バカな男
〜SIDE NAMI〜



 一体、何回こいつが血まみれになっている姿を見たかしら。
 眠り続けている男から離れたくなくて、宴のような夕食のときも、みんなが寝静まってからも、ほとんどずっと意識が戻らないままのゾロの傍についていた。
 無力感に、ただ、苦しくなる。
 私たちが意識を失っている間に、何かがあった。それは多分、みんな気づいてる。だってそうでなければ、こいつだけがこんなひどいダメージを受けているはずがないもの。
 どうせまた、無茶をしたんでしょう。どうしてあんたってそうなのよ。仲間がそんなあんたを見てどう思うかなんて、何も判ってない。
 リトルガーデンでのことを思い出す。
 身動きの取れない中、自分の両足を切り落としてでも戦うといったバカ。そして、それを実行しようとした。真っ白な蝋の上にこいつの血が広がっていくのを見て、私がどんなに怖い思いをしたことか。ルフィたちが来るのがもうほんの少しでも遅かったら、そう思うと今でも寒気がするわ。
 アーロンパークでも。
 生きてるのが不思議なほどの大怪我を負っていながら、何でもないふうに戦っていた。
 その大傷は、七武海の一人・鷹の目のミホークとかいう奴と戦って負わされたものだと、後でウソップに聞かされた。
 こいつの目標。野望の具現。
 あのゾロがまったく相手にならなかった、それでもあいつは命を投げ出してまで最後まで男らしく戦ったんだと、ウソップはどこか誇らしげに言っていたけれど。私に言わせれば、ただのとんでもない大バカよ。
 そう。
 最初からこいつは、そういうバカな男だったのよ。
 ―――判っていたのに。
 どうして、こいつを好きになんてなっちゃったんだろう。こんな苦しい想いばかりさせられて、それでも愛おしくてたまらない、なんて。

 


「ナミさん。少し休みなよ。チョッパーが、もう心配ないって言ってたんだろ?」

 コツ、と微かに靴音がして、そっと声をかけてきたのは、私の共犯者。
 ふっと、ようやく息がつける。
 おかしな話ね、言ってみればサンジ君は私のライバルでもあるのに、彼の前ではとてもホッとするのよ。
 私は少し笑って、サンジ君を見上げた。
 サンジ君は、こいつがこんなことになったわけを、きっと知ってる。
 目が覚めたとき、普段なら真っ先に私やロビンの無事を確かめる彼が、いつの間にかいなくなっていて、戻ったときには血みどろのこいつを背負っていた。何も言わなかったけど、私以外のみんなも同じことを思ったはず。
 でも、あんたたちが口を噤むのなら、私は何も訊かないわ。

「サンジ君も、いらっしゃいよ。このバカが目を覚ましたら、うんと説教してやるんだから」

 独りで勝手なことするな、って。
 サンジ君は困ったように笑って、そして、ゾロを挟んで私の向かい側に腰を下ろした。
 私は、包帯に包まれたゾロの頭を、そっと撫でた。

 もう、何でもいいから。
 早く目を覚ましなさいよ、『バカ剣士』。

 

 

 

 

      ――――GO TO SIDE SANJI

 



484〜486話ネタ。
『食べちゃいたい。』に付けていたおまけ本より。
サンジさんsideとセットでどうぞ。
486話でナミさんがゾロの傍についてたのに萌えて浮かんだネタです。
'08.10.06up


 

 

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