は つ こ い

 

 幼い子供のように、手を引かれて歩く。
 優しく、けれどしっかりと俺の右手を掴む彼の温かく大きな左手。
「部長……どこ、行くんですか?」
 身長差の所為でどうしても早足になってしまうのを悔しく思いながら、僅かに上がる息を押さえて声をかける。
 振り返る、カラーレンズ越しの笑み。胸がきゅうっとなって、息が詰まる。
 大好きなひと。
「もうすぐ、ですから。手塚君」
 …………だから、『どこへ』もうすぐ着くのか、と訊いているんだけど。
 俺の表情で言いたいことが伝わったのか、彼は今度は少しだけ困ったように笑った。そのまま何も言わず、また前に向き直って歩き出す。

 右利きの彼が、わざわざ左手で、左利きの俺の右手を掴んでいるのは、入部したての頃負った傷の所為。とっくに腫れも引いて、もう痛くなんてないのに、彼は未だに気を使ってくれる。
 俺だけに特別、じゃない。怪我をしたのが俺以外の誰かでもきっと、彼はそうする。
 そういう彼の優しさが好き。

 つながれた手のひらが熱くて、少し湿っぽい。緊張して、汗をかいているのだ。恥ずかしい。
 恥ずかしい、のに。
 俺は彼の手をぎゅ、と強く握り返した。
 彼はそれに少しだけ驚いたように足を止めて振り返り。
 また、微笑った。

 

 さあ着きましたよ、と。彼が俺の手を離したのは、小高い丘の上。初めて見る風景。
 離れてゆく温もりを惜しみながら、随分と高い位置にある彼の顔を見上げる。
「キレイでしょう?」
 言われて彼の視線を追うと、キレイな、キレイな夕焼け空。
 見下ろす町は薄いオレンジのベールに包まれて、昼間は真っ白だった雲が同じ色に透けている。
 確かに、とてもキレイ。一瞬見惚れて、言葉も出なかったくらい。だけど。
 俺は、どこか満足そうに空ではなく俺を見つめている彼を、見上げた。
「大和、部長。どうして俺を、ここに連れてきたんですか?」
 訊ねると、彼はきょとん、と首を傾げて。
「君と、この景色を見たかったから、ですよ」
「どうして、ですか」
 優しく柔らかな微笑みと言葉に、騒ぎ出す胸元を押さえながら、重ねて問えば。

「キレイなものを好きな人と一緒に観たいと思うのは、可笑しいですか?」

 

 言葉が出ない。
 この景色を目にした時と同じ、いや、それ以上に惚けた顔を、今俺はしてるんじゃないだろうか。

 好きな人。
 部長、ねえ、もう一度言ってください。
 それは、俺のこと、なんですか……?

 彼は、俺の呆然とした様子を、しばらくじっと見つめていたけれど。
 不意に、膝を折るようにして屈み込んだ。

 彼の無精ヒゲとカラーレンズ越しの優しい瞳がはっきりと俺の目に映って。そして。

 唇に、柔らかくて温かい感触がそっと押し付けられた。

 

「好きですよ、手塚君」

 

 囁きが、いつまでも耳の中に響いている気がした。
 瞬きも忘れて瞠った目の中に映るのは、どこまでも優しい、彼の笑み。
 と、その像が滲んで。

 ああ、待ってくれ。まだ、彼を見ていたいんだ。

 だけど溢れ出した涙は、止まってはくれなくて。
 彼の姿は、全く判らなくなってしまった。
 いきなり泣き出してしまった俺を不審に思っただろうに、彼はそぅっと抱き寄せてくれて。
 俺は、必死になってその大きな背中に手を回し、しがみついた。

 

「俺も、大和部長が、好きです」

 ようやく涙を止めて告げた俺に、彼は少し照れくさそうに笑い、「ありがとう」と言った。

 

 

 ずっとずっと、あなたが好きでした。

 

 

 

 



散文?駄文??
初大和塚です〜。
何か、異様に可愛い話で笑える(笑うなよ)
手塚の初恋は、大石か大和部長だろう、と思ってます。
(あ、大石は、うちの設定では幼馴染みだからです)
大和塚は、しばらくプラトニックで。
先に進めても良いのは、やっぱ二年後かな。
これだと犯罪でしかないので…(中一手塚、ロリ過ぎ)
もしかしたら、シリーズ化するかも。
…しないかも。(予定は未定ですから★)

 

 

モドル