LOVELY BABY
〜6〜



 そういやあん時、十日後にバイト代入るって言ってたっけ。そんで、金入ったから俺に会いに行こうと思って、結果迷子?
 学ラン姿じゃねェったって、どう見てもガキだ。よく補導されなかったもんだ。ま、無事店に着けてたら、休日の俺とは会えなかったわけだけどな。
 俺は噴き出しそうになりながら、ムッと唇を尖らせているガキに教えてやった。
「俺、今日休み。プライベートで呑みに来てんの」
「えっ……」
 俺の言葉を聞いてびっくりしたように目を瞠って、次いであからさまに落胆の表情を見せるガキ。
「今日、バイト休みだったから……部活終ってすぐ来たんだ。でも」
 素直にしょげている様子は、なかなかキた。可愛い。そんなに俺に会いたかったの。抱かれたかった? 俺のせいで淫乱になっちゃって。何も知らない処女だったくせに、癖になっちゃったんならゴメンネ。
 俺は、マリモ頭をぐりぐりと撫でた。
「店、連れてってやろうか」
「え」
「もう迷わねェように、駅ん中通って出口から教えたる」
「で、でもサンジさん休みって……俺、他の奴なんて」
 戸惑う奴の手を掴んで引っ張っていく。ガキは泣きそうな顔になって、俺以外は嫌だと可愛いことを言った。あーホント可愛い。どうしてくれよう。つーか、傍から見たら俺マジで犯罪者みてェじゃね?
 そんなことを思いながら、俺はくすっと笑って、
「俺専用の控え室が空いてるから。裏から入ろうぜ。気分いいから、ロハでいじめてやんよ♥」
「ろは?」
「特別、タダってこと」
「……うそ……」
 ガキは俺の上機嫌が理解できないらしく、呆然としている。それに構わず、俺は来たばかりの道を戻った。

 

 

 駅に着くと、ガキが不思議そうな表情をした。何でこんな早く着くんだ、と小さく呟くのが聞こえる。どういう道を辿ったんだ、こいつ。
 二十分とかかることなく、店が見えてきた。白い建物に、青い看板。アルファベットが踊る電光掲示板。通りに並ぶゲイバーやソープに比べると、ずいぶんと地味めな外装だ。俺は正面口を通り過ぎ、狭い道から裏口へ抜け、そこから店内へ入った。
 ガキは俺に手を引かれたまま、しきりに辺りを見回している。一度しか来たことのない店の、裏口から入るなんて、落ち着かないのだろう。気持ちは判るが、無視だ。
 俺の控え室は、北の間の隣にある。もちろん、商品のほとんどは大部屋でひとまとめだ。ナンバーワンの特権ていうか。オーナーの計らいっていうか。シャワー室とちいさなシンクが付いた、床張りの狭い部屋だけど。小型冷蔵庫も持ち込んでるので、お客サマを待ってる間とか、仕事終わりとかに一杯やるためのちょっとしたアルコールも置いている。
 ガキをそこへ連れ込んで、シンクに伏せて置いてあるグラスをふたつ用意する。突っ立ったままのガキを促し、床の上に直に座らせた。寛ぎ空間というわけではないので、ソファや布団などはない。いつも、シャワー浴びた後立ったまま呑んだり、脱いだ襦袢の上に座り込んだりしている。長居するわけでもない部屋にはクッションや座布団も不要だったのだ。その代わり、バスタオルや襦袢の替えはクローゼットに何枚か入っているけれど。
 片手にグラスを二本持ち、冷蔵庫から出したボトルからワインを注ぐ。値は張らないが、まあ気に入りの銘柄だ。冷蔵庫に入れておいても風味が落ちないのは、元々上等でもないせいだろう。

