食 欲

 

 たべたい。
 いとしいあのひとの首筋に牙を突き立てて、怯えて逃れようとする身体に爪をかけて。
 ずべて自分のなかにおさめてしまえたら、どれほど安心できるだろう。

 

「…………アンタ、馬鹿でしょう」

 

 顔をしかめて彼が言う。閨でするような話ではないと。
 だけど、愛し合ったあとは特に強く、そう思うのだ。
 溜め息をついてさっさと背を向けてしまう、つれないひと。
 ひとりで眠りに就こうとする彼を、引き止めたくて。
 少しだけその身体を押してうつ伏せにさせ、おおきな傷痕を残す背に、そっと唇を寄せる。
 ちゅ、と音をわざと立ててやれば、ビクンと大袈裟に跳ねる身体。まだ、完全に熱が去ってはいないらしい。
 しっとりと濡れた肌。ほつれた黒髪。その間から覗く、白い項。

 思い切り食らいつきたい。

 

「……あ………ッ」

 

 でも。
 いとしい彼を血まみれにしたいわけではないから。
 緩く歯を立てるだけにして、薄くついた噛み痕に舌を這わせてやった。

 陽に焼けていない白い肌が、すうっと桜色に染まっていく。
 背後から覗き込んだ横顔は真っ赤。
 燻っていた熱を煽って再び火をつけてしまったことは、明らかで。

 

「ダ、メ……!」

 

 するりと手を脇から滑りこませ、胸を弄ると、焦った声で制止してくる。
 けれど、止めようとして腕を掴んできたのだろう手は、まるで縋るみたいに緩く爪を立てるだけ。
 欲情したねこのように浮かせた腰を押し付けてきているのを、自分では気付いていないらしい。
 引き締まった尻はそれでも他の部分よりも弾力があって、そこにも食いつきたくなる。
 衝動に抗わず、一旦身を離して片方の尻にちゅっとくちづけた。

 

「も……ッ、明日、早いんじゃないんですか……!?」

 

 びくっと震えた彼が、身を捩りながら訴えてくる。
 確かに、明日は早朝からの任務だけれど。
 このまま、お互いに熱が下がらないままじゃ、眠れやしないでショ?

 突き出させた尻を両手で掴んで、ぐっと力を入れ狭間を曝させる。
 先まで男の欲を受け入れていたちいさな蕾は、まだ赤く腫れぼったくて。
 体内に吐き出された精を飲みきれず、口端から少しだけ零していた。
 ぐらりと、脳が痺れる。

 ここに、もっと注ぎ込みたい。
 食われたい。

 張り詰めた肉棒を性急に押し込むと、彼はねこのように甘えた声で鳴いた。

 

 食べたいのも、食べられたいのも。
 その根本はつまり、同じ感情。

 

 

「好きですよ……イルカ先生」

 

 喘ぐのに忙しい彼は、それでもちいさな声で「俺も」と返してくれた。
 同時に、快楽により貪欲な彼の一部が、銜え込んだモノを一際きつく食い締めて。

 もっていかれそうになるのを何とか堪え、代わりに彼のなかを思い切り食い荒らした。

 

 

end.

 

 

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ポエム的な。(どこが)
裏に置くほどのもんでもないんですけど、
一応、大したことなくてもH描写が入ってるんで。
突っ込んでるほうが食われてるんじゃ?っていうのは、
最遊記の初期に八三で四コマ描いたな〜(笑)
…あまり深く考えず、スルーしてください、この話は(死)
'07.08.06up