花売り
〜4〜



 唇の端に付着したものを親指で拭い、舐め取る。男に言ったとおり、ペニスを咥えることは苦ではないが、精液の匂いと味は好きにはなれない。お上品そうなペニスを持っていてもやはりそれは同じなのだな、と妙な感心をしただけだ。
「……まだイケるか?」
 ゾロの言葉に男はニッと笑って、頭を撫でていた手を項へと滑らせた。耳の後ろを辿られると、無意識に肩が揺れてしまう。
 この男の触れかたは、何だか不思議だ。
 いやらしさを感じない。こんなことをしているのに。
「今度は私にさせてくれ」
 手を引かれ、柔らかなベッドの上に寝かされる。否、沈められると言うほうが近い感覚だった。普段は晒すとこのない肌を晒していることも手伝ってか、ひどく心許ない。
 男はゾロを見降ろし、うっとりと眼を細めた。
「きれいな身体だね。……滑らかで、とても美味しそうだ」
「な、に言って……」
「君のこの肌に触れた男たちが、憎らしいよ」
 さらり、と胸元を撫で下ろされ、その手を追うように唇が触れていく。ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てながら首筋から胸のまわりを啄ばむ唇に、その慣れない感触にもどかしさを覚える。
 他の男が憎いだと。ゾロは笑い出しそうになる。公衆便所にべたべた触れたりキスをする奴がどこにいる。ましてや、この身体がきれいだと? 頭がおかしいとしか思えない。
「なァ……もう、挿れろよ。まどろっこしい前戯なんざ要らねェよ、慣れてっから」
 さっき、風呂場で慣らしといたし。言うと、男がまた苦笑する。
 リビングスペースから持ってきてあったコンドームを枕元から取り出し、パッケージを開けようとすると、それを取り上げられた。
「……おいっ」
 少々苛立ってきて睨むが、男は構わずゾロの身体を再び撫でまわし始めた。ゆるゆるとした刺激に、それでも繰り返されれば息が上がってくる。
 早く終わらせたいのに。
 男のモノだって、また力を取り戻し始めているのが判るのに。
 恋人同士のセックス。それは、こんなだったろうか。赤髪の男は、こんなふうに自分を抱いたのだったか。
 もう、5年以上も前のことだ、覚えてなどいない。
 だけど、この男のように、焦げつきそうなほど熱いまなざしを向けてはこなかったし、ここまで、まるで壊れ物を扱うかのように触れられた記憶はない。
「なァ、……おいって! 俺ァ、こーゆーの好きじゃねェんだよッ」
 じわじわと、身を焼く快感。
 それでいて焦らしてでもいるのか、核心にはなかなか触れようとしない。
 こんなのは。
 身を捩るゾロを押さえ込んだ男が、くすりと笑んだ。
「君のかわいいところが、健気に勃ち上がって震えているよ。ココは、私のすることを悦んでくれているようだけれど?」
 そう言って、ようやくそこに手を伸ばす。ゆるく握り込まれ、息が詰まった。
「っ……あんたっ、サディストかよ……ッ!」
「まさか。ひどいことなどしていないだろう?」
 くちゅり、指を動かされるたびに水音がして、自分のものがすでに濡れているのが判り頬に血が上る。
 いつもの仕事なら、自分がリードして相手を気持ちよくさせているという意識が働いているせいか、快楽を得ても、こんな感情は湧いてこなかった。
 恥ずかしい、なんて公衆便所の感情ではない。どうしてこんなに、振り回される。

「――――っうあっ、……!」

 すぐにも達しそうに憤ったペニスを、温かな口内に含まれる。さすがにそれは、客にさせることではない。
 ゾロは慌てて、脚の間に埋められた金髪を掴んで引き剥がそうとした。
「や、っめ……っ」
「……何故? さっきは、君がこうしてくれたじゃないか。お返しをしているだけだよ」
「要、らねェ……!」
 ぬるりと絡む舌、滲む先走りを啜られて、腰が揺れるのを止められない。後孔に指が添えられ、くぷりと先を埋め込まれる。欲していた箇所へのぬるい刺激に、それでも脳が蕩けそうなほどの衝撃を覚える。
 これまで感じたこともないほど、きもちいい。
「あ……っも、出っ……」
 ふるる、と震える背を抱かれる。より深くまで昂りを呑みこまれる。
 きつく閉ざした瞼の裏に、光が爆発した。
 ゾロが吐き出したものをゾロがしたのと同じように嚥下した男は、やや力を失ったそれに、なおもしつこく舌を這わせた。
「――なァ、も……いーだろっ? はやく挿れっ……」
 達したものを解放されず、悲鳴のような掠れ声を上げたゾロに、まだだよ、と男は言った。
「まだ、全然足りないよ」
 すぐにまた勃ち上がったペニスを貪られる。気が遠くなりそうだ。
 これは、こんなのは――本当にセックスだろうか? この男は何か、自分に対して恨みでもあるんじゃないのか。
 でなければ、こんなふうに――男はひどいことなどしていないと言ったが――追い詰めるようなやり方。
「あぁっ……あ…やっ……」
 立て続けに追い上げられ、ただ解放させられるばかりで、ゾロはすでに意味のある言葉を継ぐこともできなくなっていた。
 ほとんど吐き出すものもなくなり、意識が朦朧とし始めたところで、ようやく男が押し入って来た。
 されるがままに揺らされながら、ゾロは男が自分を呼んだのを聞いたような気がした。

 ゾロ、と。
 一度も名乗ったはずのない名を。

 疑問に思う間もなく、すぐに何も判らなくなった。男の望むままに声を上げ、腰を振り、与えられる悦楽に身をゆだねる。
 だから。

 

 

「――――やっと、つかまえた」

 

 

 結局ゴムを使わなかった男が、ゾロの内部に放った後でうっとりとそう呟いたのを、ゾロが聞くことはなかったのだ。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



ようやく4話目です、すみませんm(__)m
サンジさんストーカー説急浮上(死)
なんか、途中でエロの書き方が判らなくなっちゃって(苦)、
無駄に苦しんだ回です。
しかし、結局桃木は、サンジさんに翻弄されるゾロが好きみたい。
サンジさんのほうでも充分翻弄されてるんだけど。
そこら辺は、おいおいと。
って、何話続ける気だよ!!(爆)
いえいえ、ホントにそんなに長くなりませんよ。
ただ、書き始めるまで予定していた全5話、は無理そうですが…(当然だよ)
'10.01.25up


 

 

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