〜WHITE〜

 

 校門を出たところで、手塚はそこに意外な人物を見つけて足を止めた。
「よぉ」
 口元にいつもの皮肉気な笑みを浮かべて片手を上げる男に、手塚は戸惑った。こんな所にいるはずのない男だった。
「………跡部」
 その名をどこか呆然と口にする手塚に、跡部は今度は可笑しそうに笑った。
 そこでようやく我に返る。
「何か用か」
「ちょっと付き合えよ」
 手塚は思わず空を見上げた。もう既に陽は傾いていて、とてもではないが早い時間であるとは言えない。一体これから何処へ行こうと言うのか。
 予告もなしに現れての誘いに、非常識さを感じたが、相手はあの跡部。議論は時間の無駄だろう。
 溜め息をついた手塚の反応を了承の意と勝手に解釈した跡部は、手を伸ばして手塚の左腕を取った。
「っ!」
 驚きと、乱暴に掴まれたことで感じた僅かな痛みに、手塚は咄嗟にその手を振り払ってしまう。
 跡部は一瞬ムッとした表情を見せたが、その原因に思い至ったのか、軽く舌打ちをすると今度は手塚の右腕を捕らえた。
 手塚の左肩。
 関東大会第一回戦の跡部との試合で痛めたそれは、まだ癒えてはいないようだ。無理もない、あの激しく熱く、そして充足感に満たされた試合の記憶を辿って跡部は思う。
 思い出すたび身体が熱くなる。初めて『手塚国光』という存在を何より特別に思っていたのだと自覚した、あの瞬間。
 手塚もそうであればいいと思った。そして、確かめたかった。
 自分が手塚に感じている『特別』の意味を。
 既に諦めているのか、手塚は跡部に手を引かれるまま、大人しく後をついて来る。何処へ向かっているのか判らないため足取りが戸惑いがちで、親の後をついて歩く子供のようで可愛いと、跡部は思った。179cmもある男に対する評価ではないが、そう思えたのだから仕方ない。
 大通りまで出ると、待たせてあった車の後部座席に手塚を押し込め、自らもその後に続いて乗り込む。ドアが閉まると、車は静かに動き出した。
「あ、跡部? 一体何処へ……」
 徒歩で行ける範囲のところへ連れて行かれるものとばかり思っていた手塚は、そこでようやく不信感を覚えたらしい。しかし、ここに至るまで行き先を訊かなかったというのは。
 ――――こいつ……そうじゃねーかとは思っていたが、めちゃめちゃ鈍かねーか……?
 おまけに、警戒心も薄いときている。知らない相手ではないせいかもしれないが、よく今まで無事に生きてこられたと感心してしまう。
 跡部は携帯電話をポケットから取り出し、手塚に渡した。
「家に電話しろよ。今日は泊まるって」
「………あ、ああ……」
 どうせ明日は学校は休みだしな、と意味ありげに笑う跡部に、ありがとう、と的外れな返事を返し、手塚は素直にそれを受け取る。
 ――――ただ鈍いんじゃねえ。コイツ、天然だ……。
 いきなり「泊まっていけ」と言われたことに何の疑問も感じていないらしい手塚に、少々脱力感を覚える。
 しかし、深く考えるのも馬鹿らしいと思い直し、自分にとっては好都合だと考えることにする。
 その時、道がカーブに差し掛かり、バランスを崩した手塚が跡部の腕の中に倒れ込んできた。
 ――――……!
 思わず息を呑む。
 頬に触れた、意外に柔らかい髪からふわりと香る、微かなシャンプーの香りと―――手塚の匂い。咄嗟に身体を支えようとしたのか、跡部の胸に突かれたしなやかな手。気のせいかと疑うほど一瞬のことだが確かに肩口に触れた、唇。シャツ越しの、その温もり。
「っ……すまん」
「あ、いや……」
 慌てて離れる手塚を、そのまま抱き締めたいと思った。きつく抱き締めて、そして――――。
 ――――確かめるまでもなかったかもしれねえな。
 シートに沈み込みながら、跡部は心の中でそう独りごちた。

 

