LOVELY BABY
〜2〜



 学ランのガキは、俺をまっすぐな目で見つめていた。その視線を痛いほどに感じつつ、タバコを袂から取り出して一本銜えると、断りもなく火を点け、吸い始める。
 一応は客商売。本来煙草を吸う前に、お客サマに許可を得るのが当然の礼儀だ。いやまァ、そりゃ商売じゃなくてもだけどよ。
 けど、そんな余裕など俺にはなかった。

「……あー。おまえさ」

 十は年下だろうと思えば、口調も自然ぞんざいになる。ガキは特に気にした様子もなく、小首を傾げた。成長し切れていない感じの、まだ細っこい首が無防備に曝されて、ちょっと触ってみたくなった。
 いや、違うだろ。しっかりしろ俺。これに手ェ出したら犯罪者だぞ。
 しかし、と改めてガキを見る。
 すっきりと短く刈られた髪は、何となくスポーツマンっぽい爽やかさだが、色は派手な緑。今時の学校ってのは、コレOKなのか? けどスポーツやってんなら染めるとかアウトだろ。後ろにあるでけェバッグは知ってるぞ。剣道のアレだろ、胴着? 竹刀刺さってるし。
 つーか、健全っぽいスポーツマンがこんな時間に何でこんなとこふらふらしてんだよ。もう11時近いぜ?
 バリバリと後ろ髪を掻き毟って、じっと素直に俺の言葉の続きを待ってるガキに言う。
「一応訊くけど。ここが何するとこか、知ってんの?」
 ガキは、今度は首を反対側に傾けた。
 そのきょとんとした表情に、嫌な予感がする。
「……マッサージしてもらって……あと、話もできるって。……あの、オーナーっていうオッサンが」
 声変わりも完全にすんでないような、低くなりきれていない声が答える。
 マッサージ&トーク。
 それを額面どおりに解釈すれば、確かにそうだけどよ。
 ――おかしいだろ、それで一万とかって! おかしいと思えよ!! つーか何でこんなガキがフツーに払えんだよ。今時のガキってのはそんな金持ちなワケ?
 思いっきり深く煙を吸って吐いた俺を、ガキは相変わらずじっと見ている。あァこいつ。目が強ェな。そんな目ェして見つめてたら、ソッチの趣味の奴にゃ誘ってるように見えんだろな。危険すぎんぜ。
 ま、俺がそんなこと忠告すんのも妙だし、別に関係ねェけど。
 どうしたもんかと思ってたら、ガキが口を開いた。
「俺。さっき、あんたが店の外にいるの見たんだ。それで、中覗いたらオッサンが」
 ミズキを見送りに出たときのことか、と思い当たる。
 つーかシャンクスの奴、マジで何考えてんだ。いらっしゃいませ〜、とにこやかに笑う表情が容易に想像できる。捕まっても知らねェぞ。
 てゆーか。
 このガキ、マジなのか。
 その声にならない俺の疑問が聞こえたかのように、ガキは俺のほうへ身を乗り出してきた。
「あんたと話、したくて。だって俺、あんたのこと……好きになっちまったみてェなんだ……」
 頬を染めて、それでも目は逸らさずに。飾り気のない言葉は、奴のまなざしと同じく、まっすぐに俺に突き刺さってきた。
 真剣そのものの瞳は、間近で見ると髪よりも暗い緑色だった。てことは、この頭、地毛? ありえねェ。
 そんなあさってなことを考える自分が可笑しくて、俺は思わず口端を笑いに歪めた。

「お前って、金、あんの?」

 訊くと、ふっと奴の緊張が解けたのが判った。何を言い出すのかと、その表情が訝しげなものになる。
「いや、……今月のバイト代、もうほとんどねェ。十日後には入るけど。親から仕送り来るけど、家賃とかギリギリくらいだし」
 仕送りってこた、地方から出てきてんのか。じゃあこんな遅くにうろついてんのはバイト帰りってとこか。へェ、意外と勤労学生?
 あァいや、そうじゃねェ。んな情報が欲しかったわけじゃねェんだよ。
 俺はタバコを卓袱台の上の灰皿に押し付けて消し、その動きを目で追ってるガキに手を伸ばした。
 頬に触れると、びっくりしたように目を瞠る。やっぱり、何も判ってねェらしい。
「金のねェガキに、特別に教えてやるよ。ここに来て俺を買ったってのが、どういうことかを、な」
 別に金をもらっちまやァ、どうでもいいことだ。こいつがフツーにお話だけする気でいんなら、それに付き合ってやりゃいい。こっちも体力を使わず済んで楽ができるってもんだ。
 けど――まァ、気が向いたってゆーか。
 あんまりこいつが、真剣で、カワイイから。何となく、このまま逃がしてやるのがもったいないような気がしたのだ。
 ぐいっと首の後ろに手をかけて引き寄せると、簡単によろめいてこちらに倒れこんできた。スポーツマンらしく、ガキにしちゃ鍛えてあるみてェだが、まだまだバランスが悪い。体重もきっと、俺より軽いくらいだろう。
 触れそうに顔が近づいて、奴はぱっと顔に朱を散らせた。これくらいのことで赤くなって、本当に初心いな、こいつ。中坊かよ。
 こーゆー相手は珍しい、ってか初めてだ。何も知らない、無垢なカラダ。それを真っ先に汚すのが俺だと思うと、自分でも驚くほどに興奮した。
 初モノ好みなんて、今まで知らなかった。ここで勤め始める前だって、相手にするのは物慣れた、面倒のない奴ばかりだったのだ。
「ガキ。名前は?」
「……ゾロ……」
「OK、ゾロ。ここでの過ごし方、実地でレクチャーしてやるよ」
 にっこりと笑いかけてやれば、ゾロと名乗ったガキは、簡単にぽうっとなった。緑の瞳が潤んで、形のいい眉が顰められて。
 何も知らねェガキのくせに、なかなか色っぽい表情すんじゃねェか。
 俺は内心舌舐めずりをしつつ、真っ白い新雪のようなその身体に最初の足跡をつけるべく、さらに顔を近づけた。
 重ねた唇は、ふっくらと柔らかく、砂糖菓子のように甘かった。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



イケナイお兄さん・サンジ(さん)(←呼び捨てにできない)
次からエロに突入です。
でも、そんなハードではないかと…。
ゾロのご両親は、家賃と学費のみを出してくれてます。
食費や光熱費などは、自力で稼いでるのです。
剣道で有名な学校で、憧れの某大剣豪が部の講師をしてるので、
ご両親の反対を押し切って入学しちゃったのでした。
だから援助は最低限。
サンジさん視点のためきっと話題に出ない設定なので、ここで解説(笑)
'08.12.01up


 

 

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