LOVE OR LUST「僕が傷付かなかったと、本気で思っていたんですか?」 囁く声には、いつものような優しさやあたたかさなど欠片も感じられない。だからと言って、責めるような響きではなかったが。 「貴方がいけないんですよ、三蔵。……どうして、僕を許したんです」 顔を背けたいのに、頬を包み込むように触れる手がそれをさせない。何かを言おうと口を開きかけた三蔵だったが、しかしすぐに諦めたように口を閉ざし、目を伏せた。 こうして彼を拒みきれないのも、悟空を拒めなかったのも――――三蔵一人の罪だと言うのだろうか。 降りてくるくちづけを避けない理由を、敢えて考えない狡さ。それでも、それを自覚する訳にはいかなかった。 滑り込んできた舌が口腔内を探り、逃れようとする舌を絡め取ってきつく吸い上げる。丹念に繰り返される、深いくちづけ。 抵抗らしい抵抗もなくされるがままになっている三蔵を、八戒の碧の瞳がじっと見つめている。 その双眸が映すのは、ただひとつ憧れた黄金の光。焦がれずにはいられない、潔い毅さを秘めた紫暗の瞳。 どんなにきつく抱き締めても、どんなに奥深くを探り触れても、この手を擦り抜けていってしまうひと。 「何故逃げないんですか……貴方がそんなふうだから、僕は……」 いつの間にか、自惚れてしまっていたのかもしれない。触れることを許されている意味を、自分に都合の良いように解釈して。 悟空に抱かれる彼を見て傷付いたのも、彼の所為じゃない――――自分の勝手だ。だからそういう意味で彼を責めるつもりなどなかった。 ただ。 「今までだって、僕を受け入れていたのではないのでしょう? 身体だけを与えていれば、それで僕が満足すると――――心の中までを見せずに済むと。そう思ったんですよね?」 必要以上に内面に踏み込ませない為に、目に見えるものだけを差し出す。それに誤魔化されていたつもりはなかったけれど。 三蔵が答えないことを肯定の証と取って、八戒は無言でその足首を掴んで引き寄せ、開かせた下肢の間に身を置いた。 取らされた姿勢にギョッとして、反射的に身体を起こそうとする三蔵の肩を、空いた方の手で押さえ付ける。 「だったら、僕を満足させて下さい。身体だけでも良い、すべて見せて――――」 「八戒……っ!」 まだ形を変えていない部分が、外気に晒される。 羞恥に目元を染めて、自分の今の体勢を考えないように、きつく目を瞑る。こんなこと、今までされたことなどなかったのに。 「目、閉じてて良いんですか?」 何をされても良いと言ってるみたいに見えますよ? からかうような言葉と共に指が絡まり、誘うように動き出すと、三蔵が一瞬息を詰める。初めてではないその感覚に、流されてしまいそうになる己を戒めるように。それでも、反応を押さえることはできなかった。 緩く勃ち上がった三蔵自身に、八戒は躊躇いもなくくちづけた。 自身を包む濡れた感触に、最初は何をされているのか理解できなかった。思わず開いた目に、とんでもない光景が映る。 「……な…に……ッ!」 カッ、と顔へ一気に血が昇る。 三蔵の表情を上目遣いに確かめると、八戒はくわえ込んだそれに舌を這わせた。 とっさに引き剥がそうと伸ばした手は、だが与えられた刺激に、ただ縋るように八戒の髪に指を絡めただけだった。 「やぁ……あ……っ」 声を抑えることよりも、この状況から目を逸らしたくて。 「……好きですよ、三蔵……もっと声、聞かせて下さい」 「ば…かっ、何言って……あ……!」 一際強く吸われて、背が跳ねるように反らされる。八戒の頭を押さえている指先は、震えて力がまったく入らない。 「いつも思っていたんですよ、美味しそうだな…って。でも三蔵、キスもさせてくれなかったでしょう」 「んっ……しゃべ…な……っ」 濡れた音、低く囁かれる声。 添えられた手の動きと、触れる唇や吐息――――時々わざと歯を立てられて、そのたびに敏感に反応を返してしまう。 