理想のひと



「リョーマ様ぁ! 見て見て、どう? 似合う〜?」

 いつものように元気いっぱいに駆けてきた朋香が、リョーマの前でくるんと回転して見せた。
 ふわりと揺れる髪は、いつもと違いひとつで括られている。
 高い位置で束ねられた髪は、朋香が動くたびにぴょこぴょこと跳ねて、確かに活発な彼女にとてもよく似合っている。

「……どーしたのソレ」
「んもう! リョーマ様ったら、判ってないんだから乙女心!」

 ちっちっ、と人差し指を顔の前で振って見せた朋香が、パッと笑顔になって。

「あのね! リョーマ様、ポニーテール似合う子が好きなんでしょ? だからね!」
「………何で知ってんの。どこで聞いたワケ?」

 好みのタイプ、と訊かれて確かにそう答えた。
 だがそれは、まだ記事にもなっていない、学校新聞のインタビューのはずだ。
 しかし朋香はエッヘンと得意げに胸を張って見せた。

「あたしのリョーマ様情報網、なめてもらっちゃあ困るわね! ……ってゆーか、でも、結構女子は知ってるみたいなんだけどさ……」

 言われてふと気づいてみれば、朋香のようにひとつ縛りにしている女子生徒が、今日は妙に多いような気がした。
 こんなにライバル多いとは思わなかったわ、こりゃ負けてらんないわね! と拳を作る朋香。
 そういえばさっきすれ違いざまにあいさつを交わした桜乃も、ひとつに髪をまとめていた。
 トレードマークのお下げに比べ、ずいぶんと頭が重そうに見えたっけ。
 言われてみるまで、印象が薄すぎてまったく気づかなかったリョーマである。
 まあ、その辺は思い切って髪形を変えたものの恥ずかしくてリョーマをまともに見れず、いつも以上におどおどしてしまった桜乃自身の所為もある。
 しかし、それよりも。

「ねえ、似合う?」とリョーマの答えに何を期待してか、朋香が瞳をキラキラさせて見つめてくる。
 それからわずかに目をそらし、リョーマは「あー」と小さく唸った。そして。

「……ってゆーか。小坂田のいつもの頭って、ポニーテールじゃないんだ」
「へ? あたしのは、ツインテール…だけど……って、え?」

 すこし吊り気味の、猫のような目がパチパチと瞬く。
 何を言われたか理解出来ていない朋香を置いて、リョーマはすたすたと歩いていってしまう。

「……っねえ! リョーマ様、今なんて言ったの!? どーゆー意味!? ねえってばー!!」

 はっと気づいて、慌てて追いかけてくる朋香を振り返りもせず、わずかに赤くなった顔を俯かせて、ひとこと。

「まだまだだね……俺も」



THANKS!

 

 



長いこと置きっぱになってたWeb拍手お礼SSSその2。
これまた仕舞いっぱに(以下略)
リョ朋です。これもタイトルは急遽つけました。
リョ朋ーって考えた時、一番に浮かんだネタだったり。
アレですね、20.5で王子の好みがポニーテールの子って発覚してて。
王子なら勘違いしてるかもかなーなんて思っちゃったんでした(笑)
'06.06.12up


 

 

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