きみの『特別』


 乱太郎は考えていた。
 どケチで小銭に目がなくて、ちゃっかりしてて結構ワガママな――――だけどしっかり者の親友。
 いつのまにか友達以上の存在になっていた彼・きり丸の気持ちを確かめるには、どうしたらいいのだろうかと。

 ――――きり丸は、わたしのことどう思ってるんだろ。

 そうして、比較対象としてきり丸のまわりのひとたちのことを思い浮かべてみる。
 まずは、休みのたびにお世話になっている土井先生。きり丸は土井先生のことが大好きだ。見ていれば判る。家族のいないきり丸の親代わりみたいなものでもあるから、土井先生にはたぶん張り合おうとするだけ無駄だろう。
 それから、おなじ図書委員の先輩で、結構仲がよさそうなのが不破雷蔵先輩。面倒見がよくてやさしくて、彼のことは乱太郎も好きだ。でも彼はたいていいつも鉢屋三郎先輩といっしょに行動しているし、仲がいいといっても委員会絡みでくらいしか接点はないようだ。
 一年は組のみんな。
 ……このなかで言うなら、きり丸と一番仲が良いのは自分である、と――――思いたい。他はあえて言うなら、自分ときり丸といつもセットで行動しているしんべヱだろうか。長屋でも三人いっしょの部屋だし、もちろん乱太郎だってしんべヱをちゃんと『大切な友達』と思っている。
 でもきり丸が、同じようにしんべヱと自分を思っているとしたら――――それはそれで少し悲しい。
 だって乱太郎のきり丸への気持ちは、しんべヱへの気持ちとはまったく違っているのだから。
 仮に『友達』としか思ってくれていないのだとしても、せめてきり丸のなかの『いちばん』でいたい。
 だから。
 ちょっとヒキョウかな、と思わないでもなかったけれど。

 

「きーりちゃん。ちょっとききたいんだけどー」
「なんだよ乱太郎、キモチワルイ声出して。おれ、これからバイトなんだけど」
「ごめん、すぐ済むから、ちょっときいて?」

 仕方なさそうに、それでも足を止めてくれたきり丸に、乱太郎は辺りを見まわしてひとがいないのを確かめたあと、口を開いた。

「んっとね。……川が二本流れてて、きり丸はその川と川の真ん中にいるんだけど」
「はあ?」
「一方の川ではわたし、もう一方の川ではしんべヱが溺れてるわけ」
「…………」
「ずばり! きりちゃんはどっちを先に助ける!?」

 力をこめて言う乱太郎を、きり丸は冷めた目で見ていた。
 比較相手にしんべヱを選んだのは、先の疑問のこともあったけれど、乱太郎のずるさだ。基本的に人助けなど進んでしないきり丸だが、さすがに友人ならば無視は出来まい。そして、人一倍重いしんべヱを助けるのなら自分のほうを優先してくれるのではないかと思ったのだ。
 しかし、乱太郎はきり丸を甘く見ていた。
 きり丸は考えることなくあっさりと「しんべヱ」と答えたのだ。
「なっ、なんでっ?」
 思わず詰め寄ってしまった乱太郎に、きり丸は――――――

 

「だってぇ〜、助け賃いっぱいもらえそうだからぁ♥」

 

 両手の指を組み、うへへへと無気味に笑うきり丸の目は、しっかりゼニ目になっていて。
 がっくりと肩を落とした乱太郎は、この日、きり丸を手に入れるためにこう心に誓ったのだった。

 

 

 ――――一流の忍者になるよりもまず、大金持ちになってやる……!

 

 



そもそもこの話、元は四コマのネタでした。
SSにするために多少の肉付けをしてみたら、最初がシリアスっぽくて大笑い。
乱太郎→きり丸。
まぁでも、きり丸だってちゃんと乱太郎を特別に思ってるんですよ。
……いや、うん。たぶん……(死)
'04.07.19up


 

 

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