顔を見ると、ついつい抱きつきたくなっちゃう。
 ダメダメ、って自分に言い聞かせてるんだけど、ああ、もう、にゃ〜んでこうかなぁ、俺って。
 今も、思わず抱きつく準備で、両腕広げちゃってたり。
 そのまんま固まってる俺を、ヘンなモノ見るみたいな目で手塚が見てる。
 ………………サイアク。

 

マインドサーカス
〜後 編〜

 

 二日もすると、俺はもうグッタリ状態。
 疲れる。
 めちゃめちゃ、疲れる。
 だって顔見れば駆け寄って抱きついて、「好き!」って言いたくなっちゃうから。
 もうコレは、条件反射みたいなモンで。
 しょーがないから、なるたけ手塚の顔見ないようにして。休み時間もお昼も、部活ん時も。つい目が行きそうになるのを一生懸命逸らして。
 帰りだって誰が見てるか判んないから、一緒に帰るのヤメて……。

「不自然。」

 うんざりって顔しながら、不二が力いっぱい、言った。
 部活の後の部室。鍵当番の大石もいる。こっちはちょっと困ったよーな顔して、笑ってる。
 手塚は、センセに呼ばれてて、今はいない。
 他のみんなはもう帰っちゃってて、部室には俺たち三人だけ。俺も、帰ろうとしてたところだ。
 不二のワケ判んない発言に、俺は担ぎかけたバッグを床に戻して、キョトンとした。何の話?
 窓際の椅子の横で、壁にもたれてた不二が、はーっ、と大袈裟に溜め息を吐いて身体を起こした。
「こんなコト言いたかないけどね、」
 めんどいし。キッパリ言い切りながら、呆れ果てたってカオして俺を見る。にゃにが? つか不二らしくないじゃん、ハッキリ言えって!
 眉寄せて見返したら、大石まで溜め息を吐いた。
 何なんだよ、もー!
 だんだん苛々してきた俺の方へ、不二がもったいぶったような、ゆっくりした動きで近づいてきた。
 すぐ目の前まで来て止まって、ビシッ!と人差し指を鼻先に突きつけてくる。
「何があったかなんてどーでもいーけど。わざとらしすぎ! 手塚を避けるにしても、もーちょっとやり方があるんじゃないの?」
「!」
 うえっ。何で? 気付いてんの!?
 ビックリしてる俺を、不二が睨みつけてくる。目ぇ開けんなって、コワイよ!
「気付かれてないと思ってる辺り、つくづく羨ましいアタマしてるよねぇ、英二って。いつもベタベタくっついてたのがイキナリ顔も合わせないなんて、誰が見てもおかしいでしょ」
 ガーン!
 い、いつもベタベタ……!?
 俺ってば他の奴にそんなふーに思われてたワケ? 既にダメダメじゃん、俺!
 ショック受けてると、不二がまた溜め息を吐いた。
「自覚なかったのかい? 手塚を見かければいつでもどこでも飛びついてってたくせに。いーかげん、ウザイんだよね。何なワケ、一体」
 何があったかはどーでもいい、とか言っといて。
 ムジュンしてるぞ、不二。
 けど、まぁ……そこまで気付かれてたんなら。不二と大石なら、まあいっか。
 俺は諦めて椅子に座り、話し始めた。
 改めて話すと、つくづくバカバカしー話だ。聞いてる方もそう思ったんだろう、不二の目が半眼だ。コワイ。大石ももう、呆れてるのを隠そうともしてない。
「…………………………まぁ……良く言えばケナゲと言えなくもないような、そうでもないような話ではあるけど」
 話し終わると、おでこに手を当てて、あー頭痛い。と言わんばかりの不二。
「だっ、だってだってっ、カワイソーじゃん! モトはと言えば俺が手塚を好きになんなかったらさぁ、こーゆーコトにはなんなかったんだし! それなのにきっ、キモチワルイとかって、手塚まで言われちゃったら……!」
「バカ。」
 必死になって言い訳してる俺に、一言返す不二の答えは思いっきし冷たかった。
 ガガーン!
 ひ、ひどいよ不二………。
 思わず涙目になったら、不二はもー付き合ってらんない、とか呟きながらバッグを肩に担ぎ上げた。そのまんま、お疲れーとか言って帰ってしまう。じっ自分から訊いといて、ヒドイ奴!
 俺は情けない顔で、大石を振り返った。
「………おーいしぃ」
「バカだな、英二は」
 ガガガーン! お・おーいしまでヒドイっ。
 けど、大石は不二と違って、そのまんま見捨てて行っちゃうようなカンジじゃなくて。困ったヤツだな、ってふうに笑ってる。
 そして。
「今の、手塚が聞いたらきっと怒るぞ。お前にイキナリ避けられるようになった、って俺に相談してきたくらいだからな」
「え…………」
「ホラ。手、出せ」
「う、うん?」
 言われるまま右手を出したら、その上に鍵が落とされた。
「手塚も、もうすぐ戻るだろうから。待っててやってくれよ。ちゃんと話して、謝っとけ」
 俺も、あいつのあんな顔、もう見たくないから。
 そう言って、大石も帰っていった。
 ――――――あんなカオ、って? 手塚が、どんなカオしてたってゆーんだ?
 この二日、まともに見ていない恋人の顔を思い浮かべる。怒った時のカオ。困ったみたいな笑顔。ボールを追ってる時の真剣な目。
 キスしてる時の、うっすらと紅くなったほっぺと、潤んだキレイな瞳。
 ああ、どうしよう。
 今になって、どーしてもどーしても手塚に触りたくなった。カンペキ、手塚不足。どーして二日も俺、こんなガマンなんかしてたんだろ。
 大好きなのに。
 手塚が困ろうが、周りに何言われようが、どーしよーもないくらい手塚のこと大好きなのに。
 その時、
「………菊、丸?」
 ガチャ、とドアが開いて、振り向くとビックリ顔の手塚が俺を見てた。
 たまんなくなって、俺は手塚に抱きついた。勢いで少しよろけたけど、手塚は何とか足を踏ん張って俺を受け止めてくれた。
 ふわ、と手塚の匂いがする。ナツカシイ、にゃんて言うとちょっと大袈裟かにゃ?
 ビックリして固まってた手塚が、やっと我に返ったのか、ビクンと一度身体を震わせた。
「……っに、してる……お前、今まで……!」
「ごめんなさい」
 何も言わないで、説明もしないでイキナリ避けたのは、間違いなく俺がワルイ。それも、不二と大石に言われなきゃ気付けなかったことだけど。
 一言そう謝った途端、手塚の身体からふっ…と力が抜けた。
「うわ!?」
 へにゃ、と。
 腕の中で手塚が崩れて、俺は咄嗟に支えきれなくて二人してぺたんと床に膝をついてしまった。
 ぎゅ…と背中にしがみついてくる手塚の指先が食い込んで、ちょっと痛い。けど。
 小さく震えてるカラダに、ぎくっとする。
 ――――――え、ま、まさか。
 俯いてる顔を、そぅっと覗き込む。
「…………てづ、か……?」
 うそ。
 眼鏡の奥、手塚の目が濡れてる。てゆーか、既に水滴がいくつか、零れてる。
 シテる時以外では、もしかしたら初めて見るかもしれない、手塚の涙。
「――――……った……」
 小さな小さな声を、聞き取れなくて。
 え?と聞き返したら、手塚が耳まで真っ赤になった。
 か、カワイイ。
 あ、や。そーじゃなくて。
 真っ赤になりながらも、手塚はますますぎゅうっと俺にしがみついてきて。
 言った。

