たべちゃいたい。
〜5〜
「ゾロ――――!!」
後部甲板で、海を眺めるとはなしに眺めていたら、ナミのみかん畑を越えてルフィが飛んできた。俺の身体を縛り付けるみたいに、伸びたゴムの腕でぐるぐる巻きにする。
いきなりのことにさすがにびっくりしていると、勢いよくルフィの顔が近づいた。そのまま、俺の唇にルフィのそれがぶつかってくる。勢いの割には柔らかく触れたその感触に、これはキスだ、と思い、ナミやコックからは一度もされたことがないのだと、そんなことに俺は今更気づいた。
あいつらは、俺の唇に唇で触れたことはなかった。身体中にキスを降らせるけれど、顔にする時は額や頬、せいぜいが鼻先で。気づいてみれば、意図的に避けていたのだとしか思えない。
俺にとっては、初めてのキス。いともあっさりと奪われたそれ。
どういうつもりでそうしたのかは判らないが、ルフィは触れるだけのキスの後、ぎゅう、と俺に絡みついている腕に力を込めた。
「……ル、」
「誓いを忘れんなよ、ゾロ」
「…………」
「海賊王になった俺の隣に、お前が大剣豪として立つんだ」
奴らしくない、低く静かな声だった。
俺は戸惑い、奴の麦わら帽子の天辺を見下ろした。
「お前がいいんなら、サンジやナミと何してもいいけど。俺は、あいつらも好きだし。でも、」
奴らとの関係を知られていたことに、一瞬心臓がひやりとしたけれど。
ルフィは、そんな俺に構わず、続けた。
「お前は、俺のもんなんだからな」
顔を上げて俺をじっと見つめてくる、真っ黒な瞳。
それは、俺がこいつの仲間になったあの時から、とうに決まっていたことだ。鷹の目との勝負に敗れた時にも、改めて誓った。
剣士としての俺は、未来の海賊王のものだと。
俺はルフィの目をまっすぐに見つめ返し、応えた。
「ああ。判ってるよ――船長(キャプテン)」
恋でも愛でもないけれど、ルフィはただ一人、俺を支配する存在だ。特別なのは、当然のこと。それを他ならぬルフィによって、改めて気づかされた。
ルフィは、俺の答えに満足したようにおおきく頷き、ニッと笑った。
「おーい、ルフィー! てめェ、釣りの途中でどこ行ってんだよ!」
「竿、引いてるぞー」
ウソップとチョッパーが、船首から大声でルフィを呼んでいる。ルフィは「おーう!」と返事をし、俺に巻きついていた腕を解いた。
振り返りもせず走っていく後ろ姿を目線で追って、キッチンの陰から立ち昇るタバコの煙に気づいた。みかんの木の間からは、オレンジ色の頭も覗いている。見られていたのだろうか。
仮に見られていても、奴らは何も言わないだろう。それにあれは、色めいた意味などどこにもなく、俺に疚しいところはない。何も言わない奴らが、本当は傷ついているのだとしても、俺が後ろめたく思う理由などないはずだ。
俺はそのままごろりと横になった。
穏やかな昼下がり。抜けるような青空。雲ひとつない晴天だ。それが永遠に続くものではないのだと、知っているけれど。
とりあえず、平和なこの船が騒がしくなるおやつの時間まで、ひと眠りしていよう。
――――END
完結でっす!!
ここまでマニアなお話にお付き合い、ありがとうございました!
つか、実は精神的ルゾロだったとか、ひでェオチですね(苦笑)
ゾロたんのファーストキスは、ルフィに持ってかれました。
実は最初、あんま考えないで書いてたんですが、
サンジさんもナミさんも、ヤってる最中にゾロにキスしてない!
…と、気づいた瞬間このオチが決まりました。
でもまァ、このルゾロはくっつくことはないので、
ゾロたんはこのまま、ふたりに共有されていくんでしょう。
それでは、次回は漫画(四コマ)でおまけUPします!
'08.04.07up
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