「お前、呑める?」

 床にぺたんと座り込んで、そわそわと落ち着かなげにしているガキは、呑んだことねェ、と答えた。俺はグラスに三分の一ほど注いだワインをガキに手渡し、自分のグラスに口を付けた。
 ガキはグラスをじっと見つめ、匂いを嗅ぐと、思い切ったように一気にがばっとあおった。
「……おいおい」
 初心者の呑み方じゃねェ。急性アルコール中毒とかになんじゃねェぞ。ぶっ倒れでもしたら、店の外に放り出してやるからな。
 しかし、ガキはけろりとしている。
「美味ェ」
「……おいおい……」
 末恐ろしいガキだ。これ、結構きつめで辛口だから、あんま呑み易いもんじゃねェはずだけどな。
 おかわりが欲しそうな顔でボトルを見つめるガキに、もう一杯注いでやる。それから、自分の分を呑み干した。シンクに空いたグラスとボトルを置き、今度は味わうようにゆっくりと呑んでいるガキのすぐ後ろに腰を下ろした。
 途端、背中が緊張するのが判って、内心で笑う。俺は手を伸ばし、後ろからするりと頬を撫でた。ぴく、と肩が震える。今度は、くく、と声が漏れた。
「もういいだろ。ワインより、俺を味わえよ」
「っ……サ、サンジさん」
 耳が真っ赤になる。首筋も。どこもかしこも美味そうに熟し、芳香を放っているようだ。俺に、喰われるために。
 あァ――たまんねェ。何でこいつはこうもそそるんだろう。ガキのくせに。男どころか、女とだって経験なかったくせに。
「……お前、マジでクソエロい」
 ちゅっと項に吸い付くと、「あっ」とちいさな声。すげェ楽しい。これだけ楽しめる相手、今までにいただろうか。まだ、たったの二回会っただけ、で。
 片手を伸ばしてクローゼットのドアを開け、中からタオルを適当に掴み出す。ガキの前にそれを広げ、突き放すようにそこへ押し倒した。
「わ……っ、サンジさ……」
「協力して、ゾロ。ベルト緩めて、自分でズボンの前開けて?」
 ワインを零しそうになり、慌てて離れたところへグラスを遠ざけたガキが、俺の言葉に頬を染める。それでも、二回目だからか、少し躊躇った後すぐに従った。結構、順応性は高いようだ。こっちとしては楽でいい。
 カチャカチャと不器用そうな手つきでベルトを外す間も待たず、シャツの裾から手を突っ込む。
「あっ!」
 つつーっとすべすべの肌を撫で上げると、ガキが思わずというふうに声を上げた。俺はその耳元に、息を吹き込むようにして笑った。
「あんまり大きい声出すなよ。この部屋、防音とかしっかりしてねェからな」
「……!」
「隣、使ってたら、モロ聞こえちまうぜ?」
「っ……っっ!」
 ガキはベルトのバックルから手を離して、その手で口を塞いだ。
 しょうがねェな、と溜め息をついて、ベルトを引き抜きズボンを下着ごとずり下ろしてやる。
 隣は、店の中で一番上等な四室のひとつだ。ここを使えるのは、ナンバーワンからスリーまでの三人に付いた上得意様だけ。特に北の間は、俺の個室と隣り合ってることもあり、俺以外の客を通すことはまずない。当然、今は使われてはいないと知っていて、だからこそこいつを連れ込んだのだ。でも、どこまでこいつが耐えられるかを見るのは面白そうだから、敢えて教えてはやらない。
 腰を突き出すような格好に羞恥を覚えたのか、ガキは口を押さえたままもぞもぞと身動いだ。その様子は、逆に誘っているように見える。
「何……ケツ振って。そんなに俺が欲しいの。待てない?」
「んんっ、う、」
「俺のこと好きなんだもんなァ……ゾロ?」
 差し出された尻を両手で掴んで、弾力のある双丘を強く揉みしだくと、ガキは完全に上半身を崩れさせ、ますます俺に尻を突き出す形になった。
 まるで、発情したメスネコみたいに。
「……さ、んじ、さ……ァっ」
 重ねられた手の指の隙間から、弱々しく震える声が俺を呼ぶ。俺の、かわいい――――。
 そういう用途のない部屋に、潤滑剤になるものはない。俺は、掴んだ尻を割り開き、外気に曝され慄く小さな窪みに、そっとくちづけた。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



またまた一旦切りま〜す。
当分エロはないつもりが、何でこうなってんでしょう(苦笑)
でもやっと、書きたいシーンのひとつに近づきました。
やっとかよ。どんだけのんびりしてんだ。
店に客を迎える部屋は十六あります。十六方位で(笑)
ちなみにサンジさんの控え室は、名前はありませんので。
客室(+サンジさん個室)は二階、
一階には他の皆さんの控え室(大部屋)と、厨房があります。
三階が、事務室兼オーナーの私室です。
'09.01.05up


 

 

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