないよ」
「………!」
 凍りつく背中。ビク、と跳ねるカラダはすでに、主の意思とは関係なく反応を返しているだけだ。覗き込めば、その瞳が虚ろな色を映していることに気づいただろう。
 気づいたからといって、捲簾がそれに胸を痛めるとも思えなかったが。
 やがてその上体が、力なくシーツの上に伏せられる。腰だけを高く上げさせられた姿勢は、ひどく淫らだ。流れる血の紅に、欲を煽られる。
 すっかり抵抗の意志をなくした細身を、捲簾は構わずに揺さぶった。ほんのわずかにも、哀れだとか止めてやろうなどと思わない自分が不思議だ。
 こんな、何のちからもない、キレイなだけのお人形に。
 可哀想に、もう一度口先だけで呟いてみた。欠片も感情がそこに込められない、自分はいつからここまで壊れてしまったのか。
 彼を厭っているわけでも、憎んでいるわけでもない。代わりに、好意などというものも、自分の中のどこを探しても見つけられない。性欲とも、少し違う。
 あるのはただ、美しく脆いものを壊したがる、子供のような残虐な悦び。
「……いくら別嬪でも、男相手でヤレるのかと思ってたけど……、結構イイもんだな、こーゆーのも……ッ」
 わざと辱める言葉を口にしながら、自分の呼吸が荒くなっていることに捲簾は自嘲した。余裕なんてどこにもない。もっともっとめちゃめちゃにしてやりたいのに、早く達したくて堪らない。
 もったいねぇな、と心の中で言ちる。ほとんど回復したとは言え、今の体力ではそう何度も行為を続けられないだろう。一回ヤレば好奇心も満たされるだろうと思っていたのに、体調さえ万全ならば一晩中でも犯し続けたいと思っている自分に、少し戸惑う。
 どんな美女を前にしたって、ここまで強い感情は生まれない。
 説明のつかない、欲。
 それでもそろそろイッとくか、と一際大きく腰を引き、突き入れようとした時。

 

「金蝉ッ、金蝉どーしたの!? ケン兄ちゃん、金蝉ここにいるんだろッ、早く開けて!!」

 

 ドンドンドン、とトビラを叩き破らんばかりに拳を打ちつける音。それに、伏せたままの身体がビクン、と跳ね上がった。
 捲簾は動きを止め、思わず笑った。
「あーらら。おチビちゃん騎士のお出ましみたいよ? おヒメサマ」
 震えだす金蝉に、あくまでも軽い口調で言う。
「返事してやんなよ。せっかく可愛いペットが助けに来てくれたんだからさ」
「、…………ッ」
 先までと違い、ゆっくりと腰をまわすようにしながら促せば、背に流れる金糸が波打った。力が抜けやや緩んでいた後口が、痙攣するようにひくつきながら捲簾を締め付ける。
「なぁ、アイツこのままだと入ってくるぜ? 小猿ちゃんにこんなトコ見せちゃってイイの?」
 何度も金蝉を呼びながらドアを叩き続ける悟空。あの子供に、この場面を見られたらどうなるのか。

 ――――下手すりゃ天界が吹っ飛ぶかもな。

 恐ろしいことを平然と思う。封じられた力がどれほどのものかは知らないが、それほどに悟空にとって金蝉の存在は大きい。
 そんなことは、記憶を失ってからのほんの数日だけでも嫌というほど知らされた。
 自覚がないのは本人たちくらいのものだろう。
 捲簾は青褪めた金蝉の耳元へ唇を寄せ、笑いながら残酷に囁きかけた。

 

 

「なぁ。それともあんた、アイツに見られながら犯されたい……?」

 

 



引き続き裏。
天ちゃんがいない理由が冒頭に。
……ダメじゃん天ちゃん! 肝心な時にいなくちゃ!!
鬼畜えっちは好きです。じつは。
でもそろそろ表に戻らねば……終われなくなる!(汗)
てゆーかすでに収拾が難しく……(苦)


 

 

前へ     次へ