誘  惑 〜side KAKASHI〜


 

 はじめて受け持つ部下の、元担任。
 俺にとってのあのひとは、ただそれだけの存在で、それ以上でも以下でもなかった。
 忍びとは思えぬほど感情が豊かで、生徒に対して過保護に過ぎるところがあって。変わったひとだなぁくらいには思っていたけれど。
 部下たちの中忍試験推薦の話があがったとき。
 あまりに過保護な彼に、少々きつく言いすぎた自覚はある。が、俺としては事実を述べただけで別に虐めたつもりはない。
 彼の言い分だとて、決して間違ってはいない。それも判っていたけれど、俺には俺のやり方がある。
 やさしく守られているばかりでは、あの子達は強くなれない。
 衆目の中、俺に噛み付いてくる彼は、いつもの能天気そうな笑顔からは想像もつかない、強張った表情で俺を睨みつけていた。

 ―――かわいいかも、と思ったのはそのときが初めてだった。

 

 まあ、いろいろあって。一応仲直り――と言うのも変だが。そもそも親しかった覚えもない――をした後。
 ふと気付くと、彼からの視線を感じるようになった。
 判らないほうがどうかしている、熱っぽいまなざし。切なげな瞳。それはひどく控えめなのに、何故か俺の意識にひどく引っかかってくるのだ。
 そんな表情もできるんだ、と感心した。
 目が合うと慌てて逸らしてしまうくせに、また次にすれ違うときには同じようにあのまなざしを向けてくる。

 ―――かわいいなあ、なんて思ってしまった自分に、驚いて。
 いつの間にか彼が、自分の『特別』になっていたことに、ようやく気づいた。

 

『俺、アナタに興味あるな』
『えっ?』
『一度、ふたりきりで話してみたいです。イルカ先生、良かったら今夜うちに来ませんか?』

 彼はポカンと口を開けたまま、すぐにその間抜けたかわいい顔が真っ赤になって。
 こくこくと、何度もちいさく頷いた。

 多分、彼も判ってる。誘った目的が、『話』なんかじゃないことを。それでも、彼は頷いたのだ。目の端に、不安げな色を滲ませて。
 彼の内心を判っていて気づかないふりをして、彼を自宅に招きいれた。
 おいで、と。
 玄関口で固まっている彼に手を差し伸ばせば、ぎごちない動きで近づいてくる。
 すぐに抱き締めて、ベッドに組み敷いた。

「カカシ、せんせ……」

 キスをしたら、縋るような目で名を呼ばれた。
 泣きそうな顔で、悲壮な想いを無理に自分の奥に押し込めようとしている。最初から、手を伸ばすことさえ諦めて。
 そんな表情をさせたのは自分だと、判っているけれど。

 ごめんね、ズルイ男で。
 だけどどうしても、アナタから言ってほしいんだ。

 

 ねえ、かわいいかわいいイルカ先生。
 お願いだから、
 はやく、俺を好きだと言って?

 

 

――――――end★

 



これまた短めのお話。
『誘惑』カカシ先生sideです。
口下手でも奥手でもなく、ただズルイひとでした。
結局何なのかというと、最後の三行が書きたかったのです。
あと、笑顔以外でイルカ先生に惹かれるカカシ先生を書いてみたかった(笑)

'07.04.09up


 

 

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