傍に…




 人によって違う、とは聞いていたけれど。
 彼女は結構平然としていたし、他の女性なんて知らないから、それを実感する日が来るなんて思わなかった。
「・・・・・・三蔵。大丈夫ですか」
 薬と水の入ったコップを乗せた盆を手に部屋へと入ってきた八戒は、白いシーツに包まった金色に静かに声をかけた。
 返事をする気力もないのか、ぐったりと沈んだままの三蔵が眠るベッドへと近づき、サイドテーブルに盆を置く。
 微熱が出てきたらしく朱く染まった頬に、そっと触れる。
 ピクリ、と睫毛が震えた。
「よく判らなかったんで、お店の人に勧められたのを適当に買って来ちゃったんですけど・・・・・・薬。起きられますか?」
 ゆっくりと開かれた瞳は熱の所為か潤んでいて、どこか幼い子供のように心許なさを感じさせる。
「でも、色々あるんですねぇ、生理痛の薬って。」
 のろのろとした動きで起き上がろうとするのを支えてやりながら、びっくりしちゃいましたよ、と八戒が笑う。
 花喃は症状が軽い方だったので知らなかったことだが、一言で生理痛、と言っても様々らしい。
 いきなり女になってしまった所為でもあるだろうが――元々、女性にしか耐えられないものらしいのだから――、それにしても三蔵はかなり重い方らしかった。
 薬とコップを手渡してやり、三蔵が飲んだのを確かめると、また横になるように言って盆を下げようとした、のだが。
「・・・・・・八戒・・・・・・」
 掠れた声に呼ばれ、思わず動きが止まる。
 瞬間走った動揺を押し隠し、笑顔で振り返る。
「何か欲しいものがあったら、言って下さいね。僕、これ片付けたら戻ってきますから」
 体調の悪い時と言うのは、誰でも心細くなったりするものだ。まさかあの三蔵までそうだとは思わなかったが、女性化してただでさえ不安になっているのだから、あり得ないことでもない。
 三蔵はあからさまに安堵の表情を浮かべた。
 愛しい、と思う。傍にいてあげたい。強く抱き締めて、乾いてしまったその唇にキスをして、そして――――
 八戒は慌てて頭を振った。病人(?)相手に、何を考えているのだ自分は。
 だが実際、危険だと思う――こんな、三蔵は。頼りなげで、守ってあげたいと思ってしまう。
 このひとへの想いは、そんなものではないはずなのに。
「――痛みが治まるまではゆっくり休んでて下さい。ね?」
 こくり、と素直に頷いた三蔵に微笑み、八戒は部屋を出た。




「えー、何でだよっ」
「何ででもです。」


 その日、かなり強引で理不尽な八戒の言い分により、悟浄は三蔵の部屋への出入りを禁じられてしまった。






あたしって、本当に独占欲強いオトコ、好きよねぇ。
しかし、八戒様がどんな顔して薬局であの薬を購入したのか、
ものすっっごく気になるんですけど(^_^;)
ちなみに、「女にしか耐えられない」のは本当は出産ですね。
でも酷い生理痛は、マジ酷いんですよ。多分男性には耐えられんですな。






モドル