×× 禁 句 ××
久しぶりー、会いたかったー! と少々大げさなことを言いつつ、俺は手塚に抱きついた。 言っとくけど、もちろん周りには誰もいないよ? ヒトマエでそゆことすると、手塚が怒るからねー。あ、ちなみに、ここは手塚んちね。 とにかく今は、13日と18時間ぶりの二人きりを思いっきりたんのーしたかったのだ。それには、それまでに手塚を怒らせちゃイケナイ、ってゆー、当たり前なんだけど重要な、絶対条件があって。 だからホントは会ったとたん抱きつきたかったのを、手塚の部屋に上がるまでガマンしてたんだ。 そのままちゅーしようとしたら、鼻の頭にむにっと当たるものがあった。 ほえ……何コレ。ノート?? にゃんで、ノートが……。 「菊丸。お預けだ」 にゃにゃっ! どゆこと、手塚!! 顔を離したら、目の前にあったノートがずらされて、珍しくもニッコリと微笑んでいらっしゃる愛しいコイビトのカオが覗いた。 「不二から聞いた。課題が出てるんだろう。先にこれを片付けろ」 俺が見てやるから、と言われて、手にノートを押し付けられる。 確かに、数学で課題が出てて、それの提出期限は月曜日、だったりする。でもいつもこーゆーのは、当日の朝不二に写させてもらってるんだよにゃあ。………真面目な手塚には、そんなこと言えないけどね。 てゆーかそんなことより、せっかくの二人きりで、にゃんでおベンキョーなんかしなきゃなんないのよ。 「そんなの、後でいーじゃん。それより、しよ?」 「…………菊丸」 「だってせっかく久しぶりなのにっ! 時間もったいないじゃんっ」 ノートを放り出して、もう一回手塚に顔近づけたら。 にゃんか………何? 手塚、めちゃめちゃ怒ってるみたい……!? 「優先順位を間違えるな」 ぐいっと、顔を押し返される。 何それ。 俺とえっちするより、勉強のほうが大事ってコト? そりゃ――――――勉強が大事っていうのは判るよ。でもそれって、二週間ぶりにやっと二人きりになれたコイビトと触れ合いたいっていう気持ちより大事なワケ……!? ムカムカムカ。 むしょーに腹が立って、俺は置いたばっかの自分のラケットバッグを拾い上げた。 「俺、帰る」 「勝手にしろ」 冷たい声で返されてしまえば、俺のほうも意地を張り通すしかなくて。 「手塚のばかっ、大っキライ!!!」 後で思えば情けないような、子供っぽい捨て台詞を投げつけて、俺は手塚の部屋を飛び出した。 結局、次の日の部活の時も、手塚とは一言も喋らず終いで、月曜の朝練でもそのままだった。 課題は、朝練が終わってからいつものよーに不二に見せてもらって何とか提出。お礼にお昼のパンを奢ってあげた。 「……ってさ。ひどいと思わないっ?」 お昼を一緒に食べながら、俺は手塚への溜まりに溜まった不満を不二にぶつけていた。聞いてる不二が、顔は笑ってるけど心底ウザイと思ってるのは判ってる。けど、言わずにいられない。 「けど良くないよ? 英二。手塚はキミのこと思ってくれてんだから」 「だってやっと二週間ぶりでできるのにさ、俺ずっとガマンしてたんだよっ! それに不二は写させてくれるじゃん〜」 「そりゃ、僕は英二がバカになろーがダメになろーが関係ないからねぇ」 ジュースを飲みながらさらりと言われて、一瞬言われた意味が判らなかった。判って、思わず絶句する。コレが友達のセリフか!? ――――――俺は、深く追求しないことにした(お利口な判断ナリ)。 「………まぁ、アレだね。手塚と別れるんならいいコ紹介するよ? 手塚と違って、すぐヤらせてくれそーなコ」 男が良いなら探してあげるし、とか溜め息混じりに不二が言う。 「何それっ! ヤれれば何でもいいみたいにっ!」 失礼な、と怒って見せたら、不二の冷たい目。 「そう聞こえるんだよ、英二の言い分聞いてると」 ヤりたいだけ、みたいに。 俺はあんまりな言われように、固まってしまった。 そんなこと、あるわけないじゃん。俺は、手塚が……手塚だから………。 「キミから話を聞いただけの僕がそう思うんだから、手塚は尚更だろうね」 『優先順位を間違えるな』 手塚が言った言葉を思い出す。アレは、勉強じゃなくて……そういうこと、だったの? 「…………っ俺、ちょっと行ってくる!!」 食べかけのパンの残りを一口で頬張って、俺は教室を飛び出した。 