ONLY ONE




 手に取ると、さらりと指の隙間から逃げてゆく金糸。
 彼そのもののような、光を封じ込めたその髪が、しゃら、と微かな音を立ててシーツに零れる。
 長い睫毛の下から覗く、深い紫の瞳。何もかもを見通すようなその光に、抗える者なんてきっといない。強い意思を湛えたその瞳を、くちづけで閉ざさせる。
 すっきりと通った鼻梁、その先にある意外なほど柔らかく弾力を持った唇は、触れればしっとりと温かいことを僕は知っている。
 細い顎、首筋、浮き出た鎖骨――指で辿ると、正直な肌が僅かに粟立つ。
 幾度身体を重ねても、彼が他人の熱に慣れることはない。無意識に身を引くのを、多少強引に押し止める。華奢、とさえ言える尖った肩。
「……はっかい……」
 形の良い唇が、僕の名を綴る。いつもの押し殺すような低音ではなく、どこか甘い響きのその声。
 僕だけが聞くことのできる、至上の音楽。
 純白くて薄い胸に手のひらを添えて、思わず嘆息する。
 しなやかな筋肉に覆われた肢体は、女性のそれのように決して柔らかくはないのだけれど。
 その滑らかさに、触れるたび新鮮な驚きを感じることができる。
 そのまま伝い落ちてゆく指先が、男のものとは思えない細い腰に辿り着く。
 内側へと手を滑らせると、逃げるように腰が引かれる。
「……三蔵」
 咎めるように名を呼ぶと、彼は一瞬ビクリと身を震わせ、そしてすぐに全身から力を抜いた。
 彼が僕を受け入れてくれている――そう実感できる瞬間。


 唇を重ねる。ゆっくりと。

 
「……んっ…」
 微かに漏れる、熱を帯びた吐息。
 初めの頃は、滅多に聞かせてくれることのなかった声。
 投げ出されていた腕が持ち上げられ、僕に向かって差し延べられる。首に絡みつく。


 言葉にしてもらったことなどないけれど。
 拒まれないことと受け入れられることの違いが、僕には判っていた。ずっと。
 最初に手を延ばして、触れることを許された時には、きっと彼の中に特別な感情など存在しなかっただろう。
 誰でも同じだったなんて思いたくはないけれど、僕を想ってくれていた訳ではないことも、僕を受け入れてくれていたのではないことも、痛い程に伝わっていたから。
 彼は僕に抱かれても、一度も自分を見失ったりしなかった。どんなに欲に塗れさせても、決して汚れなかった。
 触れる唇は柔らかかったけれど、いつもどこか冷たかった。
 でも今は――――。
 彼の腕は僕を抱き締め、その唇は僕の名を紡ぎ、その瞳は僕だけを映してくれる。
 だからもう、言葉などなくても構わなかった。


 基本的に、男は気持ちが伴わなくても身体だけの快楽を得ることができる。愛などなくても、人を抱くことができる生き物なのだ。


 でも、僕は。


 貴方以外抱けない。抱きたくない。



 ねぇ、三蔵―――
 例えば、今はまだ無理だとしても。
 いつか貴方の中の僕は、僕にとっての貴方ほどに大きな存在になれるのでしょうか?






お気になんで持ってきました(笑)
仄かにH、を目指したらしいです…
こーゆー受の表現、やたら萌えます(笑)
一人称の文は恥ずかしいですけどね…(^_^;)






モドル