「さあ。……どうするの……?」


Winding Mind


 短くない付き合いの中でも数度しか見たことのない素顔を曝したカカシが、その双眸を細めて笑う。
 見惚れるほど美しく、それでいながら見ている者の背を凍えさせるような、冷たい笑み。
 その傍ら、寝台の白いシーツの上には、捕らわれた獲物が横たえられている。
 虚ろな目で、戒められた両手をもぞもぞと動かしている、黒髪の男。
 彼のことは、アスマも良く知っている。担当下忍たちのアカデミー時代の担任教師で、顔の真ん中に一文字の傷を持つ中忍・うみのイルカだ。
 彼から目を逸らせぬまま、アスマはただその場に立ち尽くす。
 そんなアスマの様子を見て、カカシがくすくすと可笑しそうに笑った。

「何を躊躇ってんの? ずっと犯したいと思ってたんでショ……コレのこと」

 違う、と。
 ――――――否定することができず、アスマはただ唇を噛んだ。
 自分の情人をこんなふうに拘束し、あまつさえ他の男に目の前でその身体を抱けと言う。カカシの思惑が判らない。
 あんなに大切にしていた―――ように見えた―――イルカを指して、『コレ』と言った。まるで、物扱いだ。表には出さないものの、アスマはかなり動揺していた。
 まるで石にでもなったかのように動かないアスマをしばらく眺めていたカカシが、やがて「ああ」と何かを納得した素振りで頷いた。
「心配することないよ。視覚と聴覚と嗅覚を一時的に閉じさせているからね。犯した相手がアンタだなんて、判りやしないよ」
「……お前!」
 思わず声を荒げると、カカシはスッ…とその面から表情を消した。

「今サラでしょ、アスマ。コレは中忍で、俺たちは上忍だ。……お互いにこれまで、そうやってきたんだからね」

 息を呑んだアスマは、さっと寝台に目を走らせた。
 現状を把握しきれていないイルカが、それでもさすがに不安げな表情で情人を呼ぶ。
 カカシさん。
 その途端に  抑え切れぬ感情が迸り、気づいたときには彼の上に圧し掛かりその唇をくちづけで塞いでいた。

「なに……、だ、れ」

 見知ったそれと違う感覚に驚いたのか、イルカが呻く。嫌がってかぶりを振るのを押さえつけ、もう片方の手で強引に上着を引き裂き肌を露わにさせた。
「っぅう……っ!」
 見えていない目が、見開かれる。
 ただひとこと、名を呼ぶ声だけで理性を失ったアスマは、乱暴な手つきでイルカの肌をまさぐった。
 背後でカカシが「あーあ。まるでケダモノだねぇ」などと揶揄うが、それに応える余裕などすでに欠片もない。
 ずっと欲しかった。
 カカシの言ったとおりだ。自分はずっと、この男を犯したくてたまらなかったのだ。
 それを見透かした上で、カカシは「一晩限り」という条件付で彼の身を差し出した―――否、そうすることで、釘を刺したのだ。
 そして。

「嫌……、いやあっ、カカシさん、カカシさんっ!」

 涙をボロボロと零し、疑うこともなくただひたすらに情人の名を呼ぶ。悲痛な声。それにも、カカシは表情ひとつ変えない。心を掻き乱されているのは、アスマだけだ。
 イルカの泣き声が、胸に突き刺さる。痛くて、でもこのまま止めてしまいたくない。
 今晩限りなのだ、彼を自由にできるのは。
 カカシがどんな気まぐれで許そうと思ったのかなどどうでもいい。
 どんなに拒まれ、泣かれても、たった一夜のことでも。
 イルカを支配することができる、今のアスマにとってはそれがすべてだった。
 じたばたと暴れる脚を掴んでおおきく開かせる。ヒッと鋭く喉を鳴らし、イルカが怯えた表情で見えない相手を見上げる。
 アスマは目を閉じ、まだ固く閉ざされたままの彼の内部へと一気に自身を突き入れた。上がる悲鳴を無理やり意識から追い出し、自らの快楽だけを追う。

 

 カカシがそれをどんな顔をして見ていたかなど、もはや確かめる余裕などアスマには残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ね。これで判ったでしょう?」

 アスマを帰したあと、意識を失っているイルカの感覚を元に戻してやると、カカシは脱力しきった身体を大事そうに抱え上げた。そのまま浴室へと向かう。
 汚れた身体を背中から抱き、湯船の中で丁寧に洗いながら、項に唇を押し当てる。それから、涙の痕が残る頬に、まだ濡れている瞼に。
「―――アナタは、俺じゃないと駄目なんだってこと……」

 

 ただ、それを思い知らせてやるために今晩のことはあったのだ。
 イルカを見るアスマの目に、自分と同じものを見つけてしまったから。
 そんなアスマを、イルカが無防備に「良いひと」などと信頼を寄せるから。

 思い知らせたかった、このひとは自分だけのものだと。アスマに、そして何よりもイルカ自身に。


「ねえ、ぜんぶ洗い流してあげるから。ぜんぶ、忘れさせてあげるから。だからずっとここに、……俺の傍にいてね」

 アイシテルヨ。

 目を覚まさないイルカにくちづけて、カカシはまるで壊れ物に触れるようにそっと―――彼を抱き締めた。







カカイルオチでした〜(最初からバラしてるよ!)
この話のアスマ先生は、イルカ先生と幼馴染ではないです。
その設定だと、この展開に無理ができちゃうんだよなあ(^^ゞ
私は、何かどっか壊れてる感じの攻が好きみたい。
ひたすらベタラブ甘々〜なのも好物ですが。
カカシ先生は、ホンットーにイルカ先生が好きで好きでたまんないんだよ、
…ってのを感じていただければ…と思います。
っつーか、パラレル以外で「カカシさん」て呼ばせたの、初めてだ(笑)
'05.12.12up






モドル