優雅な生活

前編




 深夜、ベッドの中に潜り込みはしたものの、三蔵は寝付けなかった。
 当然だ。三食昼寝におやつ付と言う優雅な――子供も手がかからなくなって、『三蔵』としての仕事も最近はなく、とにかく食っちゃ寝、という怠惰な主婦そのものの――生活をしていれば、夜になってまで眠っていられる方がどうかしている。
 一般の主婦であれば、それでも家事という最低限の仕事をこなすものだが、三蔵の場合はそれらもすべて旦那様の担当だったりする。
 それでも一応ベッドに入ったのは、その旦那様を避けるためだ。
 十何年も一緒に暮らし、二人の子供まで設けていながら妙な話ではあるが、三蔵は所謂夜の営みがどうにも好きになれないのである。
 まあそれだけではないのだが、とりあえず何とかそっちに空気が流れるのを回避したかった。
 ……しかし、それが全くの無駄な抵抗であったことは、数分と経たないうちに判ってしまった。
 ぎし…とベッドが軋み、彼がそっと入り込んできた。
「三蔵……寝ちゃったんですか?」
 する、と背後から腰に腕がまわってくる。いつもの強請るような、甘えた声音。
 三蔵は身体が強張るのを何とか押さえ込んで、寝た振りを決め込んだ。
 このまま無視していれば、奴だって諦めて眠るだろう。そう思っていた。
 ――――――が。
「……っ八戒! いい加減にしろッ」
 お構いなしに着物の合せを割って滑り込んでくる手の動きや、項に吸い付いてくる唇の感触に、とうとう我慢しきれなくなって三蔵が怒鳴った。
「そんなぁ……一日仕事してきて疲れてるんですから、少しくらいご褒美くれても良いでしょう?」
「ふざけんな! 疲れてんならとっとと寝ちまえっ!」
 拗ねたように言いながらも抱き込んだ身体を離そうとはしない八戒に、至極まともな言葉で返す。
「大体、いっつもいっつも何でガキの寝てる隣の部屋でそんな気になれんだテメーは!」
「心配しなくても、悟空は一度寝たらご飯までは起きませんよ」
「上のがいるだろうがっ!」
「悟浄ならまだ帰って来てません」
 上の、の不在を今初めて知った三蔵が、八戒を跳ね除けて起き上がった。
 そう言えば奴を出迎えた覚えもなければ、夕食の時にもあの紅い髪を見ていなかった気がする(良いのか、母親)。
「十五のガキに夜遊びさせて、何平然としてんだっ」
 今の今まで気付かなかった自分を棚に上げて、八戒の無責任な言葉を非難する。
 不本意ながら、二児の親がこんなことで良いのだろうかとも思う。
「大丈夫ですよ。悟浄なら、通り魔に襲われても返り討ちにできますから」
「そういう問題じゃねえっっ!」
 誰があんなクソガキの心配なんかしてるかっ!と、凝りもせずに延ばされた八戒の手を叩き払おうとして。
「だったらもう子供のことは放っといて。……ね?」
 あっさりと避けられ、再びシーツに沈められてしまった。
 昼の間休める三蔵と違い、八戒は明日も朝から食事の用意や子供たちの世話、その後仕事…とまた忙しい一日が待っている。
 シタイとかシタクナイとかそういう以前に、三蔵は一応、八戒の体のことを心配しているのだ。
 しかし、そんな想いは旦那様には届かない。
「愛してますよ、三蔵」
 にっこりと微笑み、大切そうに、もう何度目かも判らないほど繰り返された言葉をまた口にする。
 いつだって、この言葉に誤魔化されてしまう。信じてなんかいなかったはずの言葉なのに……。
 三蔵は諦めて身体から力を抜いた。






ここまでは、裏に置くようなもんじゃないですな。
前サイトにUPされてたのは、ここまででした。
リクでは、「エロありでも…」ってことだったので、
んじゃ追加でどーよ!とかって(笑)
そんでは、大したもんじゃないですが次へどうぞ〜。






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