「……き、嫌われたのか、と……思っ………」

「そっ、そんなワケないじゃん! 好き、大好きだよっ。今すぐちゅーしたいくらいスキ!」
 思わず口走った言葉に自分でもビックリして、慌てていや、違くて、とか言ってたら。
「だったら、すればいいだろう……!」
 怒ったみたいな声で、手塚が答えた。

 

 お許しをもらったキスのあとで、二人して真っ赤になって。
 帰ろっか、と言った俺に手塚がコクンて頷いて、二人で一緒に(途中までだけど)帰ることになった。
 並んで歩きながら、思う。
 二日間避けてた理由を、もう少し落ち着いたら話そう。
 大石の言うとおり、怒られるだろうけど。

 好きだから、キミを守りたかった。そのキモチを。
 でもやっぱり、手塚と離れてるなんて、俺には無理だって判ったコトも。
 それから、もしいつか二人でいることを周りに反対されたりすることになったら、その時は二人で頑張って何とかしようね、ってコトも。

 

 

 ねェ、大好きだよ。

 

 そぅっと囁いたら、手塚が安心したみたいに微笑った。

 

                                   END.

 

 

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前編に比べて、長すぎ(苦)
ああもう、どれ程、前中後編にしようと思ったことか…!
でもこれ以上引っ張るのはヤだったもんで。あは。
引き続き、手塚サンの出番極少。おまけに何だか、乙女?
手塚ファンとして(こんなん書いときながら)思うんですが、
ウチのくーにゃん、ウチの菊の何がそんなにイイかなぁ(暴言)
こんなにおバカなのにねェ…(言いすぎです)
とりあえず、案の定ならぶオチで失礼。


 

モドル