たべちゃいたい。
〜1〜



 もう、どれだけ前になるのか。
 童貞と、バックバージンとやら――料理人曰く、だ――をそれぞれに奪われて。最初は、腹が立つとかショックだとかよりも、ただ驚いた。

「好きよ、ゾロ」
「てめェに、惚れてる」

 真摯な言葉。冗談にしてかわすことは、どうしてかできなかった。かと言って、どちらかを選ぶこともできなかった。
 気が強くて可愛げのねェ、けれどやはり大事な女。
 目を合わせりゃケンカにしかならねェ、けれどどこか憎めねェ男。
 ふたりから差し伸べられた手は抗いがたく、奴らが望むまま、俺はふたりのものになった。
 それが最善だと思った。
 何より、俺自身が、奴らのどちらかを選ぶことでどちらかを手放す、そのことに抵抗があったのだ。
 どちらも欲しい。
 最低なのは、俺だ。

 

 

 行為は、たいてい深夜のキッチンで行われる。
 グランドラインに入るまでは、女部屋が個室状態だったから、ナミとヤる時はそこを使っていたのだ。だが、グランドラインに入ってからはビビ、ロビンと入れ替わりに同室者がいたため、自然、場所は料理人が管轄するキッチンに限られるようになった。
 格納庫みてェな埃だらけのところでヤるのは、コック曰くレディに対して失礼に当たる。と言っても、寝っ転がってんのは俺で、ナミは俺の上に乗っかっているので、あまり気遣うことはないとは思うのだが。
 まァ、キッチンはコックがいつも神経質なまでに綺麗にしてやがるからな。

 

 今夜は、コックが不寝番だ。
 ナミは俺の手を引き、当たり前のように清潔なクロスのかかったテーブルに腰かけさせた。
 ズボンに手をかけられるときには、未だに戸惑いがある。わずかに腰が引けたが、ナミはまったく気にしなかった。
 いつも、俺は相手にされるがままに任せるだけ。いわゆるマグロ状態だ。そんな相手をよくも飽きもせず誘うものだと、ふたりにはある意味感心さえする。
 下着ごとズボンを剥ぎ取られ、まだ力のないソレを何度も撫でられる。芯が通ってきたところで、ナミはソレの根元を手で支えてためらいなく口に銜えた。慣れたやり方でしゃぶられて、すぐにソレが勃ち上がってくる。
 この瞬間は、いくら繰り返しても情けない思いが消えることはない。息が上がり、声が漏れそうになるのがまた見っとも無い。
 ナミはいつも、俺を育てながら自らの準備を整え、俺の上に跨ってきて俺を体内に呑み込む。良いように動いて、俺の射精を促し、自らも自らのペースで昇り詰めるのだ。
 だが今日は、いつまで経っても先へ進む気配がなかった。
 このまま俺だけイかされるのかと不審に思いつつ、与えられる快楽に逆らえずにいると、ナミの手が、するりと内股を滑り落ちていった。
 ギク、と身体が強張る。ナミの細い指は、尻の間に潜り込んだのだ。
「っオイ……ナミっ」
「……サンジ君とするときは、ココを使うのよね……」
 俺のモノを口から離し、ナミが言う。もうひとりとの行為を最中に持ち出されたのは初めてで、俺は目を見開いた。
 ソリャ、ルール違反じゃねェのか。しかも何で悔しそうなんだよ。つか、ンなとこ触んな。
 言いたいことは色々あったが、ナミの指がソコをぐにぐにと刺激してくるのが妙な感覚を生んで、口を開けば変な声が漏れそうで何も言えなかった。が、爪の先が中に食い込んだら、さすがに黙っていられなくなった。
 女にそんなところを弄られたくはない。コック相手でも、本当ならゴメンだ。けどソコでしか繋がれない、繋がりたいと奴が言うから、仕方なくガマンしてるだけで。
「ヤメロ……、」
 ぐ、と指が押し入ってきて、制止の言葉が喉に引っかかった。
 女の細い指とは言え、乾いたソコを無理に突かれたら、当然痛みを覚える。相手が女でなきゃ――ナミでなきゃ、ブン殴って止めさせてるところだ。
 ナミも、何だか妙な表情をしている。
 自分のしていることに疑問を感じたのか、ならさっさと抜け――と心の中で念じたが、そうではなかったらしい。
「キツイ……。サンジ君って、いつもどうしてるの? 舐めるのかな……それともローションか何か使うの?」
「バッ……!」
 バカヤロウ、と情けない気持ちで叫びかけた俺を、遮るように。

「お呼びで? ナミっさん♥」

 扉がノックされ、見張り台にいたはずのコックの声がした。
 俺は思わず息を呑み、身を硬くした。半ばまで押し込まれたナミの指を食い締めたのが判ったが、それどころではない。
 こんなことは初めてだった。行為中に、もうひとりが干渉してくる――なんて。
 ところが、ナミはまったく気にしていない様子で、扉の向こうに声をかけた。
「ああ、サンジ君。ちょうど良かったわ。何か濡らすもの、持ってきてよ。いつもサンジ君が使ってるのでいいから」
「了解しましたぁ〜♥」
 アホコックは浮かれた声を上げ、その靴音が遠ざかっていく。
 俺は、信じられない思いでナミを見た。持ってこいと言ったからには――コックは、この場に来るということだ。
 あいつに見られる。こんな、無様な姿を。
 そう思ったら、さすがにこれ以上おとなしくしてはいられなかった。
「やめっ……ナミ、抜けっ!」
「やぁよ。いいじゃない、サンジ君にはさせてあげてるんでしょ。ズルイわ」
「何……言ってんだっ、てめェ……!」
 泣きそうになってきた。何で女にこんなことされて、言われてんだ俺。
 だが、口調は軽かったのに、俺を見るナミの目が、それこそ泣きそうに揺れているのを見たら、無理にも引き剥がそうとしていた手から、力が抜け落ちてしまった。
 更に奥に入り込もうとする指に、息が詰まる。

「……お願い、ゾロ。私にもさせて」

 そんな顔で言うんじゃねェよ。
 そうだよ、俺はナミも、コックも、大事なんだ。こんなことくらい何でもねェと、許してしまいたくなるじゃねェか。
「サイアクだ……お前ら」
 俺は両腕で顔を覆って、見っとも無い自分と、切ない表情で訴えかけてくるナミとを、視界から追い出した。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



ちょいと長いですが(他と比べて)、切るところがなかった。
この先18禁、本音は20禁くらい。
序章でのご注意に引っかかる方、18歳未満の方は読んじゃダメですよ。
つーか、春合せのがヤバイ…。
『一生秘密』サンジさん視点、という予定の本は確実に無理。
まったく別のお話になりそう…。
でも、ナミさんは絡んでくる(笑)
どんだけナミゾロ好きなんだ私(大笑)
それはともかく、このお話の続きは、ちょっと間が空くかな…。
'08.03.10up


 

 

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