いとしいひと

  前 編

 

 キスひとつで容易く脱力してしまうカラダが愛しい。
 潤み始めた黒い瞳でこちらを見て、困ったような表情で目を逸らす。上気してほんのりと朱に染まった頬に唇で触れると、正直なカラダはふるりと震えた。

 カワイイ、イルカせんせ。

 笑い混じりに囁けば、力の入らない腕で逃れようと藻掻くから、ますます強く抱き締めてもういちど唇を重ねる。
 短く不揃いだけれど意外に濃い睫毛が露を帯び、鼻梁を一文字に横切る傷が常より少しだけ色濃く浮び上がり、大きめの口が苦しげに息を継ぐ。ぽてりとした唇は赤く濡れて妙にイヤラシイ。
 切なげに寄せられた眉の上に、無造作に括られた髪が解れて落ちかかる。指で掻き上げてやりながら、髪紐を解いて髪を下ろさせた。
 きりりと結い上げた髪も好きだけれど、解かれたそれは彼がリラックスしている感じがして良い。
「……は………ふ、ぅ……っ」
 深く合わせた唇が角度を変えるたび、僅かな隙間から鼻に抜けるような吐息混じりの声が漏れる。それが恥ずかしいのか、息が上手く継げず苦しいのか、やがて嫌々をするように小さく頭を振り始めた。
 しつこく追うことはせず、解放してやる。
 名残を惜しむように互いの唇を繋ぐ銀の糸を、指に絡めて掬い取る。
 くたりと胸に頭を凭れさせている彼は、俺が腕を解けばそのまま崩れていってしまいそうだ。

 ――――ま、そんなことはしないけーどね。

 頬に手を宛がいそっと上向かせ、震えている瞼にキスを落とす。
「……ね、イルカ先生。ベッドまで歩ける? 抱いてってあげましょうか?」
 睫毛に溜まった雫を吸い取りながら囁くと、真っ赤な顔を泣きそうに歪めて「大丈夫です」と小声で答える。
 どう見ても大丈夫そうじゃないのに。
 俺に抱き上げられるのが恥ずかしいのだろう。彼らしくて可愛い反応だけれど。
「だぁーめ。そんな嘘じゃ騙されません。俺はね、イルカ先生。アナタのことすごくすごく大事にしてあげたいんですよ」
 だから、大人しく抱っこされてね?
 ニッコリ笑って言い、返事も聞かずに彼を横抱きに抱え上げた。所謂、お姫様だっこという奴だ。
 しっかりとした筋肉に覆われた男の身体を抱くのは、女を抱くのよりは確かに重いけれど。
 腕の中にいるのが『彼』というだけで、その重みさえが酷く愛しい。
 しばらく嫌、下ろしてと泣き声で抗議していた彼は、寝室のベッドの上にそぅっと下ろしてやるとキッと睨みつけてきた。
 赤くなった頬と目で。
 濡れたままの唇をきゅっと噛み締めて。
 ああ、もう。
 何でアナタは、こんなに俺を煽るのが巧いんですかね。
 肘を突いて身を起こしかける彼の上に圧し掛かる。ベッドの軋む音さえどことなく淫靡だ。
 彼の脇に片手を突いて、残った手で服越しに胸を撫でる。風呂上りの彼は、薄手のパジャマを身に着けていた。かっちりと第一釦まで填めてあるそれに、自分を意識してのことだと判るから可笑しくなる。
「……っカカシ、先生っ」
「うん、何?」
 手のひらの感触にヒクンと小さく跳ねた彼が、少し焦ったように名を呼ぶのに問い返しながら、ゆっくりとひとつずつ釦を外していった。
 少しずつ露わになってゆく胸元は、すでに桜色に染まっていて、「コーフンしてるの?」と訊ねれば恥ずかしそうに俯いてしまった。
 覗いた乳首が僅かに色濃く、ぷくりと尖っているのが目に入って、可愛いなぁと口には出さずに呟く。ちょっと撫でただけなのに反応しちゃったの? それとも、キスの時からもうこんなだった?
 意地の悪い問い掛けは、今日は思うだけに留めておく。
 だって、今日はすごく優しくしてあげたい気分だったから。
 焦らさずに、硬くなりかけた小さな粒を指先で摘んだ。もう片方のそれには唇を落として、ベッドに突いていた手で強張っている太腿を擦る。
「ん……、っあ……」
 人差し指と親指で擦り合わせ軽く引っ張りながら、口に含んだ乳首をきゅうっと吸い上げてやると、肘が崩折れ、声もなく仰け反った上体がシーツに沈む。
「気持ちイイ? イルカせんせ、」
 んん、と肯定なのか否定なのか判断のつき兼ねる答えが返る。
 でもこんなになってて、ヨくないなんてわけはないから。
「もっと、ヨくしてあげますね」
 二つの尖りに交互にキスをして、唇を下方へとずらしていく。彼の下肢を守っている布に手を掛け、抵抗を許さず下着ごと引き下ろす。
 上がりかけた悲鳴を、飲み込む気配。
 構わず剥ぎ取った衣服から、しっかりと育ったものが現れる。まだ、直接触れてもいないのに。
 手の中に包み込んでゆるゆると揉み上げながら先端に爪を立ててやると、そこから透明な雫がトロリと溢れ出てきた。
 彼はぎゅうっと目を瞑って、何かを必死に耐えている。
 快感か、羞恥か。――――多分、そのどちらもだろう。
 ピクピク震えているそれが漏らす液を勿体無く思い、幹を伝い落ちるのを舌で救うように舐め上げた。途端、大袈裟なほどに跳ね上がるカラダ。
「……や、です……こんな、俺、だ…け……ッ」
 俺だけ、気持ちいいなんてダメです。
 掠れた声が言うのに、期待に高鳴る胸を押さえ、俺はニッ、と笑って見せた。

「じゃあ、イルカ先生も俺の、舐めてくれる?」

 

 

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裏カカイル2本目は前後編です。
…や、ちょっと長くなったんで途中で切ってみたってか。
他のSSとのバランスとるためにね〜。
ここまで、あんまやらしくないですねぇ。
ま、本番ナシなんで、そんなエロエロにはならんですが。
攻主観でのエロって、結構好きなんですよ。
受に嵌ってるCPだと特に。
だって受を可愛い、可愛いって書けるから♪(笑)
'03.06.28up


 

 

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