WISH


 

 仄暗い明りが灯る中、彼の後ろ姿に手を伸ばす。触れた途端、ピクリと揺れた肩をそっと抱き寄せる。
「……久しぶり、ですね」
 わざと、耳元に触れるほど唇を寄せて囁けば、ぶるっと震える身体がいとおしくて自然と口元に笑みが浮かぶ。
「なに、が」
「こうしてふたりきりになれるのが、ですよ」
 判っているくせに、意地悪言わないで。
 何しろあなたときたら、いつでも傍に誰かがいるから。俺はいつでも後回しで。
 ねぇ、俺だっていつまでもそんな状況に甘んじてはいないんですよ?
「ふ、風呂くらい……ッ」
 布地の上から胸を撫でると、逃れようとでもしたのだろう手が、前方へと差し伸べられる。戒めるように更にきつく抱き込めば、その手が空を掴んだ。
 カカシ先生、と責める口調で名を呼ばれる。
「あなたもう湯を使ってるじゃないですか。俺としてはそのままのあなたを抱きたかったんですけど」
 残念、と呟いた途端、変態!と悪態を吐かれて思わず声を立てて笑ってしまう。
 笑いながら、湯上りに身に着けていた寝間着の合せからスルリと手を忍び込ませる。ちなみに俺も、ここへ来る前に入浴は済ませている。そんなことは言うまでもなくこのひとも知っているはずだ。だから風呂、と口にしたのは単に照れて話を逸らしたかっただけだろう。
「っ……待っ、ナルトが……!」
 隣の部屋で眠っている子供が目覚めるのでは、と危惧しての言葉に、俺はにっこりと微笑んで見せた。
「ご心配なく。抜かりはありません♥」
 ぴらり、と小さな包みを彼の目の前にかざすと、彼は首を捻り、不審気に俺を見返してきた。
「食後のお茶に、少々。……朝まで何があっても目覚めませんよ」
「んなッ、カカシ先生、アンタ、最初からッ!?」
 包みの正体を知り、イルカ先生はかぁっと頬を染め俺を睨む。俺はクク、と喉の奥で笑った。
「当然でしょう? ま……、俺は構わないんですけど、あなたが気にするだろうと思って。……見られたく、ないでしょ?」
「だからって、こんな!」
 なおも責め立てようと開かれた唇を、黙って、とくちづけで塞ぐ。ビクッと震えて咄嗟に閉じようとする前に、口腔内へ舌を滑り込ませる。
 ぬるりとあたたかい内を隅々まで味わおうと深く、深くくちづける。
「……、ふっ……」
 苦しげに寄せられた眉根、ぎゅうっと瞑られた瞼の下の瞳を見たいのに。きっとそれは、キラキラと潤んで宝石のよう。
 寝室に移動する間さえ惜しくて、その場に彼を押し倒した。
 俺だってそうそう我慢がきくわけじゃない。ただでさえ、このひとに飢えている。
「カカシ先生……ッ」
「ごめんなさいイルカ先生、でももう待てません!」
 うつ伏せに倒した肩を掴んで返し、仰向けにさせる。そうしてから、改めてくちづけた。
 ぐい、と衣の前をはだけさせ、露わにさせた胸元に顔を埋める。
 しばらく俺の下でじたばたと藻掻いていた彼は、しかし意外にもすぐに諦めたように溜め息を吐いて、その身体から力を抜いた。
「……まったく、アナタは……」
 その声音に、許されたことを知り、押さえつけていた力を緩める。
 ふたりきりで過ごす時間は、とても貴重で。
 それを大切にしたいという俺の気持ちを認め、受け入れてくれた。そのことが、嬉しくて。
 顔を上げて、もういちど彼にくちづけた。

 

 大丈夫だと言ったのに、それでもやはり隣室が気になるのか、彼は声を上げるのを必死に堪えていた。
 いつもならばその声を聞きたくて、必要以上に念入りな愛撫を施すのだけれど。
 声を上げまいと、きつく目を瞑り唇を噛み締めている彼の表情に、何故か今日はいつになく情欲を煽られて。
「っ……ァ……!」
 深く腰を進め、噛み殺しきれず漏れた掠れ声に、いとしさが込み上げてくる。
 大きく広げさせた彼の足を抱え上げ、上体を倒して肌と肌とを密着させる。彼には辛い体勢だと判っているけれど、全身で触れ合っていたい。
 互いの胸が重なり、鼓動が響き合う。しっとりと湿った肌の感触と、上気した頬に落ちる震える睫毛の影。噛み締められて紅くなった唇。
「すきです」
 耳朶にくちづけながら囁いた自分の声は、ひどく掠れていて、己の余裕のなさが可笑しくて仕方ない。
 そこまでこのひとにはまっている自分が滑稽だ。そう、思うのに。
 感じるのは今までにない幸福な気持ち。このひとに逢うまでは知らなかった、あたたかい感情。
 聞こえていなかったのか、いまいち反応の薄い彼に苦笑し、もういちど繰り返す。
「好きです、イルカ先生……」
 ぼんやりと開かれた瞼の下から覗く瞳は、やっぱりキラキラとしていて。
 ぞく、と悪寒にも似た快感が背を駆け上った。
 衝動に逆らわず、彼の奥へと精を放つと、同時に達し脱力しきった身体を繋がったままで強く抱き締めた。
 苦しいのか、小さく呻く声が聞こえたが、離してやる気にはなれなかった。藻掻く彼を抱く腕に、逆にますます力を込める。
 やがて、腕の中で彼はすっかり大人しくなった。
 眠りに落ちたらしい彼の頬や額に、唇を押し当てる。

 あいするひと。
 どうかあなたの夢の中に、俺の居場所がありますように。

 

 ささやかなささやかな、たったひとつの願いごと。

 

 

――――――end

 

 



TOPからリンクを貼っていたお年玉企画物。
カカイルで変換して、一部分のみ直してみました。
企画部屋に置いてた時点ではDLフリーでしたが、
もちろんこれはダメですよ。よろしく。
'04.02.03up


 

 

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