いとしいひと〜side IRUKA〜
やわらかく頬や額にくちづけられて、腕を伸ばして彼にしがみつく。やさしく髪を撫でる手があたたかい。 何も判らなくなる前の、この瞬間がいちばん好きだ。
台所に立つと、必ずいたずらを仕掛けてくる。 トン、トン、と一定のリズムで包丁を下ろしている俺の後ろから、両腕ごと抱き締める。腕の動きを制限されて、俺は溜め息をつく。 「お腹すいてるんじゃないんですか?」 呆れて問えば、襟足に顔を埋めた彼はどこかうっとりとした響きの声で呟く。 「ああ……、三日ぶりのイルカ先生の匂い……ゥ」 言葉と共に胸元を撫でる手のひらに、慌てて制止の言葉をかけるが、こうなってしまったら彼は絶対に止まってはくれない。 諦めて包丁を置く。 以前意地になって包丁を持ったままでいて、危うく指を切り落としそうになったことがあるのだ。 胸を撫でながら、空いている手がスルリと股間へまわる。内腿をさすられて、思わず息を詰める。料理の途中なのに、と恨みがましく言えば、アナタを食べた後でねと笑われた。 それでも、まだただのいたずらだ。肝心の部分には触れてこない。ギリギリのところをさまよう手に、期待しては裏切られる、繰り返し。 もどかしくて、身を捩る。だけど、いつものこととは言え、ソレを口に出すのはとてつもなく恥ずかしい。 言わなかったら、このひとはいつまでもここでこのまま続けるのだろう。意地悪なひとだから。 「……イルカ先生?」 促すように呼ばれて、観念して目を瞑った。空いた唇からでる声は、ひどく掠れている。 「カカシ先生……お願い。ココじゃ、イヤです……」 暗に寝室へと誘うその言葉に、カカシ先生は笑い、俺をひょいと抱き上げた。彼は決して軽くはない俺の身体をこうやって抱くのが好きなのだ。 そのまま運ばれてしまう自分が、何よりいちばん、死ぬほど恥ずかしいかもしれない。
キシリ、ベッドの軋む音が妙に淫らだ。そう感じるのは、これから始まる行為への期待からだろうか。 期待。してるわけじゃないはずなんだがなぁ、と天井を見上げる。視界を、銀色がさらりと流れた。それから、黒と赤。 「どこ見てるの」 色違いの瞳が、間近から覗き込んでくる。やさしいまなざし。 普段は意識しないし、隠されてる時間の方が長いけど、こうして改めて見るとすごく整った顔をしてる。男の俺から見てもそう思うのだから、女の人には尚更だろう。 加えて、里のエリート上忍で、元暗部なんていう立派な肩書きのオマケつき。 ……どうしてこのひと、俺みたいに冴えない中忍(しかも男)なんかと付き合ってるのかなぁ。 「なに考えてるの」 解かれた髪を梳く、繊細な指先。困ったような表情で笑う、そんな顔もキレイ。 誰より意地悪なのに、誰よりやさしいひと。 「イルカ先生?」 人差し指の背で、頬を撫でられる。そのまま、唇を辿られて、思わず開いたくちを塞がれた。最初は軽く押し付けるだけ。次には舌が、唇を舐めて。歯列を辿り割り、なかに入ってくる。 「……ふ、ン……っ」 ぴちゃり、舌先が触れ合って。息が、鼻から抜けていく。 どくどくと、鼓動が早くなる。重なった胸、彼のそれもまた、少しだけいつもよりも早いような気がする。 絡められ、擽られ、引き込まれて吸い上げられる。投げ出していた手がシーツを掴んで、知らずそれを手繰り寄せてしまう。皺が深く刻まれ、かすかに衣擦れの音がした。 彼の手が俺の上衣の裾を捲り上げ、つう、と素肌に触れてくる。さらさらとした感触の手のひらが、胸を滑り、硬くなりかけた乳首を指先が摘み上げる。 流れ込んでくる唾液と共に、漏れかけた声を飲み込んだ。 ちゅぷ…とかすかな水音をたてながら、唇が離れる。舌と舌の間を繋ぐ糸が途切れるのが、少し寂しい。けれどそう思う間もなく、彼の唇は耳を舐り、首筋を伝いおりていく。 鎖骨を舐められ、胸元をまさぐられ、思わず身を捩ると、不意にぬくもりが離れていった。 知らず、閉じていた目を開けば、滲んだ視界に映る彼の笑み。 「イルカ先生、万歳して?」 言うとおりにすると、すぽりと上衣を袖から引き抜かれる。そうして彼もまた、自らの上衣を脱ぎ捨てた。 重なる肌と肌。その心地好さにうっとりと目を閉じれば、耳の後ろを少しきつめに吸われる。跡が残ったかもしれない。咎めようとくちを開く前に、彼の手が下衣にかかった。 一息に下着ごと引き下ろされて、一瞬息が止まる。 じわじわとした快さに、俺のそこはわずかに反応を示していたのだ。 彼の視線を剥き出しのその部分に感じて、ごくん、と喉を鳴らしてしまう。その先に待つものを嫌でも想像してしまう、ひどくいやらしい視線に曝されて、顔に血が上る。 さっき触れてもらえなかったところに、こんどは焦らすことなく指が絡まる。 「………ああ……」 吐息のような声が漏れた。 ゆるゆると擦り上げられ、惜しげもなく与えられる刺激に、自分のものがどんどん硬度と体積を増していくのが判る。 「かわいい」 荒く息を吐く俺を見つめる彼が、いとおしそうに微笑んでそう囁く。このひとの目はどうかしてると思う。 アナタのその顔のほうが、よっぽど………。 抱き締められ、顔じゅうに降るやわらかなキスの雨。 すきとかあいしてるとか、そんな言葉よりもずっと確かなもの。アナタの腕の力強さ、アナタの吐息。肌のぬくもり。 俺を翻弄する、アナタの熱。 何も判らなくなる前のこの瞬間が、何よりも大切で、いちばん好きだと思う。
アナタを誰よりもいとおしいと感じる瞬間だから。
end.
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『いとしいひと』イルカ編です。 完璧に突発です(苦笑) 裏に持ってくるほどのもんでもない気がしますが、 だって表のサーバ様が性描写はダメって…。 『いとしいひと』はどーも本番に入れないらしい。 次はちゃんと、連載の続きを…! '03.11.25up
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