目の前が真っ暗になった。何を言われているのだろう、この期に及んで脳が逃避をしかける。 なぁ、と答えを促す残酷な笑い声。 耳の奥に、ドアを激しく打ちつける音と子供の叫び声が、鈍く響き渡った。 全身を強張らせたままの金蝉の腰に腕をまわし、強引に上体を引き起こす。顎を掴んでドアの方へと顔を向けさせ、捲簾は低く笑った。 「ホラ、早く……それとも俺が代わりに言ってやろうか?『おまえのご主人様は今、俺に突っ込まれて――――」 「悟空っ!」 聞くに堪えない言葉を遮るように、金蝉は悲鳴じみた声を上げた。 「……何でも、ねえ。部屋に帰って寝てろ……ッ」 「だ、だって金蝉っ!」 「俺もすぐ戻るからっ! 大人しく先に戻ってやがれ!」 震えそうになる声を抑えつけ、ペットに命じる。従順なペットは、それでもしばし躊躇った後、主人の命令に従いドアを離れた。 少しずつ、遠ざかっていく気配。微かな鎖の音。 それらがやがて知覚できないほどになると、金蝉の身体から一気に力が抜けた。 「なーんだ、ザンネン。お子ちゃまに性教育するいい機会だったのに、っと」 可笑しそうに言いながら、捲簾は掴んでいた顎から手を離し、腰を抱え直した。 語尾に合わせて奥深くを突けば、衝撃の大きさに抑えきれず掠れた悲鳴が上がる。構わず続け様に突き上げれば、淡い紫の瞳からぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちた。 壊れることもできず、失神することもできずに。 助けももう、現れない。 散々に揺さぶって最奥に精をぶちまけながら、捲簾は満足げな溜め息を吐き、ぐったりとなった白い細身を抱き締めた。 「なあ、あんた。俺に惚れてんなら、このまま俺のオモチャになれよ」 ――――そう、やはり玩具だ。それが一番しっくりと来た。それも極上の、性人形。 ヒトに対して抱くべき情を、どうしても彼には感じられない。整いすぎた容姿のせいだろうか。 「あんた絶対素質あるぜ? そのうち自分から腰振るようになるって……」 覗きこんだ瞳は、虚ろなガラス玉。ひびの入ったそれに透明感はなく、何も映し出さない。ただ、乾きかけていた涙が一筋、流れ落ちていった。 返事など要らない。拒絶の言葉は聞かない。 だってこの俺が気に入ったのだから。 それでも、彼が望むのならこの気持ちに『恋』と名づけてもいい。執着する気持ちは、どこかソレにも似ているから。 帰って来た時、汚されたおヒメサマを見た天蓬はどうするだろう? 命がけの恋なんてずいぶんとロマンチックだと、捲簾は心の内で嘲笑った。
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