八百鼡の苦悩

前編




 皆様今日は。私は、八百鼡と申します。ごめんなさい。私は今、ある薬の配合中なんです。人と話をするときは目を見て話せって言いますけれど、この薬品から目を離すわけにはいきませんので、実験を続けながらお話しますね。いいですか?
 え? なんの薬を作っているか、ですって? それは秘密です。なんちゃって! 一度言ってみたかっただけです。もちろん三蔵一行を倒す毒と言いたいところですが、自白剤なんです。意外でした? 超強力な・・・私が言ってもあまり強力そうに聞こえないかもしれませんが、・・・実はその力は実験済みなんです。その、紅孩児様で。
 あれは、悲しい事故でした。
 この自白剤を作るように命じられたのは一週間ほど前のことでした。
 三蔵法師の持つ天地開元経文のことを知っている妖怪や人間達から、情報を聞き出すために必要だと言われ、紅孩児様にも私の力を貸すように命令が下っていました。断れませんでした。あ、これは別に関係ありませんが、私に命令を伝えにきたのは牛魔王蘇生実験に携わる女性の博士の方でしたが、
「と言うわけで、薬のエキスパートの貴女にお願いすることになったの。名誉に思って即刻作って持ってきて頂戴」
 名誉じゃないです。でも、黄博士?「まったく、人手が足りないからって、なんで私が・・・」なんておっしゃりながら、公主様の所に戻るのが何故そんなに嬉しいのでしょうか? 顔が少し赤かったような? 足取りが少し、スキップだったような。それにしても、人にモノを頼むときの態度、3時間くらい考え直してほしいです。
 無理でしょうね。
 話は元に戻りまして、自白剤なんですが、材料調達に時間を取られましたが、3日前にはできました。催眠効果による自白は、僅か10gで2時間後にきちんと出るはずのシロモノ。最大100gまで投与が可能。でも70gを越えると精神破壊に繋がり兼ねない。100g以上の投与の場合、発狂死の恐れ在り。そんな薬を1kgほど公主様にお渡ししました。
 ところで私は薬師です。自分で作った薬には責任を持たなくてはなりません。ちゃんと鼠を使った生体実験もしました。その後、片付けもちゃんとしました。そして、サンプルも手元に・・・。
 それがいけなかったんです。完成サンプルは小さな小瓶に20g程、そして、使用しなかった試験サンプルは20g程おはぎに。
「いいですか李厘様。このおはぎは私の作った薬がはいっています。お腹をこわすかもしれませんから、これだけは絶対に召し上がったりしないで下さいね」
 これで災いの種は摘み取れたと思いました。独角は私の作ったものが無造作に置かれているときは、必ず警戒してくれるので、これで安心。って李厘様、服引っ張って、何ですか? え? 代わりのおやつ? はいはい。何がいいですか?・・・そ、(泣き出しそう)それが、(涙があふれ始めてる)それがいけなかったんですー!(涙声)
 確かに私、お茶をいれました。薬を届けて、一息着こうと、取っておきのお茶。そこで李厘様をお見掛けしたので、ご注意申し上げました。そのままおやつ作りに、台所へ行きました。今に例のおはぎ置きっぱなしで、隣においしいお茶までつけて! まさか紅孩児様が召し上がるなんて誰が予想できたんでしょうか? 確かに傍から見れば、立派なおやつ。そう言えば、おぼんも出してありました。
 今思い返しても、食べるな、と言う札かメモくらい・・・。本当に後悔しています。
「お召し上がりになられてしまったものは仕方ありません。あの、薬の効果がなくなるまで、せめて今日一日は、なるべくお出ましになられないようにされていたほうが宜しいかと」
 ああ、何て気まずい空気!
 でもお優しい紅孩児様。
「ああ、すまん八百鼡。そうする。お前に余計な悩みを押し付けてしまったな」
「そんな」
「今度は薬の入ってないものを食べることにする」
 ああ! 紅孩児様! 不肖この八百鼡、どこまでもあなたに着いて行きます。
 でも、意外です。こしあん派だったんですね。
 平和な時間は大変短いもので・・・。
 よりにもよってこんなときに玉面公主様からの、お呼び出し。要件は当然三蔵一行の、襲撃命令。でも今の紅孩児様に・・・。
「貴方の為に言っているのよ。私は。いつまでも貴方の母親だってあのままではいたくないハズだもの。三蔵達が襲いやすい森に入ってくれたそうじゃない。なにを手間取っているのかしら? そろそろ私の為になることは貴方の為になることを理解して頂戴」
 公主様、煽らないでください。今は、今だけは煽らないで!
「あんたに言われなくても、分かっている」
 口を塞いで下さい紅孩児様!
「あら・そ。ならいいのよ。ところで、私は寂しがり屋の一面があるのよ」
 ?
「いつになったら『お母様』って呼んでくれるのかしら?」
 !
「目元口元に年齢の見えるババア・・・」
 ありがとう独角! 紅孩児様の口を塞いでくれて。そしてそのまま担いで逃げてくれて。背中で「誰がしわくちゃですって!」って声がしたような気が・・・聞こえなかったことにしちゃいます。
 紅孩児様自白剤食べちゃった事件は、私達四人しか知りません。当然他に漏らすようなこともありませんし、そんなことがあったら、それこそ大変!
 ですからなるべく外にお出ましになることは避けていただきたかったのですが、こうなってはもう、私の力では、成すべきことはなにもありません。ただ無事! それを祈るばかりです。
 目的地に着きました。ここで待っていれば三蔵一行が通り掛かるはずです。ってなぜここに李厘様が!
「李厘! お前はまた! 留守番してろとあれほど・・・」
「お兄ちゃんは今大変なんだよ! 何かあってからじゃ遅いじゃん! オイラがついてなくちゃ、絶対ダメだよ!」
「絶対だめなのはおまえの方だ!」
「あー、二人とも? 隠れてる意味なくなるぞ?」
 ありがとう独角パート2! さぞかし言い出しにくかったでしょうに。というより今の紅孩児様に声を掛けるのは度胸がいるもの。私には真似できない。






長いので続きます。
ひでみん、許可くれてありがとう!
何しろこの本、十冊と作ってないんですよ。
桃木的にはお気に入りなので、勿体無くて♥
そんでは後編へどうぞ〜






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