だいじな習慣


 

「うーん……?」

 上忍待機所の前。
 カカシは唸り、首を捻った。何かを忘れている気がするのに、どーしても思い出せない。
 今日の七班の任務は休みで、カカシの上忍としての任務も今のところ入っていない。だが里も暇なわけではないので、いつ依頼が入っても対応できるようにとここへ来たのだ。
 最近はイルカの家に入り浸りで、ほぼ同棲状態。今朝もイルカに叩き起こされ、休みだからと二度寝しようとしたのを早く行けと蹴りだされてきた。
 その辺のことはもはや毎朝のことなので良いのだが。
「……うーん……」
 再び唸りながら、カカシは室内へ足を踏み入れた。
 ソファに座りくつろぐ幾人かの上忍がこちらへ目を向ける。もちろん同じ里の上忍同士、顔見知りばかりだが、今日のメンツに親しく話すような相手はいなかった。
 入り口付近のソファに腰かけ、誰からも話し掛けられないよう距離を作る。そうしてから、また唸り声を上げた。
 思い出せない。
 けれどそれは確かにとても重要で、忘れてはならないことのはずだった。
 考え込んでいるうちに、待機していた上忍たちがポツポツと呼び出されていく。いつのまにか時計の針は昼近くを指していたが、考えごとに没頭しているカカシは気づかない。
 そこへふらりと、アスマが現れた。十班の任務は早朝からのもので、先ほど終わったところだった。
 アスマは人気のすっかりなくなった室内へ入るなり、足を竦ませた。
 すぐそこにいるのに一瞬気づかない程完璧に気配を絶った同僚が、何故気づかなかったのか不思議なほど盛大に唸っていたのである。
 アスマはしばし悩み、それから諦めてカカシに声をかけた。
「よぅ、お前んとこは今日は休みだったか?」
 するとまるでこちらに気づいた素振りを見せなかったカカシは、当たり前のように顔を上げて「まーね」と応えた。そしてまた顔を伏せて唸りだす。
「何だ、便秘か?」
「ちがーうよ。考えごとしてんだって、判んない?」
 そんなことは判っている。単にからかっただけの軽口に呆れたように返されて、アスマは湧き上がる怒りを拳を握り締めて堪えた。
 わざと離れたところに腰かけ、煙草を取り出す。
「……なーんか、忘れてるんだよねー……」
「弁当じゃねぇのか」
 かったるくて返事などしたくもなかったが、何だと思う?としっかりこちらを向いて問われては無視できない。してもおそらく、応えるまでしつこく訊いてくるだろう。
 イルカと半同棲状態になってから、時々自慢される弁当。内容は特に豪勢でもなく至って普通のものだが、イルカが作ったというだけでカカシにはどんな高級料理よりも価値があるらしい。
 その弁当を、もう昼だと言うのに今日は広げていない。だからそれを指摘してみたのだ。
 しかしそれにはあっさりと、
「あ、今日は一緒に食べるから、イルカ先生がふたりぶん持ってんの。……そーいやそろそろ時間かな」
 違う違う、と手を振って言い切られ、あーそーかよと溜め息を吐く。仲良く昼食かよ、ったくこのバカップルときたらやってらんねー。とかは思っても口にしない。
 ところが否定したカカシが、いきなりハッとしたように顔を上げた。
「………イルカ先生!!」
 何かに思い至ったらしいカカシに、聞きたくもないがどうしたのかと訊ねれば。

「行ってらっしゃいのチューしてもらってなかったっっ!!!」

 がばっと立ち上がり、おそらくアカデミーに向かって飛び出していく。
 どうせもうじき昼じゃねぇかとか、んなもん一日くらいしなくても死にゃしねぇだろ、とか。毎日やってんのかよ!とかツッコミ所は多々あったが。
 すべてに目をつむって、アスマは疲れた表情で煙草に火を点けた。

 

 その数秒後。
「イルカ先生っ、今朝大事なもの忘れてませんか!?」
 職員室に飛び込むなりそう言い放った上忍に、まわりの教員たちが固まる中。
 すぐに気づいたらしいイルカが、パッと頬を染めて。
「今すぐしましょう、さあ!!」
 迫ってくる上忍の勢いに、あろうことか容易く呑まれてしまい。
「もうっ………目、つむって下さい」
 同僚たちが見守る中、イルカはカカシを引き寄せキスをおくった。ただし、人目があることは一応認識してか、口布越しではあったが。
 凍りつくギャラリー。満足そうに笑う上忍と、恥ずかしそうに俯く中忍。
 二人は手を繋ぎ弁当を手に、職員室を出て行った。

 そーゆーことはどっか他所で二人きりになってからやりやがれ!!――――とは、その場にいたバカップル以外の全員の心の叫びであった。

 

 

――――――end

 

 



カカシ×イルカリンクトップ企画投稿作品。テーマは「忘れ物」。
ギャグっぽいのが書きたくなったもので。
てゆーか、このイルカ先生容易すぎ…(苦笑)
とりあえずアスマ先生、及びイルカ先生の同僚の皆さんに、合掌。
'04.01.04up


 

 

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