真白なシーツの上に身体を投げ出し、未だ眠り続けるひとは、奇蹟のように美しく。
いつまでもこのまま見つめていたいと、思わずにはいられなかった。
小さく身動いだそのひとが、僕の見守る中でゆっくりと瞼を上げた。長い睫毛が震え、その下から宝石のような瞳が現れる。
まだ意識が朦朧としているのか、焦点の合わない双眸が幾度か辺りを彷徨った後、ようやく僕を捕える。
僕はいつものように微笑んで見せた。
「お目覚めですか、金蝉?」
「………天……ぽ……?」
やや回らない舌で、僕の名を呼ぶ。状況がいまいち把握できていないらしい。
延ばされた僕の手が純白い衣を解いてゆくのを、ただぼんやりと見下ろしている。
薬が抜け切っていない所為で、思考力がかなり落ちているのだろう。
好都合だった。
すっかりと一糸纏わぬ姿にされても、金蝉はまだぼうっと僕を見ていた。
戒める必要も、押さえつける必要さえない。
僕はその滑らかな肌に、当然のように指先や唇を這わせていった。
「……天……!?」
ようやく自分が何をされているかを理解したらしい金蝉の瞳が、驚愕に見開かれる。
「天蓬っ! 何を……っ!?」
「判りませんか?」
力の入らない腕で必死に抵抗してくる金蝉を、僕は一旦顔を上げ、優しげな笑みを浮かべて見つめ返した。
「―――貴方を、壊して差し上げるんですよ」
殊更にゆっくりと、幼い子供に言い聞かせるかのようにそう囁きかける。
愛したいのではない。二度と元には戻れないくらいにメチャクチャに壊すこと、それが僕の目的だった。信じられないと言うように呆然としている金蝉の両足首を徐に掴み、思い切り開かせる。
「……嫌だ! 天蓬、嫌っ……!」
羞恥の余りか、殆ど泣き声になってしまっている悲鳴も無視して、奥まったその箇所を指で撫で上げた。鋭く息を飲む気配に、自然に笑みが浮かぶ。
そう、”彼”に――――いつか貴方を奪られてしまう前に。
僕が、貴方を壊してあげる。
何の準備もしないまま強引に押し入ると、引き裂かれる痛みに金蝉の喉が声にならない絶叫を放つ。そのまま容赦なく貫き通すと、傷付いた蕾から流れた鮮血が、シーツにぱたぱたと音を立てて滴った。
見開かれたままの瞳から、涙がとめどなく溢れ出す。
”彼”のおかげでトラウマから解放されようとしていた金蝉。”彼”によって優しく導かれ、愛されてひとつになれるはずだったのに。
でもごめんね。
僕はそれを許すことができなかった。
僕以外のひとに心を許す貴方を、これ以上見ていたくない。それくらいなら。
あの時とは違う、今度こそ金蝉は完全に壊れてしまうだろう。他の誰でもない僕の手によって、薄れかけた傷を暴かれ、切り開かれ、更に深く抉られるような行為に耐え切れず。二度と戻れないほど、無残に。
ああ、判ってる。
君は何も、悪くない。
金蝉の美しい紫色の瞳が、ひび割れたガラス玉のように輝きを失う。
半ば意識を飛ばし、ただ揺さ振られるままになっている力ない痩身を、思う様貪って。
僕は貴方を手にいれ――――――そして、永遠に失うのだ。
イタ過ぎます…ごめんなさい(T_T)
天蓬FANの方及び天金らぶらぶ派の方には本当に申し訳ないです。
でも、うちの天ちゃんてどーしてもこんなんなんだよなぁι
これは、その内UPしようか思案中の限定本、
「キミノスベテハボクノモノ」という天→金の続き…みたいなんですが。
でもあの本はベース空金。この話はベース捲金。
………何でやねん。
とりあえず、この話は今とろとろ書いてる天金出会い編にもリンクしてます。
そう、能天気な話に見せかけて、外伝ネタは全て暗くて深いんです…(死)