触れるだけならば、初めてではない。記憶を失くしていた間のことを除いても、幾度となく抱いた。隅々まで愛した。ただ、一箇所を除いて。 ずっと大切にしてきたそこを、自分が知らずに侵してしまった聖域を、今日、愛することを許されたのだ。 「……っ、ふあ……っ」 指で辿ったあとを追うようにくちづけていけば、いつになく過敏な反応が返ってくる。 無理に押し殺した、けれど堪えきれず漏れる声が、捲簾の下半身をたやすく熱くさせる。どんなに上等な女を前にしても、こんなことはなかった。 「金蝉……、膝、立てて」 可愛らしく尖った淡い色の胸の飾りを口に含みつつ促せば、恥ずかしそうに目を伏せながらも素直に応えてくれるから、嬉しくてつい笑みが浮かんでしまう。 咎めるまなざしに遭い、慌てて口元を押さえる。 他のどの部分よりもなお白い内腿を撫で、身をずらしてそこに顔を埋めながら窺うと、金蝉は真っ赤になった顔をそれでも逸らさず、捲簾のすることをじっと見つめていた。 足の付け根と、何度も味わった、まだ形を変えていない花茎へ軽くキスを送り、初めて目の当たりにする可憐な蕾に唇をつける。 こんなことをするのは初めてだったが、自然にそうしていた。嫌悪など、もちろん欠片もない。 「ん、んッ……!」 嫌、と言いかけて言葉を呑み、金蝉がぎゅうと目を瞑った。 「目ぇ開けてろよ。俺がお前にすること、全部ちゃんと見てろ……」 ちゅ、ちゅ、とくちづけを繰り返しながら言えば、それに応えて涙の滲む瞼が開かれる。濡れて揺れる、綺麗な瞳。 ぴくぴくと震えて透明な蜜を噴き零し始めた金蝉自身を手の中に収め、ゆるゆると扱き上げる。同時に小さな入り口へと舌先を埋めれば、金蝉の口から堪えきれず甘やかな悲鳴が上がった。 「ッあ、あんッ、けんれ…ん……ッ!」 まだ未熟な金蝉の性器は、捲簾の愛撫の前にたやすく陥落し、欲望の証を吐き出した。身を強張らせて白濁を撒き散らす金蝉自身をなおも擦りたて、最後の一滴までを絞り出すようにすると、捲簾は一旦顔を上げ、舌で弄っていたところへ今度は濡れた指を宛がった。 捲簾の唾液と金蝉自身が漏らした液とで濡れそぼったそこは、くぷりと小さな音を立てて捲簾の指を飲み込んでいく。 「やあ、んっ……」 「力抜いて、な。なるべく痛くないようにすっから」 金蝉にとっては、思い出したくもない―――けれど忘れようとしても忘れられないであろう記憶を、おそらく恐怖と痛みばかりがあったそれを、自分が与える快楽で打ち消してやりたい。 泣いて、鳴いて、何も判らなくなるくらいに感じさせてやりたい。 震える息を吐き出す濡れた唇を、くちづけで塞ぐ。懸命に応えてくる舌をやさしく吸い、根元を擽ってやると、果てて萎えた金蝉のものが再び硬度を増し始めた。 そうして宥めつつ、内部に差し入れた指で金蝉の感じるところを探り当て、きつすぎない程度にそこを刺激する。ぐちゅぐちゅといやらしい音がして、金蝉は初めての快感と羞恥に身を震わせ、瞳を潤ませた。 やがて、捲簾がやわらかくなったそこから指を抜き、変わりに昂ぶった自身を宛がうと、金蝉は安堵の表情さえ浮かべて捲簾の背を抱き締めた。 捲簾もまた、今までに感じたこともないような快さと満たされる想いに目を細め、金蝉が強請るままにキスを送った。 何度も、名を呼ぶのと同じように愛しげに。 触れ合うだけの、甘くやさしいキスを。
ふたり同時に欲を解放したあと、固く抱き合ったまま金蝉がふと捲簾の名を呼んだ。今にも眠りに就きそうな、どこか茫洋とした柔らかい声。 彼が何を求めているのか、捲簾には判っていた。最期と覚悟した時の想いがよみがえる。 次の世の約束なんか、要らない。 金蝉でない金蝉や自分でない自分が結ばれようと別れようと、そんなのはどうでもいいことだ。 自分たちにとって大切なのは過去でも未来でもなく、いま、この時だけなのだから。 だから間違えたりしない、誓いの言葉は。 「最期の時まで、ずーっと一緒にいような」 金蝉が微笑む。その手を、強く握る。 たとえこの先何があろうと、二度とこの手を離したりしない。
END
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