最初はさ、大丈夫かなこのひと――――って感じだったんだよ。だってホラ、あの通りのひとでしょう? やってけんのかなぁって。
案の定、失敗ばっかして、吉野先生や事務のおばさんに怒られてばっかで。
だけどぜんぜんメゲずに空回りだけど頑張ってるあのひとを見てたら。……何て言うか……。
「放っておけないって思っちゃったんだもん!! しょうがないだろ!?」
突然派手に逆ギレした伊作を、小平太はポカンと眺めた。伊作の顔は真っ赤だ。照れているのと怒っているの、両方の理由で。
真っ赤になっている伊作は、とても可愛らしい。半ば惚れた欲目で、小平太は思う。
そう、惚れている。
一年だった頃からすでに冗談みたいに運が悪くて、貧乏くじばかり引いて、それでも他人を思い遣れる心を持った彼を。
密かに、ではなくかなり大っぴらに開けっ広げに、想い続けていたのだ。
それが。
(……なーんでこんな相談とかされてんだろうなぁ、おれ)
不運少年は不運なだけではなく、半端なくニブかった。時には直接口にもしたのに、笑ってあっさりかわされた。ぼくもだよ、なんて言って。
もちろんそれは、小平太の望むような意味ではなく。
(もんじにも、もーやめとけって言われたっけ)
脈も何もありゃしねえ、無駄なことはやめておけ、と。他人のことなど頓着ない、自分のことしか考えていないような文次郎にさえ、だ。
(だけどスキになっちゃったもんはしょーがないよなァ)
小平太は軽く肩を竦めてそう結論づけ、自分の肩口で揺れているやわらかそうな髪を見下ろした。
そういう対象じゃない故とはいえ、触れられるのは気持ちがいい。こんなふうに縋りついてもらえるなら、むしろ『友人』の関係のままでいたほうが良いのではないかとさえ思える。
伊作に、好きなひとができる可能性。それは決してゼロではなかったのに。
「でもさー、いさっくん。よりによってあのひとじゃなくても……」
「ぼくだってそんなの知らないよ! 気がついたら小松田さんのこと好きになってたんだからっ!」
思わずのように呟いた途端、きっと顔を上げた伊作が自棄気味にそう言った。
イタイ科白。
その『好き』が欲しかったのに。ずっと。
小平太はふと胸の内に広がった嫌な想いに、わずかに顔を歪めた。チクチクと胸を刺す、伊作の言葉が鋭い刃のようだ。
伊作を好きにならなければ、こんな思いはしなかっただろうに。
『よりによって』、それは、自分自身にこそ投げかけたい疑問だった。そして伊作の答えがそのまま、小平太の答えでもあったのだった。
「伊作」
顔を上げ視線を合わせるために少しだけ離れていた距離を、引き寄せてゼロにする。驚いて強張る身体を抱き締めた、強く――――。
「……こへ、いた……?」
「おれも好き。伊作のこと、ずっと……気づいたら好きになってた」
友人のままでもいいかも、そう思ったりもしたけれど。
やっぱりこのまま、他の誰かのものになる伊作をただ見てるだけなんて、イヤだ。
だって好きだ。たとえぜんぶを失くすことになっても、この想いを誤魔化したまま傍にいる辛さよりもきっとずっと楽だから。
「伊作、……小松田さんにもしフラレたら、で良いからさ。おれのことそういうふうに見てみてよ?」
「こ、小平太っ?」
真っ赤になってもがく伊作を、そっと解放してやる。揺れる目線があちこちを彷徨い、やがてためらいがちに小平太に向けられる。
そこに映るのは嫌悪でなく、戸惑い。
「……ぼくが、小松田さんのこと好きでいても……、そばにいてくれる、の?」
紡がれた言葉は、伊作を好きになってはじめての、やさしくてあたたかなことば。
だってそれは、小平太が今望むことそのままだったから。
「そばにいさせてくれる? おれ、伊作のこと好きなままでいてもいい?」
「ぼくが訊いてるんだよ、それは!」
ぎゅう、と。
今までと変わらず、ためらいなく小平太の腕を掴んで。
伊作はぽてり、と肩口に顔を埋めた。
「いさっくん、大好き」
ねぇ、いまは二番目でもいいよ。伊作にとって失いたくない存在でいられるなら。
いつか一番になれるか、ずっと二番目のままか。
それはおれの頑張り次第っていうなら、きっと頑張って変えてみせるから。
その、翌日。
「打倒・小松田秀作?」
「何、負け様のないようなの目標にしてるんだよ」
「それがナカナカ強敵なんだなー、これが♪」
級友に呆れられ、楽しげに応える小平太を、通りかかった伊作が真っ赤になって睨みつけていた。
伊作の想いが小松田に伝わるのが先か、
小平太の想いに伊作が絆されるのが先か。
勝負は、始まったばかり。
コマ←伊で、コヘ→伊。
受け入れられなさげな話ですみません。
でも相方が「伊作先輩可愛い〜、こへカッコイイ!」って
言ってくれたので開き直ります!
色々と夢見すぎです、それはもう判ってます。
そいえば原作のこへ、一人称『私』…まぁいいや(死)
'04.03.08up
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