RING
あんまりこういうことを口にしないひとなので、実は二年生以下はほとんど知らない。三年でも、タカさんとか知らないんじゃにゃいかな。 知ってる奴っていったら、データマン乾と、二年以上の付き合いをもってしてもいまだに正体不明の不二。それともちろん、手塚の幼馴染みの大石も。 そんで、ジャジャーン! 手塚のこ・い・び・と♥のこの俺、菊丸英二サマくらいなんだな! 何しろこのメンツ、特に騒いだりすることが好きな奴がいない。なんで、祝うってもせいぜい「おめでとう」って言ったりちょこっとした物をプレゼントするくらいだ。部活ももう引退しちゃったし、そう、つまり。 恋人の特別な日に、二人きりで過ごすことを邪魔するよーなブスイな輩はいないってコト! すでに日付変わったときに一番乗りのオメデトウは電話で伝えてある。その後、「こんな夜中に」って怒られちゃったけどね。 ここんとこ生徒会の引継ぎ準備だとかで忙しい恋人のために、もう十日以上とまともに会ってもない。何つっても、手塚は一組で、俺は六組。部活に出てた頃ならともかく、めったなことでは廊下でバッタリ、なんてうまい話はないのだ。 いっしょに食べてたお昼も、忙しい手塚は最近いつも生徒会室で食べてるので、俺も他の奴と食べることにしてる。 いつもならとっくに「手塚切れ!」とかゆってワガママ言って、手塚んちに押しかけて思う存分「手塚補給」しちゃってるとこだけど。 そんで、手塚に怒られちゃったりしてるんだけど。 我慢に我慢を重ねて、そう、すべては今日のこの日のため! 姉ちゃんたちは二人とも、友達んちにお泊まり。兄ちゃんたちも、どこ行くんだか知らないけど何とか追い出すことに成功した。親とかはまぁ、勝手に部屋は行ってきたりしないからいーとして。 いつも会うときは手塚んちにばっか行ってるから、今日は手塚をうちに呼ぼうって決めてたんだ。 手塚ってば、ほら、カッコいいから。来ると姉ちゃんたちがうるさいんだよね。前に一回だけ手塚が来たとき、イチャイチャしてるとこにいきなり入って来られて慌てたことあったし。兄ちゃんは同室だし、いつもならゆっくり二人きりになかなかなれないもんね。 もちろんその予定のことは手塚にもちゃんと言ってあるし、母さんには伝えといたから、大丈夫。 あとはケーキ買って、菊丸特製ふわふわとろとろオムライスを作って、そんでメインエベント。(発音注意!) 先月のお小遣いまるっと使わないで、そんで今月のお小遣い前借りして何とか買った、アレ。もちろんそれだけじゃ足りなかったし、でもずっとソレあげたいって思ってたから、手塚と両想いになれてから帰りのハンバーガー控えてマンガとかも買わずに友達に借りたりして、少しずつ貯めてもいたけどね。 授業も終わり、さてっ、と席を立ったら。 「菊丸ー、たまにはどっかで食ってこーぜっ」 「ゴメーン、今日はダメにゃんだっ。また誘ってねん♪」 クラスメイトが声かけてくんのに、ヒラヒラ手を振って。 まだカバンに教科書詰めてる隣の席の不二にもまた明日ねって言って、俺は一組の教室へ恋人のお迎えに向かった。
帰り道のケーキ屋さんで、手塚の好きなモンブランを2コ買った。 でっかい丸いやつ買おうよ、って言ったんだけど、そんなに食べられないだろうからって断られてしまったのだ。 うちに帰って、さっそく夕飯の用意。和食派の手塚だけど、俺が腕によりをかけて作ったオムライスを、美味しいって言って食べてくれたりして。愛だにゃ〜、なんてうっとり。 嬉しくってえへへ〜、と笑ったら、手塚もちょっとだけ笑ってくれた。ほっぺがちょっと赤い。照れてるみたい。ホンット、手塚ってばこーゆーとこが可愛いんだよね! 食後のケーキとお茶出して、そしていよいよ。 俺はちょっと考えてから、部屋の隅でまた転がっちゃってる大五郎をドアのところに連れてって座らせた。 この部屋で、手塚とはじめてエッチしたときみたいに。同じこと思い出したんだろう、手塚が顔を真っ赤にさせてる。ま、見張りっていうか、突っかえ棒代わりね。姉ちゃんたちじゃあるまいし、いきなり親が来ることはないだろーけどさ、一応ね。 「あのね、手塚。コレ。ずっと着けててほしいんだ」 どーかとは思ったんだけど、小さくてツルツルした紙袋をそぅっと手塚の前に。金色や銀色の文字で店の名前が入ってるそれに、さすがに手塚が変な顔をした。戸惑って袋をじっと見てる手塚を、早く開けて、と急かす。 中からは小さな正方形の箱と、細長い箱。さいしょに正方形の箱を開けた手塚がそのまま固まった。 「…………菊丸」 「あっあのね! 大したやつじゃないから! 安いやつだからね!」 眉間に皺を寄せた手塚の言いたいことがそれだけじゃないのは百も承知で、それでも慌ててそこだけは念を押す。 凝った形のや、石の付いたのは、手塚に似合わない気がして。シンプルな、金の指輪。一応、十八金だからそこそこのお値段にゃんだけど、それは今のところ内緒。 「えっとね、そんでそっちが鎖なの。指にはめてほしいけど無理かにゃ〜って……」 「当たり前だ!」 いちどは引いてたのに、手塚の顔はまた真っ赤っ赤。めちゃめちゃ可愛くて、怒ってんのは判るんだけど思わずふにゃあっと笑ってしまった。 や、もちろん照れてるのもあると思うけどね。 「コレね、……ペア、なの。俺のもあんの。あとでよぅく見て? 手塚のにはね、俺のイニシャルが入ってるんだよ」 ポケットから、もう1コの指輪を出して、ホラ、と手のひらに乗せて見せる。俺が持ってるのには、内側にK・T――――――クニミツ・テヅカ、のイニシャル。ペアにしなかったら、お小遣いの前借りまでしなくて済んだんだけど、どーしてもペアがよかったんだ。だって。 「手塚が、アメリカ行っちゃっても。俺のこと、忘れちゃわないように――――――ずっとずっと、持っててほしいんだ」 そして、俺も忘れないから。 「………お前はバカだな」 声が。 さっきまで尖ってたのに、そう言った声がふんわりと優しくて。 「まだ、先の話なのに」 「うん」 「こんな、……こんなもの用意して」 「……うん」 「俺が、お前を忘れるはずがないだろう………」 ――――――――泣きそうになった。 不安で不安でどうしようもなくて、ワザとはしゃいでたこと――――手塚にはバレちゃってたみたい。 「てづか……。誕生日、オメデト」 「ありがとう」 涙が出そうになるのをこらえて精一杯の笑顔で言えば、手塚も笑って、指輪の入った小さなケースを大切そうに手の中に包み込んだ。 それから俺たちは、いっぱいいっぱいキスをした。
二回目の、手塚さんBDネタ。また菊塚(笑) |