棚からぼたもち。最初、その単語の指す意味が判らなかった。 次に、周りを確かめてしまった。誰もいない。残念なことに。 諦めて、目線を戻す。真っ黒な瞳に涙を溜めて、嬉しそうに――というには感情が昂ぶりすぎているように見えるが――笑みこぼれている、中忍の男。さきほどのふざけた呼び名は、彼のくちから出たものに間違いない。そして、どうやらそれが自分に向けられたものであろうということも。 木ノ葉の誇るエリート上忍・はたけカカシは、その重力に逆らいまくった銀というにはくすんだ色の髪をガシガシと掻いた。心情的には無視して逃げたいところだが、相手が相手なだけにそうもいくまい。 「え……っと。イルカ先生ですよね? ナルトたちからお話は聞いてます。失礼ですが私をどなたかとお間違えのようで」 「……私を覚えていらっしゃらないのですか? やっとお会いできましたのに」 喜びの涙に潤んでいた瞳が、別の色に揺れる。 覚えていないも何も、彼の名を知ったのでさえほんの数日前のことだ。里の民に疎まれる九尾の器の少年を下忍候補と認めた、変わり者のアカデミー教師として。 カカシは困惑した。こんなに困ったのは何年ぶりかというほどだ。 変わり者のアカデミー教師・うみのイルカは、他人に頓着しない性質のカカシでさえ可哀想になるくらい項垂れてしまっている。 放って逃げられればいいのだけれど、カカシが受け持つことになった部下たちは特殊すぎる。この先も彼にはいろいろと話を聞く機会もあるだろう。仕方なく、事情を訊ねてやる。非常に気が進まなく、不本意だけれど。 「すみません。アナタとお会いしたことが?」 頭の天辺で括った髪を尻尾のようにしゅんと垂らしたまま、イルカがぽつぽつと話し始めた。それによるとカカシの前世は一城の主で、その側付がイルカだったという。ふたりは互いに強い絆で結ばれており、死の間際には生まれ変わっても必ず会おうと約束を交わしていたらしい。 何とも荒唐無稽な話だ。子供の作り話だってもう少しましだろう。カカシは真剣な表情のイルカを、少々呆れた思いで眺めていたが。 「――何だ。アナタつまり、俺のこと好きなんじゃないの?」 「えっ……?」 イルカが目を見開く。ふうん、とカカシは斜め掛けした額当てと口布で覆ったなかで唯一曝している右目を細めた。きょとんとしたその顔は、可愛いと見えなくもない。鼻筋を横切るおおきな傷も、なかなかに愛嬌がある。 ――ちょっと、イイかも。 カカシは徐にイルカの手を取った。 「側付って、アレでしょ。小姓とかいう。もしかして『お世話をしていた』って、アッチのお世話込みとか?」 「あっあの、殿――カカシ先生ッ?」 「あー殿でいいよ。イメクラっぽい感じ。ホントは男は守備範疇外なんだけど、アナタのナンパ斬新で面白かったから、特別恋人にしてあげますよ。ま、気持ちのほうは追々ね」 「違、私は本気で――!!」 「はいはい、もちろん本気でお付き合いしますよ〜。そうと決まれば、早速お世話してもらっちゃおうかな♥♥」 ここが人気のない演習場でよかったですね〜とにっこり笑いかけられ、散らばった忍具を片づけているところに通りすがったカカシを呼び止めたイルカは、さあっと顔を青褪めさせた。 棚から牡丹餅。いきなり可愛い恋人ができてしまった。カカシはにこにこしながら、固まってしまっているイルカを遠慮なく押し倒した。 「わっ、私は色小姓じゃありません〜〜!!!」 虚しい叫びが、演習場に響き渡った。 END★
なんちゃってパラレル、転生物。 9/18発行のペーパーの裏に載せたSSです。 そのうちサイトに載せよう、と思ってて今まで忘れてました(死) しばらくまともにカカイル更新できないから、今のうちに。 原稿頑張ります…(インテのユリコピ本、オンリーの合同誌…うああ/泣) '06.01.03up
|
※ウィンドウを閉じてお戻りください。※