お休み



 アカデミーからの帰り道。
 今日もいつものように残業をしていたイルカは、おおきく伸びをして、空を見上げた。
「すっかり暗くなったなぁ。あーいまから帰ってメシ作るの面倒だな……どっかで食ってくかな」
 そういや冷蔵庫の中牛乳くらいしかねーな、と思い出しながら、何にせよ買い物には行かないと……とアパートへの道から商店街へと進路を変える。
 その足が、ぴたりと止まった。
 身動きもできなくなるほど強大なチャクラ。辺り一面に漂う、血臭。
 息さえ止めて立ち尽くすイルカの目の前に現われたのは、独特の装束に動物を模した仮面をつけた――――――
 ――――暗部……!?
 圧迫感さえ覚えさせるようなチャクラに、呼吸もままならない。苦しくて、声もなく喘ぐイルカの目が、黒と白しかないはずの暗部装束の中に不自然な金色を見止めた。その時。
 ふっ、と。
 不意にイルカを苛んでいたチャクラが掻き消えた。
 そのまま暗部は、徐にその顔を覆っていた面を取り去った。その下から現われたのは、

「イルカ先生! ただいまっ!!」
「ナ……ナルト……っ!?」

 ポイッと無造作に面を放り捨てた男は、次の瞬間には満面に笑みを浮かべてイルカを思い切り抱き締めていた。
 うずまきナルト。九尾の妖狐の器。イルカの元生徒で、そしてだれよりも大切な。
 おおきくひとつ息をついたイルカは、そのふわふわとした金色の頭を、ポカリと叩いた。
「このバカ! 暗部が外で気軽に面を外すんじゃないと何遍言わせんだ!」
「いてェ! ……イルカ先生、ひどいってばよ〜」
 半ば抱え上げるようにしていたイルカの拳を敢えて避けずに受けたナルトは、「二週間ぶりに会えた恋人に!」と不満げに頬を膨らませる。
 アカデミーを卒業して、6年。おちこぼれの問題児だったナルトも、いまでは暗部にまで上りつめた。チビだったのに、身長もぐんぐん伸びて、いつの間にかイルカを追い越している。
 それでも、どれほど図体がでかくなり忍びとしての実力が伸びても、ナルトはナルトのままだった。それが、イルカは嬉しかった。
 そんな彼に想いを告げられたのは、半年ほど前のこと。
 一時は里を抜けていたサスケも戻り、ようやく里が落ち着いてきていた頃だった。「ずっと好きだった」と、シンプルだが真剣そのものの、告白。
 即答はできなかった。元とは言え、ナルトはイルカにとっては大事な生徒で。いつまでも放っておけない手のかかる弟のような存在だと、そう思っていたから。
 かといって無碍に断ることもできず、「考えさせて欲しい」とそのときは答えたのだが。
 その後すぐに長期任務に出てしまったナルトを待つ間に、答えは出た。
 二ヶ月足らずの間だったが、その間心配のあまり食事も喉を通らなかった。ナルトたち7班の子供を介して知り合った上忍・カカシにまで心配されるほどやつれて、不吉な夢を見ては胸を締め付けられる想いを味わい、涙を流すことさえあった。
 そんな相手が、ボロボロの身体を引きずって深夜にアパートを訪ねてきて。
「誕生日オメデトウ」と、ちいさな花を差し出してきたら。
「間に合ってよかったってばよ」と、疲れた表情で笑いかけられたら。
 ――――もう、降参するしかないだろう。無事な姿を見ただけで涙が止まらなくなるほど、この少年のことが好きなのだ、と。
 そうして『恋人』になったふたりだったが、暗部であるナルトと残業の多いイルカの多忙の所為で、ふたりきりの時間がなかなか持てずにいた。
 ナルトが今日明日中に帰ってくることは判っていた。今日のうちとは思っていなかったけれど。
 だから。
「……こらナルト、いい加減下ろせって。買い物してくから、先にうちに行ってろ。……明日は、休みなんだろ?」
 ホラ鍵、と手渡されて、ナルトは嬉しそうにうなずいた。
「うんっ。そのためにAランクとSランクの任務3件もハシゴしたんだもんよ!」
 綱手のばーちゃん人使い荒いからヘトヘトだってばよ〜、と笑っているナルトに、イルカは黙り込んだ。
 二週間戻らないと思えば、そんなムチャな任務をこなしてきたのか。イルカはいちど五代目火影と話をつけねば、と密かに決意を固めた。どうも彼女は、平気でムチャを言い過ぎるところがある。
 ――――でも、そうか。そうまでして今日帰ってきたなら、そろそろ俺も覚悟の決めどき……だな。
 判ったから早く行け、とナルトを促し、一旦止まってしまった足を再び商店街に向けながら、イルカは思った。
 明日はナルトの誕生日なのだ。アカデミーにはひと月も前から有給届を出している。ナルトが自分といたがるのは判っていたし、それに。
 ナルトが欲しいものは、判っていたから。

 

 

「……イルカ先生。俺、めちゃめちゃ幸せだってばよ」
 はあー、とナルトが溜め息をつく。嬉しさが、顔いっぱいに溢れている。
 その下から、イルカが喚いた。
「っ、ちっとは加減しやがれ! お前ェの体力に付き合ってたらこっちが持たねェよ!!」
 直後、自分の声が響いたのか、声もなく蹲る。その様子を見て、ナルトはにんまりと笑った。
「今日までずーっと我慢してたんだもん。それに、最初に『初めてだからやさしくシテ♥』って言ってくれたら、もっとやさしくしたってばよ?」
「う……っ。い、言えるかこの年でンな恥ずかしいことッ!」
 笑いながらようやく身を引いたナルトに向けて、イルカは異物が体内から去っていく感覚に震え、それでもちからの入らない手を伸ばして枕を投げつけた。
 途端に走った鈍痛に、再び蹲ってしまう。このぶんでは、今日は立ち上がるのも辛そうだ。
「……あー、やっぱ休みとっといて正解だった……っ」
 恥ずかしかったけれど、自惚れでなく、ナルトが自分を欲しがっていることは知っていたから。
 日付が変わってから、イルカからの「18歳オメデトウ」の言葉に、返事のように伸ばされた手に身を任せて。
 今日はナルトの求めに可能な限り応えようと、そう覚悟していたのだ。さすがに同性との閨は初めてで、リードするまではムリだったけれど。
 そして、思っていた以上にナルトの精力がすごすぎたのには、閉口したけれど。
 ナルトはそんなイルカの赤くなった横顔と言葉に、すっかり精悍になった相好を、だらしなく崩した。

「ねー。それってば今日一日俺に付き合ってくれるってことだよな!?」
「アホかっ。猿かテメエは!! ちったあ休ませやがれ!!」

 イルカは、さっきのいまで挑みかかって来ようとする、図体ばかり育ってしまった子供の頭へ、今度は容赦なく強烈な拳骨を落としたのだった。

 

 

END.

 

 



そんなわけで、ギリギリですが…
ナルト! HAPPY BIRTHDAY〜!!
一応、18歳ナルト×28歳イルカ、ですが
31歳イルカでもOKです。お好きなほうで。(変わらんがな)
初めてSSでお祝いできました。
大満足!(笑)
でも、エロ部分はすっ飛ばしました…(^_^;)
'05.10.10up


 

 

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