何故、こんなことに今になって気付いてしまったのだろう。 何故、今まで気付かずにいたのだろう。 俺はアイツに、一度たりと「好きだ」と告げたことがない。
告 白〜手塚Ver.〜
思わず自分にツッコミを入れてしまう。いや、本当に冗談でなくマズイ。仮にも、こ、……恋人同士、なんだぞ? そりゃ……確かに、始めは何だかよく判らないうちに付き合うことになってしまっていて、自分が本当にアイツを思っているかいまいちハッキリしなかった。多分に流されているような自覚もあった。 それでも、いくら俺が周りから鈍いと言われていようと、好きでもない、それも男となんてキ、……キス……なんて、絶対しない。 尤も、奴が仕掛けてきて、それを受け入れてしまったことで、ようやく自分の気持ちに気付いたのだから、鈍いと言う意見を否定はできないが。 確かに俺は鈍い。その上頭も固くて、時々我ながら嫌な奴だと思わなくもない。何度か既に身体を重ねたが、実は未だに同性同士でというより自分たちが中学生であるということに抵抗がある。滅多なことではOKを出さない俺に焦れて、アイツが不満そうな表情をしているのを見ると、なおさら意地になって拒んでしまう、ムダに頑固なところもあったりする。 そもそも、どうしてアイツが俺なんかを好きなのか。疑問というよりもはや謎だ。 「手塚はねぇ、すっごくキレーでカワイイんだよん。自分では判んにゃいかもしんないケドっ」 何故とストレートに訊いてみたところ、返ってきたのはそんな答だった。嬉しそう、というよりは幸せそう、と表現するほうが近い、全開の笑顔でアイツが言うのに、俺は首を傾げるばかりだ。 キレイ、というのは何だか判らないが、カワイイ、と言うなら周りから可愛がられているアイツの方だろう、と思う。人懐こくて元気の良いアイツは、先輩にも同学年にも、後輩にも人気があった。告白を受けた時には、どうしてそんな奴が、よりにもよって面白味の欠片もない俺を選んだのか、本当に理解できなくて。 「少し、時間をくれないか」 「……うん。待ってる」 アイツは俺が困っていることを知って、微笑んでくれた。 部活動や勉強や生徒会。考えることややるべきことは溢れていて、その時までは、恋愛なんてものは自分には遥か遠い世界の話のように思っていたのに。 「スキだよ」 そんなふうにあっさりと口にして、俺を抵抗できなくさせてしまう。 触れる手も、唇も、もはや余すところなく俺を知り尽くしている。きっと、俺自身以上に。 子供じみた態度で抱きついてきたりなどしながら、ふと気付くと、大人の男のような表情で微笑みかけてくる。 俺の、恋人。 名前は――――――菊丸英二、という。 「手塚ぁ、キモチイイ?」 相変わらず、答えられないような状態の時に、答えられないようなことを訊ねてくる。 ひたすらみっともない声を上げたくない一心で何とか気を散らせようとしている俺は、唇を噛んで首を振った。 「ねぇ、言ってくんないと判んにゃいよ? もっとヨくしたげるからさ、ね?」 久し振りにゃんだし、お互いにキモチよくなろーよ。 睨みつけてやろうと思って、きつく瞑っていた目を開けた。次の瞬間、思いきり後悔した。 大きな目を細め、上から見下ろしてくる菊丸の表情――――その、眼差しに。 欲を滲ませた"雄"を感じてしまって、思わず喉を鳴らしてしまった。 ふざけたような喋り方をしながら、あんな表情をするなんて、何て奴だ。カーッと顔が熱くなる。マズイ、今絶対………真っ赤だ。 菊丸が驚いたように目を見開いて、そして顔を近づけてしつこいくらいにじっと見つめてくる。 「………手塚」 うるさい、あまり見るんじゃない。大体お前は無神経なんだ。こーゆー時は見て見ぬ振りをしろ、馬鹿者がっ。 「かわい――――っ♥♥」 ぎゅむ。 うわっ、バカ、重いっ! いきなり抱きつくなっ! しかも「可愛い」とは何ごとだっ!? 「もー、手塚ってば可愛スギ! そんな可愛い顔されたら、オイラ、燃えちゃうよん♥」 え、ちょちょっと待て。 力いっぱい抱きついてきていた菊丸が、そのまま鎖骨の辺りに吸いついてきて、俺は焦った。感じる微かな痛み。このバカ、跡つけたな。