LOVELY BABY
〜11〜



 にゃんこを正式に(?)飼い始めて、一週間が過ぎた。
 にゃんこがうちに泊まる率は高くなって、もういっそ今住んでる(ことになってる)アパートなんか引き払ってここへ来れば良いってくらいだ。ま、ご両親とか親戚とかの手前、そんなわけにゃいかねェけど。
 アパート代はご両親から振り込まれてくるし、週三くらいで親戚の道場に通って晩飯食ってくるし。俺もさすがにまだ、十五や十六のガキの人生背負うつもりはねェしな。
 にゃんこは今、俺のベッドで丸くなって眠っている。
 部活のあとバイトに入って、更にその後道場に行って。俺んち来て、っつか途中で当たり前のように迷ったのを回収してきたんだが、そんでまァ俺の気の済むまでヤりまくっちまったもんで、そーとー疲れたらしい。
 そんでも午後にはまたバイト。ヤりすぎた自覚はあるので、ギリギリまで寝かせてやろうと思って放ってるってワケだ。
 その俺は、ちょっと前まで付き合って寝てたんだけどいい加減目が覚めて、シャワーを終えたとこだ。
 飲み物を出そうと冷蔵庫を開ける。ビールが数本とミネラルウォーター、ガキ専用の牛乳くらいしか入ってない、小さなものだ。あとは惣菜の残りとつまみになるチーズとか、そんなくらい。ところが、そこになぜが四個入りパックの卵が入っていた。
 こんなもの買った覚えは俺にはない。てことは、にゃんこの仕業か。とりあえず後で訊こうと、ミネラルウォーターのボトルだけを取り出す。
 そういや、料理なんて年単位でしてねェな、とふと思う。作ってやりたいような特定の相手もいなかったし、自分ひとりのためにわざわざ作る気にもなれなかったしな。
 グラスに注いで冷蔵庫にボトルを戻し、テレビをつける。ソファに座り込んで見るともなしに見ていると、寝室のほうでガタゴトと音がした。時計を確認すると、十時を過ぎていた。バイトは十一時半入りらしいから、そろそろ支度をしなければならない時分だ。
 ドアの方へ目をやれば、ズボンを引っ掛けTシャツを手にしたガキが慌てて寝室から出てきた。
「おはよ」
「お、……おはよう」
 ガキはシャツを放り出し、キッチンへ行くと冷蔵庫を開けた。
「あァ、そうだ。その卵、お前?」
「え、あァ……」
「ふうん。料理すんの?」
 俺の問いに、件のパックを取り出しながらガキは答えた。
「ゆで卵と、ぐちゃぐちゃに焼いた奴なら作れる」
 スクランブルエッグのことだな、と解釈する。要するにはろくにできねェってことだな。
 ガキは棚を漁ってフライパンを引っぱり出し、砂糖はあるかと訊いてきた。甘いの好きなの、と訊き返したら、こくんと頷いた。味覚もお子ちゃまらしい。
 俺は笑って、ソファを立った。
「ゾロ、卵焼き好き?」
「……作れねェ」
 ムッと唇を尖らせて振り返った奴に軽いキスをし、その手から卵のパックとフライパンを取り上げる。

「俺が作ってやるよ」

 ガキはビックリしたように目を瞠って俺を見た。

 

 しばらく使ってなくて埃っぽくなっていたフライパンを念入りに洗い、専らインスタントの味噌汁用に使われている椀に卵を二個割り入れる。片手で割るのを見たガキが、またビックリした顔をしているのが可笑しい。
「サンジさんて、料理できんだ」
 卵を焼いている間じゅう、ガキは隣から俺の手元を興味深げにじっと見つめていた。時々、思わずといったふうに「おお」なんて感嘆の声が上がる。大袈裟な、と笑いたかったが悪い気はしない。
 手早く自分の分も作って、レンジに飯と惣菜の残りを放り込む。温め終われば、本日のブランチの完成だ。
 ガキは卵焼きを、それは美味そうに食った。店やれば、なんて気軽に言うから、笑って誤魔化した。
「今度はだし巻きにしてやるよ」
 あまりにも美味そうなのが嬉しくてそう言うと、ガキもまた嬉しそうに笑った。
 あのレストランを辞めさせられて、もうじき七年。誰かのために何かを作るのは、単なる卵焼きとはいえ本当に久々だった。

 

 

 ガキがバイトへ行くのを送り出した後、だいぶ早かったけれど俺も出勤した。店に着くと真っ先に、事務所に顔を出す。
「李梨ちゃん、厨房借りて良い?」
 領収書を整理していた李梨ちゃんに声をかければ、李梨ちゃんは不思議そうに、
「なァに、サンジ君が使うの? どうしたの珍しい、っていうか初めてじゃない?」
「ん、ちょっとね。食べたい奴いたら賄いにしちゃって?」
 経費が浮いて助かるわー、と李梨ちゃんはあっさりOKをくれた。
 ガキに作ってやった卵焼きで、何とゆーかコック魂に火が点いた。とにかく何か作りたくてしょうがない。昨日まで、ちょっとしたつまみだって買って済ませてたのに。
 スーパーで買い込んで来た食材を並べ、包丁を手にしたら、ますますうずうずした。何で忘れてたんだろう。忘れていられたんだろう。いつか、とかいずれ、なんて言葉で誤魔化して。夢を、ただの夢にしてしまうところだった。
 俺は、こんなにも、料理をすることが好きだったのに。

 途中、大部屋の奴らが覗いてきて、いつの間にか待機組が厨房に集まってしまった。ギンに至っては、厨房に立つ俺を見るなり何故か泣き出した。
 作ったのは何の変哲もない煮物だったが、まるでショーをやってるみたいだった。
 煮物を食いながらもギンは泣きっぱなしで、俺に昔話を始めた。何でも、怪我して動けず腹を減らしていたところを、俺にい救われたことがあるとか。いつのことだか判らんし、結構似たようなことを何度かしてたのでギンのことを覚えてはなかったが、俺に対するこいつの崇拝ぶりの理由は判った気がした。
「あんたの料理をまた食えるなんて、夢みてェだ」
 大の男がボロボロ泣きながら言うのに、夢じゃねェよと返してやった。
 そう、夢になんかしねェ。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



久々の続きです〜。
何というか、新展開★(?)
ここから展開が早くなるかも知れません。
ゾロたんとの絡みが少なくてアレですが、あの子は変わらずにゃんこです(笑)
ギンさん、やっとまともに出せた。出番は少ないけど。
あと3〜4話で終わる予定。は、未定(死)
何か、そんなんばっかですね、私…(遠い目)
'09.06.08up


 

 

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