過ぎた快感は三蔵にはただ苦しくて、すぐにでも熱を解放してしまいたいのに、限界が近付くたび戒めるように八戒の指が根元を締め付けた。 何とかして欲しいと口に出してしまいたくなるが、そんなことが出来るはずもない。 散々煽られ焦らされ続けて疲弊した精神を手放しかけた時、ようやく根元を束縛していた指が緩められる。 「―――――っ……!」 促すようにきつく吸い上げられ、三蔵が小さく呻いて欲望を吐き出す。口中に放たれたそれを、八戒はすべて飲み干した。 三蔵は信じられない思いで、身を起こす八戒の口元を見る。 どうしてこんな事ができるのだろう。 困ったような笑みを浮かべた彼に頬を触れられ、自分が涙を流していたことを知る。 「気持ち良く、なかったですか?」 指先が優しく雫を拭う。 何とか呼吸を整えようとしている三蔵に、答えられる訳がない。それよりも、次に触れてくるだろう八戒の指を意識してしまう。 しかし―――――― 「今日はもう寝ましょうか。明日も早いですし……」 八戒は、ぐったりと身体を投げ出したままの三蔵の乱れた着物を合わせてやった。 驚いたような顔をしている三蔵に、悪戯っぽく笑って続ける。 「今日のとこは、これで許してさしあげますよ。三蔵の可愛い声、たくさん聞けましたしねー」 「八戒っ!」 その態度にカッとなった三蔵が、八戒の襟元を掴み、引き寄せた。バランスを崩した八戒は、慌てて手を突いて、何とか三蔵の上に倒れこむことは避ける。 「危ないですよ、三蔵っ」 注意をしかけて、だが八戒は思わず息を呑んだ。 真っ赤に染まった三蔵の顔が目の前にある。睨み付けてくる瞳は熱っぽく潤んでいて、妙に艶っぽい。 「……ったく。良いから、来い」 いかにも彼らしい、色気の欠片もない誘い文句。 それでも、八戒をその気にさせるには充分だったようだ。そっとくちづけられて、その腕が応えるように三蔵を引き寄せる。 一旦直してやった着物の合わせを再び肌蹴させ、唇は痕を残しながら首筋から鎖骨を通って、胸元へと落ちていった。 差し入れられた手が入り口を探り当て、指先が確かめるように周りを辿る。 途端に身を強張らせた三蔵を宥めながら、ゆっくりと内部へ指を埋め込んでいく。根元まで含ませると、まだ硬く閉じられている中を強引に掻き回した。 内壁を擦るようにすると、肩を掴んでいた三蔵の手が、きつく爪を立てる。 「……ここを知っているのは、僕だけじゃないんですよね……」 必死に声を噛み殺している彼の耳元へ、囁きかける。それだけで、いつになく過敏な反応が返った。 「もう……お前以外とは、しねえ……っ」 思いがけない言葉に、八戒が目を見開く。こんなことで自惚れてはいけない――――判っているのに、その意味をまた間違えそうになる。 戸惑いを隠せず見つめてくる視線に気付き、三蔵はそれを拒むようにその頭を抱き寄せる。いつもは決して与えないぬくもり。 「もぉ良いから、……早く、来い」
口走った言葉は、多分本心で。 悟空とはもう二度としないと思う。あいつは、違うのだ。そんなふうに触れて良い相手ではなかった。あいつも自分も、ただ流されただけなのだ。 じゃあ何故こいつなら良いと思うのか。自分の体内に在る他人の熱を、許してしまえるのか。 まだ判らない――――考えたくない、そんな事。 何も考えられなくなる為に、今は八戒の体温が必要だった。
END.
なつみ様からリクエストいただきました。 裏に置いてある悟空×三蔵+八戒の話『太陽の堕ちる先』の続き。 2000年10月29日発行『LOVE OR LUST』より、 同タイトルの話に少し手を加えたものです。 流れはともかく、表現にやや不自然なところが数箇所あったので。 オフラインの八三は、微妙に両想いではなかったのでした。 とりあえず、リクありがとうございました。 どうぞお納めくださいませm(__)m '05.02.07up
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