後に残された不二がボソッと、「あー、やっと静かになった」と言ってるのが聞こえてきたけど、それは聞かなかったことにした。 「てづかぁっ!!」 バシーン!と、跳ね返ってくるくらいの勢いで3年1組のドアを開ける。そのままずかずかと中に入り、ビックリしてる手塚の腕を掴んで引きずるみたいにしながら廊下へ出る。その間、他の奴らは一切目に入ってこなかった。 意外にボケたとこのある手塚が我に返る前に部室まで引っ張っていって、ドアを開けて中に押し込める。1組の教室に行く時に2組に寄って、大石から鍵をもらってきてたのだ。 「っ、菊丸……?」 手塚はまだビックリ顔のままだ。 俺は大きく息を吸い込んで、手塚が何か言おうとするのを遮って言った。 「ごめんっ!!」 叫ぶとか、怒鳴るとかいうほうが近いかもしれない。言って、ぎゅうっと手塚を抱き締めた。 「キライなんて言ってごめん、ウソだからっ。大好きだからねっ!」 ビクッと震えた手塚が逃げようとする前に、一気にそれだけ言う。色々言わなきゃなんないことはあるんだケド、やっぱり一番に伝えたいことはそれだった。 たった一回でも、勢いだけのウソでも、これだけはぜっったいに言っちゃいけないことだったから。それでなかったことになんかできないけど、俺は何回も何回も「大好き」って繰り返した。手塚が真っ赤になって「もういい」って言うまで。しつこいくらい、何回も。 「大好き……手塚」 「……もう、判ったから………」 手塚の手が、躊躇いながらも俺の背中にまわってきた。そのままそっと、俺を抱き締めるみたいに力が込められる。 それだけで、叫びたいくらい幸せ。 そうだよ。 そりゃえっちもしたいけど、したいに決まってるけど、それは相手が手塚だからで。 何より一番大事なのは、そこに手塚がいるっていうこと。 これが、手塚の言ってた『優先順位』なんだね? 俺は何だか、数学の難問を解けた時みたいに嬉しくなって、手塚のおでこに自分のおでこをくっつけて、えへへっと笑った。 「俺、しばらくえっちできなくても、ガマンできそう」 そんなに長くはもたないだろうけど、そんなことを思って、それを口にした。少なくとも今は、その気で。 ――――――そしたら。 「………それは困るな」 ふ、と微笑った手塚が、顔を傾けて――――――俺に、キスした。 「て、てづかっ?」 「……今、したい……俺のほうが………」 囁きに――――――頭の中がバクハツするかと、思った。 こんなとこでスルのは、初めてだった。しかも、もう昼休みは終わってる。授業をサボることに、あの手塚が全く躊躇わずに頷いた。 ドアの鍵を掛けてから、改めて抱き合う。 いつもよりドキドキする。手塚のシャツの釦を外す指が震えたのを、笑われた。 大好きが溢れすぎて、止められない。 「にゃんか、キンチョーしてる……」 そっと囁いたら、熱っぽく潤んだ手塚の瞳が、困ったように少し逸らされた。今度は俺が、笑う。 朝練の後自分のロッカーに突っ込んだままにしていたタオルを引っ張り出して、ベンチに敷く。その上に、手塚を寝かせた。 皺になりそうなズボンをさっさと脱がせると、恥ずかしいのか、手塚の目元が赤く染まった。 それが、めちゃめちゃ可愛い。 何度目かのキスをしながら、手を胸に這わせる。手塚の肌は白くてすべすべしてて、触ってるだけで気持ちいい。そのまま手を滑らせて、指先が胸の先を掠めると、塞いだ口の中で手塚が小さく声を上げた。 キスを止めて、その可愛いピンクの粒に吸い付く。 「……ゃ……ぁ……っ」 ビクンと跳ねた手塚が、微かに声を漏らす。 恥ずかしがってる声がタマンナイって言ったら、やっぱり怒られるかにゃ? 「大好き、手塚」 呪文みたいにその言葉を繰り返すと、手塚の腕が伸ばされて、俺を抱き締めてくれた。 午後の授業をサボって、初めてお互いの家以外でしたセックスは、久しぶりだったこともあってすごくコーフンして。 結果、部活どころかろくに動くこともできないくらいぐったりした手塚に、「誘ったのは手塚じゃん!」にゃんて責任転嫁もできなくて。 実際、「もうヤダ」って言った手塚を無視して続けちゃったのは俺なワケで。 俺はひたすら、ゴキゲンナナメのコイビトに謝って謝って、謝り倒したのだった。
欲望に負けました(爆) |
※ブラウザでお戻りください※