LOVELY BABY
〜5〜



 カワイイお子ちゃまは、朝までたっぷり爆睡し、目を覚ますなり慌てて帰って行ったらしい。
 らしい、というのは、俺はあのあと、シャンクスにガキを押し付けて帰宅したからだ。
 この店では、泊まりの客なんて例外中の例外。今回のことは、単に深夜に学ラン着た奴を追い出して補導とかされて、万一にもこの店のことが話に出たらヤバいからだ。それに俺が付き合う義理はねェってもんだ。店で寝泊りなんて、冗談じゃねェ。
 それから十日くらいは、特に何事もなく過ぎていた。相変わらず、俺はお客サマ方にモテモテだ。
 この間なんか、常連のひとりのナツメという男が、久々でテンション上がったあまり部屋に入ろうとした俺に抱きついてきて、それがまたえらい勢いだったもんで、まともに倒れた俺は後頭部を強か打って脳震盪を起こしかけた。通りすがったギンが逆上してナツメを殴ろうとし、それを数人がかりで押さえ込むという騒ぎになった。
 このギンて奴。所謂ヤのつくアレな職業の男で、シャンクスと何らかの繋がりがあるらしくこの店の用心棒みてェなことをしてる。別にゲイではないと本人は言うが、俺に気があるのは一目瞭然。俺としてはなくはない相手だけど、残念。俺はオフィスラブとか趣味じゃねェんだ。というわけで、うじうじしてる奴をいいことに、テキトーにからかって遊んでいる。笑顔ひとつでうろたえる初心さは、けっこーアリだけど。
 まァ、でもこんなもんは大した事件でもねェ。商品に入れ揚げた客が刃傷沙汰、なんてことだってごく稀にだが起こることもある。それを未遂に防ぐのが、ギンの役割ってわけだ。

 さて、ナツメだが、当然怒ってギンを首にしろと喚いていた。しかし俺が宥めると一発で気を変えて、俺の後頭部を撫でながら甘えた声で謝ってきた。こいつも、俺の前じゃ素直でかわいー奴なのよ。
「ナツメさん、身体おっきいんだもん。俺、潰れるかと思ったよー」
 何とかギンを落ち着かせて、改めて部屋に入ると、俺は冗談めかしてナツメに文句を言った。
「ごめんねェ、サンジ。だって久しぶりなんだもん。会いたかったのよ〜。あ、コレ、出張先のお土産よ♥」
 ミズキと大して変わらないような体躯の男前は、似合わないオネエ言葉で俺に包みを差し出して笑う。オカマというわけじゃなく、フツーにゲイだが、デザイナーとかいう特殊な仕事柄、言葉遣いがはんなりしてくるらしい。一般的かは判らないけど。
 差し出された包みの中身は、多分ブランド物の財布。前回、財布がもうボロイとぼやいたから、間違いない。俺は嬉しげな表情を見せて礼を言い、開けていい? と上目遣いで訊いた。頷かれ、リボンを解く。
 予想通りの中身は、推定数十万の代物。数日前に俺がテキトーに自分で買った奴の、およそ十倍の値だ。これには、演技でなく笑顔が浮かんだ。
「ありがとナツメさんっ。大好き! 今日はいつも以上にサービスするね!」
「やん、ホント、嬉しい〜」
 ナツメはでかい図体をくねらせて照れて見せ、今度は加減をして俺に抱きついてきた。ここからがお仕事本番。
 俺はナツメをベッドへ誘い、少し乱暴なくらいの勢いで押し倒した。
「あん」
 小さく悲鳴を上げたナツメは、すでに興奮している。俺の客には多いが、Mっ気ががあるのだ。ムチとかそっち系じゃなく、精神的マゾ。言葉攻めとかを特に好む。
 そして当然、その日も俺は充分にナツメを満足させ、次の約束を取り付けたのだった。

 

 所謂貢物やチップは、すべて商品自身の懐へ入る。この店の給料は歩合制で、稼いだ額の一割と大して多くない。けど常連が増えれば、そいつらが結構な額のチップを弾んでくれるから、俺くらいになるとちょっと真面目にやれば月百万越えとかも余裕。
 貢物も換算すれば相当なのだが、俺は物は物としてもらっとく主義だから、よく聞くキャバ嬢やホステスみたいにいくつも同じものを貢がせて質に入れる、とかはしない。身に着けるものならちゃんとくれた客本人の前でだけ着ける。売れるためには、こーゆー誠実さとマメさも大事なわけ。
 おかげで俺の客は百%リピーターよ。ま、顔もテクも店一だしな? ちなみに客のツボを見抜くのもテクのひとつ。態度の使い分けもカンペキだぜ。

 

 前回の約束どおり、ミズキが来て。いつものように励んで、明日の飲み代、とかってチップをくれて、それが昨日のこと。
 翌日の夕方、休日の俺は久々に表のほうへ足を向けた。基本不定休だけど、一応は週休二日制になっているのだ、うちの店は。俺は月・木休み。週頭と週末近くは結構暇だから、何となくそうなった。ま、普段の日中だって休みみてェなもんだけど。
 俺は根っからのゲイで、バイってわけでもないから、性対象は当然のように男オンリー。でも、キレイな女の子は大好きだ。化粧をして着飾った女の子を肴に酒を呑むのが好きなのだ。
 で、休みの日は美しいレディたちが主役の表側の歓楽街へ出て酒を楽しむことにしているのだが。
 そこでものすごく場違いなものを俺は発見した。
 まんまるい緑頭。後ろから見るとマリモのようだ。今日は学ランじゃない、けどあんなクソ珍しい頭、見間違えるはずがない。

「……何してんの」

 大通りできょろきょろしていたガキは、俺の声に派手にビクついて、弾かれたように振り返った。そして俺を見て、ひどくホッとした表情をした。
「何お前、処女の次は童貞捨てに来たワケ?」
 んなわけねェ、とは思いつつ、俺は頭をかきながら訊いた。
 ガキはきょとんとしたあと、俺のほうへ駆け寄ってきた。
「あのさ、……あんたの店、引っ越したのか?」
「――――は?」
 何言い出したんだこいつは、と思っていたら、奴は困ったように周りに目をやって、
「駅から出てまっすぐ来たのに、見つからねェから……」
 うちの店は、確かに駅出てまっすぐ十分くらいのとこだが。
 ―――ここは逆出口側ですケド?
「こないだは、バイト先から近道しようとした途中であったけど、朝ちゃんと道確認して駅まで行ったんだ。なのにいくら歩いても駅に出ちまうし、変な女とか声かけられるし」
 ……薄々、判ってきた。こいつが前んとき店に辿り着いたのも、今日こんなとこでうろついてるのも。

「お前、迷子か」
「迷子って言うな!!」

 真っ赤になって怒鳴り返す反応の素早さに、こいつがそのやり取りに慣れていることが判り、それが事実であることが裏付けされたのだった。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



一旦切りま〜す。
ナツメさんのキャラは、結構好きです。カマじゃない(本人主張)オネエキャラ。
そして、ギンを出してしまいました。
セリフないけど。
客はオリキャラって決めてたけど、店の人間てことならいいかと思って。
チップの相場は決めてませんが、ミズキ辺りは5万以上でしょうね。
二時間+挿入アリなら、倍の額出してる計算ですね。
…まだ終わりが見えてません、この話。
'08.12.29up


 

 

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