プレゼントには♥


 

 イルカは悩んでいた。
 そりゃもう近年稀に見るほどの悩みっぷりで、もしかしたらナルトアカデミー在学中よりもすごいかもしれないほどだった。

「あ〜〜〜〜どうしよう〜〜〜〜」

 呻いて机に突っ伏したイルカの背を、誰かの手がポンと叩いた。
 顔を上げてみれば、同僚のくのいち・丹羽ツツジ先生が笑っている。
「どうしたの、イルカ先生。授業始まるよ」
「はあ……わたし次授業入ってないんで大丈夫です」
「ふーん。何悩んでんの? あ! わかった」
 ツツジは、肩口まで無造作に伸ばした赤い髪を揺らして、イルカを覗き込んできた。その目が、いたずらっぽく輝いている。

「もうすぐはたけ上忍の誕生日だから、プレゼント何にしよ〜? でしょ」

 その素晴らしい推察力に、イルカは感心するよりもそんなにも自分は判りやすいだろうかと赤くなった。
 イルカよりもひとつ年上のツツジは、明るくさばさばした性格で、九尾事件で身内を亡くしていない所為かもしれないが、アカデミー内でイルカ以外唯一ナルトを普通の子供として扱った教師だ。
 担当でなかったこともあり、ナルトのほうは彼女を覚えていないようだが、ナルトを陰でもきちんと名で呼んでくれる彼女を、イルカはとても好ましく思っている。
 更に彼女は熱血ではないが正義感が強く、イルカがカカシと噂になったときも、悪意をぶつけてくるカカシのファンのくのいちたちからイルカを庇ってくれたりもした。
 だがさっぱりした性格ゆえに、いろいろとキッパリ言い過ぎるのが玉に瑕であった。
「そんなのアンタが赤いリボンでもつけて『私がプレゼント♥』とかやればイイんじゃないの? あのひと、そーゆーの好きっぽいじゃん。発想がオヤジ臭いってゆーかさ」
 ――――少なくとも木ノ葉のくのいちで、はたけカカシに対してこんな評価をする者など、彼女の昔なじみの夕日紅上忍と、友人のみたらしアンコ特別上忍、その他にはツツジくらいのものだろう。
 現にいまも、通りすがりのくのいちたちが、職員室の扉の向こう側から暴言を吐いたツツジをすごい目で睨みつけている。
 イルカは赤くなり、「ツツジ先生!」と抗議の声を上げた。
「いくらなんでもそんなの……! 男のひとならともかく、カカシ先生がそんな……それにわたしみたいなのがやっても男のひとだって嬉しくな――――」
「んなことないってェ。相変わらず自覚ないのね。イルカ先生って結構男どもに人気あんのよ? それにはたけ上忍だって……訊いてみなよ、絶対喜ぶから」
 自信たっぷりに言い切ったツツジは、「あ、私次入ってた」と言って慌てて職員室を出て行った。

 

 イルカの誕生日に、カカシは業物のクナイをプレゼントしてくれた。
『このクナイが、アタシの代わりにイルカ先生を守ってくれますように』
 高価そうなクナイそのものよりも、カカシのその気持ちがイルカは嬉しかった。
 だから、自分もカカシの誕生日には何かを用意して、お返しをしたいと思っていたのだ。
 だが、いくら考えてみても、カカシが喜んでくれるようなプレゼントを思いつくことができないまま、カカシの誕生日は明日に迫っている。
「……仕方ない……要らないようなものあげてもしょうがないもんな。よし、本人に訊こう!」
 イルカは意を決し、ぐっと拳を固めたのだった。

 

 

 しかし現実というものは厳しいものである(イルカにとっては)。

「えー? そんなの、イルカ先生がリボンくっつけて『プレゼントです♥』なんて言ってくれたら、それで充分よォ♥♥」

 夕方、カカシはいつものようにアカデミーまで迎えに来てくれた。
 イルカの家にふたりで帰り、お茶を出しながらそれとなく何が欲しいかと訊ねたのに対する答えは、奇しくもツツジの提案そのままだったのである。
 イルカは脱力し、「ふざけないでください……」と力なく呟いた。
「あら。ふざけてなんかないわよう。だってアタシのいま欲しいものは、イルカ先生の他には何もないんですもの」
「…………」
 にこにこと笑うカカシが、何故だか嬉しそうで。
 イルカは思わずうつむいて、その優しいまなざしから逃れてしまう。
「イルカ先生?」
 どうしたの、と呼びかけられて、ポツリと返した言葉を聞き取れなかったカカシに更に問い返される。
 イルカはちいさく唸った。
 恥ずかしい。言いたくない。でも、――――言ってやりたい。すごく。
 がばっと勢いよく上げた顔は真っ赤で、カカシがその可愛らしさにに見惚れていると。

「も、もう、とっくにわたしはアナタのものなのに。これ以上何をあげたらいいって言うんですかっ……」

 恥ずかしさを堪えて言った言葉に、だがカカシからの応えはいくら待っても返ってこない。
 顔を上げても、カカシの目をまっすぐ見ることはできなくて、微妙に伏せたままの瞼を、思い切って上げる。と。
 そこには、見たこともないくらい顔を真っ赤に染め上げたカカシがいて――――。
 思わずポカンとしていると、湯呑みを倒す勢いでちゃぶ台が退けられ、思いっきり強く抱き締められた。
「わっ……か、カカシせんせいッ?」
「あーもう。何でアナタってそんな可愛いのよ! ちょっと早いけど、これはもう据え膳と取っていいわよね? ダメって言っても聞かないから! 今夜は覚悟してよね!?」
「なっ、違っ……! カカシせんせっ、ご飯は!? お風呂はっ!?」
「そんなのもう待てません〜!!」
 そのまま女性とは思えぬ力で抱き上げられ、寝室に連れ去られながら。
 イルカは「やっぱりこのひと、ちょっとオヤジ入ってるかも……」と密かに涙を流した。
 でも、それでも。
 こんなに美人で、強くて、やさしいひとはこのひと以外いない。
 そんなどこか酔ったことを素で思ってしまう辺り、イルカも大概このくのいちに惚れているのだった……。

 

 

――――――end★

 



カカシ先生の生誕祝(イブ)SS。
珍しくも誕生日前日にUPです!
そして実は今年のイルカ先生の生誕祝SSの続き。
カカシ先生、ちゃんとプレゼントしてたんですね〜(笑)
今年はユリカカイルで二人の生誕を祝ってみました。
『あこがれのひと』に出て来たオリキャラ・ツツジ先生。
自分で作っといてアレですが、彼女は結構お気に入り♪
気になる方は本買ってく(以下自粛)
そして彼女のフルネームは今回初公開でした〜(笑)

'05.09.14up


 

 

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