たべちゃいたい。
〜4〜
気づくと、ダイニングテーブルの上に寝かされ、毛布に包まれていた。
手足を戒めていたロープは、すべて解かれているようだ。感覚でそれを悟り、うっすらと目を開く、と、大きな手のひらがそっと頭を撫でた。
額には、柔らかな――おそらく、唇の感触。
手のひらも、唇も、声にはならないが愛おしいと告げている。
ひどい目に遭わされたのに、怒りは確かにあるものの、許せねェとか、殺してやりてェとかは思わなかった。ただ、心地好さに任せてしまいたくなる。
いつもそうだった。
何をされても、俺はこいつらを憎めねェ。
「…………いつも、これきりにしようって……思うんだけどな」
静かな、コックの声。
「どうしてなのかしら。最初は、触れられるだけで良かったのに……、私たちはどこまで貪欲になるのかしらね」
自嘲気味の、ナミの声。
「……な、声……出してんじゃねェ……」
自分のものとは思えないような、掠れた声が出た。
俺を覗き込んでくる奴らの表情は、声そのままの、切なげで苦しげなそれ。
てめェらが言い出した関係だろうが。ヒトの身体を散々好き放題しておいて、勝手に傷ついてんじゃねェよ。だったら、俺はどうすりゃよかったってんだ。
「だって、あんたは私たちを好きにはならないって、知っていたもの」
「お前にとって、一番はルフィだろう?」
言葉に詰まった。
ルフィは、確かに――大切な存在だ。それは船長だから当然のことで、だからといって順位などつけたことはない。恋愛感情を持ったこともない。
しかしそれで言うならこいつらに対してのそれも、恋や愛なんてものとは程遠い。
例えば。
ないとは思うが、ウソップやチョッパーやロビンが、こいつらのように俺を求めてきたら。……多分、俺は拒まないだろう。みんな、離したくない大切なものだ。
けれど、ルフィは――ルフィにだけは応えられない。応えてはいけない、と思う。ならば奴らの言うとおり、ルフィは俺にとって『特別』な位置にいるということなのだろう。
こいつらはそれを知っていた。
だから、それでも身体だけでも欲しいと伸ばされた手に応えた、そのことは奴らにとってより残酷なことだったのだ。
そんなことも知らず、俺は安易に身体を差し出してしまった。奴らの気持ちなど、どうでもよかった。拒んで、奴らが俺を諦めてしまうのが嫌だった。奴らの『特別』でいたかった。居心地のいい場所を守りたかった。ただのエゴだ。
そうだ。
最初から、最低なのは俺のほうだったのだ。
俺は、まだ痺れたみたいになっている両手を、ゆっくりと持ち上げた。
右手を、ナミに。
左手を、コックに差し伸べる。
当然のように、その手を取ってくれる。そのことに、ホッとする――いつも。
「何、してもいいから――俺を放すな。こうやって、捕まえてろ」
目を閉じてしまったから、奴らの表情は見えない。が、ふたりとも微かに笑ったようだった。
「あんたって、本当に性質悪い男ね」
「ったく、クソひでェ野郎だな」
笑いながら、両の頬にそれぞれ、唇で触れてくる。繋いだ手は、しっかりと握られたまま。
でも、とふたりが同時に続けたその声は、笑い混じりだった。
そんなところも、たべちゃいたいくらい愛しい。
食えばいい、お前らが望むならいくらでも。
心はやれないけれど、せめて身体だけならば、お前らに全部、くれてやる。
俺は微笑んで、そして再び、意識を手放した。
夜明け前には、ナミが起こしてくれる。コックの朝飯の匂いに、目を覚ますかもしれない。
きれいに清拭された身体は、未だに奥底に熱を帯びている。縛られたところは擦れた痕となって残り、胸や肩や背には、赤い、奴らの所有印がいくつも残されているだろう。
それは奴らが、俺を食らった証なのだ。
――――NEXT
ここで終わっときゃよかった気もしますが。
もう一話、続きます。短いんで、一気にUP。
ここでルフィが出てくるとか、私、何考えてんだろ(苦)
身体は自由にさせるけど、心はあげない、なんてどこの娼婦か(笑)
とりあえず、ラストへどうぞ。
'08.04.07up
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