「入れよ」
 跡部の家に着いてからずっと落ち着かな気に辺りを見回している手塚を、自室に招き入れる。
 すごい家だな、と言った手塚に他意はなく、素直に感嘆の表情を浮かべていて、跡部は苦笑した。そこに嫌味や卑屈さは欠片もない。本当にただ感心しているのだ。
「ご家族の方は? 挨拶をした方が良くないか?」
「いねーよ、んなもん」
 いたらびっくりだ、と思いつつ答える。家人全員の出張が重なる日を狙って、こうして手塚を連れ込んだのだから。
 だが跡部の素っ気ない返事をどう取ったのか、手塚が彼らしくなく困ったように目を逸らすから。
「………言っとくが、仕事でいないって意味だからな?」
「……そうか……寂しいな」
「はあ?」
 妙な勘違いでもしたのではと先回りをして言えば、返ってきたのはそんな言葉で。跡部は盛大に溜め息をついた。
 ダメだ。このまま会話を続けたら、コトが始まる前に萎えちまう……!
 もう、食事をしてシャワーを浴びて、なんて悠長なことを言っている場合ではない。跡部は部屋を突っ切り、奥の寝室へ手塚を引っ張っていった。中へと軽く押し遣り、後ろ手にドアを閉める。
 何が起こったか判らない、という表情で、おそらく本能的に危険を感じて後退った手塚は、ベッドに脚が当たると振り返り、驚いた表情をして首を傾げた。
「………随分大きなベッドだな。寝相が悪いのか?」
 心底不思議そうな手塚を、跡部は無言のままその大きなベッドに押し倒した。
 これ以上力が抜けることを言い出さないうちに、唇を塞いでしまう。
「あ、とべ……!」
 咄嗟に逃れて抗議をしかけた唇に、噛み付くようにして再びくちづけ、抵抗される前に両手を掴んで封じる。
 身長差は5cm足らず、体格にも差はほとんどない二人では、この体勢に持ち込まれてしまえば圧倒的に手塚が不利だった。もがいたために左肩に負荷がかかり、手塚は思わず悲鳴を上げた。
 ぬるりとした温かいものが、開かれた口の中に無遠慮に押し入ってくる。
 跡部の左手が、手塚のシャツにかかる。手塚は開放された右手で跡部の胸を押し返そうとするが、左肩の痛みに気を取られて、うまくいかない。塞がれた口腔内で暴れている跡部の舌を追い出したくて舌を突き出せば、逆に絡め取られた。
 思う様貪られて、頭の奥が痺れてくる。
 唇が自由になった頃には、既に手塚の息は上がっていて、跡部の暴挙に対する抗議の言葉すら口にする余裕もなかった。
 跡部は口の端を上げて人の悪い笑みを作ると、開かせた胸元に顔を埋めた。
「っな、や……何し……跡部っ?」
 慌てたように手塚が肘を突いて身を起こそうとするのを、彼の左手を絡め取った右手で防ぎ、白く滑らかな胸にある淡い色の飾りをいきなり舐め上げてやる。
「ひゃあっ!」
 思いがけず可愛い悲鳴が上がり、跡部は背筋を走った快感にゾクリと身を震わせた。上目遣いに窺えば、声を上げた手塚は真っ赤になって、空いている手で己の口を塞いでいた。
 跡部は喉の奥で笑った。
 そんなことをしたら、自ら逃れる為の手をも塞いでしまうことになるのに。
 押さえる必要がなくなり自由になった左手で、手塚の脇腹を撫で下ろしていく。竦み上がる肌を小気味好く感じながら、ズボンのベルトに手をかける。
 カチャカチャ、という金属音に、手塚は泣きそうな瞳で跡部を睨みつけた。本当は思い切り罵声を浴びせたいところなのだろうが、声を上げたくないらしくそれは目で訴えるだけに留まった。
 もちろん、跡部がそんなことで怯むはずもない。
 ジッパーを下ろして隙間から手を差し入れ、まだ何の反応も見せないそれを握り込む。
「! ――――…っやめっ……何でっ」
 羞恥に耐え切れず、手塚が悲鳴のような声で問う。口を押さえていた手は、自身を捕らえている跡部の左手にかかった。
「……それを、これから確かめるんだよ。どこまでできるかって、な」
 跡部は目を細め、手塚の首筋へ柔らかく噛み付いた。

 

 

 



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モドル