そんな目立つ所に……! などと考えているうちに、菊丸の手が、とんでもない所に伸びてきた。 「あ、ちょ、菊丸……っ!」 「英二、でしょ?」 咎めるような言葉と共に、指が……押し入ってくる。いつまでも慣れない異物感と圧迫感に一瞬、息が詰まる。さっきまで慣らされていたから、痛みはないが――――ちょっと、苦しい。けれど、そのまま中で指が入り口を広げるように蠢き始めると、下半身が重く疼きだした。 吐き出した息が、震える。圧迫感が増したことで、中に埋められている指が増やされたことが判った。 「んっ……! き、くまる……っ」 「……ん、悦い? ね、手塚。もう入れても大丈夫そう?」 う。あ、脚に当たってる……コイツの、かなり熱くなってる。当たってる……というか押し付けられてる……? 甘えるようにお伺いを立てられて、見上げれば、菊丸は困ったような表情を浮かべていた。あまり、余裕がないようだ。 俺はふと、思いたった。 今まで言えなかったのは、俺が何か言うより先にコイツが喋り倒してる所為だ。もしかして、今日は………言えるかもしれない。 「………英二」 俺は招くように脚を開き、菊丸の耳元に唇を寄せた。行動も、その名を呼ぶのも死ぬほど恥ずかしかったが、目を瞑ってそれに耐えた。 指を引き抜かれたそこに、間を置かず菊丸のものが押し当てられる。先を濡らしているそれは、いつもより熱くて、カタイ……気がする。 「て、づかっ……」 グッ…と先端が押し込まれる。苦しい……けど、痛くはない。大丈夫みたいだ。ホッとして力が抜けたところを、一気に貫かれた。 「……っごめ……動く、よっ?」 「あ、や……ちょ、待っ……待てっ、ああっ!」 声も出ないほどの衝撃から立ち直る前に、それがズルッと引き抜かれて、またすぐに突き入れられる。性急すぎる行為に、制止をかける間もなく、菊丸は続け様に何度も突き上げてきた。 「ひっ、や……ダ、メっ……んんっ」 好きだ、なんて言葉を口にできる状況じゃない。もう、頭の中は真っ白だ。自分が上げている、恥ずかしいほど甘く濡れた声も、何だかよく聞こえない。 自分に余裕がないせいなのか、菊丸は最初から俺の弱い部分を集中的に狙って擦り上げてくる。それまでは少しは余裕があったのに、もう、何が何だか判らないくらい、正気を保てなくなっている。ダメだ、そんなに持ちそうにない。 「ああっ、あっ、あっ、やだっ……やぁ……っ!」 結局、情けなくも前に触れられることもないまま菊丸よりも先に達してしまった。少し間を置いて、体の奥に熱いものが勢いよく流れ込んでくる。そのタイミングがいつもと違っていたためか、一瞬だけハッキリした意識の中。 今なら、と口を開きかけた俺は――――そのまま硬直した。 「………くにみつ」 達した直後の、まだ荒い息のまま、耳の中へ直接吹き込まれた囁き。抱き竦められ、いつもなら途切れさせられている意識が、今回に限りしっかりとその声を聞き止めてしまった。 とんでもない、不意打ち。 「あ……っ」 吐き出したばかりの中心が、再び熱くなってくる。菊丸が、ビックリした表情でそこを見下ろす。さっきのは、どうやら無意識らしい。質が悪い。というか……あまりに浅ましい反応を返したそれを、しっかり気付かれ、見られてしまった。………俺のバカ。 「手塚……まだ足んにゃかった? コッチも、俺のをきゅうって締め付けてきてるよ?」 まだ収まっている入り口を、菊丸の指が撫でた。何だかニヤニヤとイヤラシイ笑いを浮かべて。 誰の所為だと思ってるんだっ! と怒鳴ってやりたかったが、撫でられたそこが、反応して更に菊丸を締め付けてしまったのが自分でも判って、真っ赤になって睨みつけるのが精一杯だった。 嬉しそうに笑いながら、菊丸は俺の、半ば勃ち上がっているそれを、きゅっと握り込んできた。 やっぱり可愛いね、などと言いながら。 何て奴だ。 意地が悪い。卑怯者。そもそも、セリフがいちいちエロオヤジみたいなんだよ、お前はっ。 もういい。 もう、判った。 絶対に、頼まれたって「好きだ」なんて言ってやらないからな!
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