MARRY ME?


   後 編


 一ヵ月半ぶりに会えた恋人は、何故かとても不機嫌だった。
 一年のほとんどを外国で過ごす彼とは、ひどい時には半年以上すれ違って会えなかったりするくらいで。
 たった一ヵ月半でまた会えるなんて、あたしにとっては奇跡に近くて。だから、連絡をもらった日からずっとこの日を楽しみに待っていたのに。
 恋人は、待ち合わせ場所からどこにも立ち寄らずに、まっすぐにあたしの部屋へ向かった。
 いつもの白いキャップじゃなく黒い奴で、さらにシンプルな形で色の薄いサングラスなんかかけちゃってるせいか、周りはだれも『越前リョーマ』だって気づいてないみたい。
 いつも一緒にいるコーチやマネージャーもいなくて、荷物もちいさなバッグひとつで。マスコミにも、今回の帰国は知られていないみたいだった。ま、そうでなきゃ空港で待ち合わせなんてするわけないか。
「お帰り、リョーマ」
「ん」
 恋人は短く答えたっきり、あたしの部屋までひと言も何も言わなかった。キャップのツバを下げて、ただでさえサングラスで読み取りにくい表情をさらに隠していたけれど、機嫌がよくないのは判った。だてに中一の時から10年も彼を追っかけてるわけじゃない。
 ムスッとしたまま、部屋に上り込んで。荷物を置くなり、飲み物を用意しようとしたあたしを手招いてくる。
 近寄ったら、抱き寄せられた。
「リョーマ……?」
「朋香。手、出して」
「手?」
 反射的に何も考えずに右手を差し出したら、「違う。逆」と言われて改めて左手を出しなおす。
 あたしの手を取った恋人の逆の手には、いつの間にか小さな箱があって。あれっと思ってる間に器用に片手で中身を取り出し、あたしの指にはめた。
 左手の、薬指に。プラチナ台の、ダイヤの指輪。石はおおきくなくて、でもデザインがとっても可愛くてあたし好みの。ちなみにダイヤはあたしの誕生石だけど、きっとそういう理由で選ばれたんじゃないだろうなあ。
 でも……これって。そういうこと?
 いつの間にサイズを調べたのか、薬指にぴったりと収まった指輪を言葉もなく見てるあたしに、恋人は相変わらずむっつりしたまま、やっとまともに口を開いた。
「……竜崎から、連絡あって」
 桜乃?
 何だろう、何か用でもあったのかな。この間は、何も言っていなかったけど。
「あんたを不安にさせるなって、言うから。予定ムリヤリ空けて帰ってきた」
 だから明日には戻らなくちゃ、と恋人が言う。よく見ると、不機嫌そうな彼の頬が微かに染まってる。
 不機嫌な理由のひとつは、多分桜乃のせい。昔から恋人は、あたしと付き合いの長い桜乃に、時々ヤキモチ妬いてたりしたから。
 でももしかしたら、その他は。
 照れてたせい……?
「リョーマ……」
「本当はずっと、あんたを連れて行きたいと思ってた。でも、あんたにはあんたのしたいことがあるだろうから、無理に連れてはいけなかった。だから……代わりに、コレであんたを縛ることにする」
 恋人はあたしの左手をおおきな両手で包み込んで、いつの間にか零れ落ちたあたしの涙を、そっと唇で拭ってくれた。

「結婚しよう、朋香」

 

 

 あとで聞いた話によると。
 桜乃は電話で、あたしが不安がってることを告げ、さらにこう言ったらしい。

『カチローくんから聞いたけど、朋ちゃん、大学でもすごくモテてるんだよ。合コンのお誘いも多いって! あんまり放っておいて、他のひとに取られて後悔しても遅いんだからね!』

 不機嫌の理由は、あたしの不安を桜乃に指摘されたことと、プロポーズの照れ隠しと、他にそういうこともあったらしい。
 あたしは可笑しくて嬉しくて、止められない笑みに顔を崩れさせながら、「あたしにはリョーマだけなのに」と言ったのだけど。
「そーゆー目であんたを見る奴がいるのが嫌なの」と、キスで笑いを封じられた。

 

 

 

 スポーツ誌や新聞に、『越前リョーマ電撃結婚!』なんて文字が躍るのは、それから半年後。
 あたしの誕生日が明けた日のことだった。

 

 

 



リョ朋、10年後プロポーズ話の後編です。
…いまいちイチャイチャが足りないような…?(苦)
しかも、普段はフライング更新なのに、今回が結構ギリで。
さすがに疲れて、昨日は無理でした。
半ニートな弟を連れて行ったので、気疲れしちゃって…(苦笑)
とりあえず、そんな感じでリョ朋新婚編に…
……続きません…(ええっ)
'06.10.30up


 

 

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