スキと温度

 

「手塚ってホントに英二のこと好きなの?」

 言われた時、頭を岩か何かで殴られたみたいなショックがあった。マンガ風に言うと、「ガーン!」ってカンジだ。
 失礼かつムゴイコトを言い放った不二が、心配そうな顔をするくらい(あの不二が、だよ!)、俺はしばらく放心しちゃってたみたい。
 そのくらい衝撃的な言葉だった。

 

 まず、電話をするのは、99%俺から。
 部の関係でかかってきたことがあるから、それが残りの1%なんだケド。それって数に入れていいのかにゃ?
 好きって言うのも俺から。
 ってゆーか手塚は俺が10回言ううちの1回くらいしか応えてくれない。それも、「好き?」って訊いて頷くくらい。
 デートに誘うのも俺。
 なるたけ優先してくれてはいるけど、5回に1回は断られる。その理由のほとんどが、大石との先約。
 キスをしかけるのも俺。
 する時は時と場所に注意しないと、手加減なしにはたかれる。ひどい時は3日口をきいてくれなかったりする。
 えっちは1〜2週間に1回。
 部活を引退してからはほとんど週1になったけど、1晩にお許しが出るのは2回まで。止まんなくなってつい3回しちゃった時なんかは、まるまる1週間口をきくどころか顔も見せてくれなかった。つまり避けられまくった。
 そういうことを振り返るたび、ちらっと考えては慌てて打ち消してきたギモン。
 それを不二は、あっさりと言ってのけてしまったのだ。

 

 付き合うようになってからのことを思い返してみる。
 俺から告って、2回目の時にOKをもらえた。けど手塚は、そん時俺のこと好きなんて言ってくれなかった。
 手塚のせーかく的に、好きでもない奴と付き合ってくれるわけないから、そうなんだろうってふうに自分を納得させた。照れ屋だから言えないんだろう、でもきっとそのうち言ってくれるだろう、そう思って。
 初ちゅー…はその時にもうしちゃったし。ちゅーして嫌がられなかったっていうのも、そう考えた要因のひとつだ。
 1ヶ月経たないうちに初えっち。場所は俺んちの俺の部屋(兄ちゃんと共同だけど)のカーペットの上。手塚は恥ずかしがってたけど、嫌がらなかった。可愛くって可愛くって、ついつい止まんなくなって。かなり痛かったらしい手塚は、しばらくはしたくないって言った。でも次は俺の部屋で…にゃ〜んて言ってくれたんだから、嫌じゃなかったってコトでしょ?
 そーやって、気づいてみれば。
 俺の想像だけで、手塚がちゃんと俺に「好き」って言ってくれたことって――――――いちどもなかった。
 いや、だからって疑うわけじゃないんだケド。
 好きでもない奴と付き合ったり、キスしたり、えっちしたり、なんて。手塚ができるタイプとは思えないし。
 でも。
 気づいた途端、めちゃめちゃさみしいと思ってしまった。

 

 手塚は本当に俺のことが好き?
 訊いたら、頷かれて終わってしまうだろう。それじゃダメだ。
 思い返せば、前にもこんなふうに、手塚にスキって言ってほしくてアレコレ考えた気がする。あの時はなんかうやむやになっちゃったケド。
 今度こそちゃんと、手塚のくちから、スキ、そのたったひとことを聞きたい。
 本当はこんなふうに俺が何かして、とかじゃなく、手塚が自分から言ってくれたら嬉しいんだケド。
 制服の首元からチェーンを引っぱり出して、その先に通してあるリングを手のひらに乗せる。手塚の誕生日にプレゼントした、ペアリング。俺はずーっと大事に肌身離さず持ってるけど、手塚はどうだろう。喜んではくれたみたいだったけど、机の引き出しとかにしまわれちゃってる気もする。
 なんてゆーかさぁ。
 温度が違う気がすんだよね。
 たとえば俺の「手塚大好き!」って気持ちが100度とすると、手塚のは50度くらいしかないんじゃにゃいかにゃ。いや、そりゃいくら何でも失礼か。……うーん、60度、……70度くらい? まあつまり、そゆこと。
 手塚の平均温度って20〜30度くらいっぽいから(あくまで俺から見ると、だよ?)、かなり別格の位置に置いてもらってると、そんくらいの自信は持ってる。けどさぁ。何ちゅーか……大石、とかだったらもしかして俺と同じくらい、もしかしたらそれより上かも、なんて、さ。
 冷静に考えたらクダラナイたとえ話のオチにひとりでブルーになってると、不二がツンツンと俺の肩を突付いてきた。
 指差してるほうを見たら、教室のドアんとこに話題の(?)手塚サンが立っていた。
 ――――――アレ? 手塚がうちのクラスに来んのって。………もしかしなくても初めてなんじゃ……!?
 俺は跳ね上がるように椅子から立って、ものすごい勢いで手塚のほうへ向かった。
「ど、どーしたの手塚!?」
「……それはこっちのセリフだ」
 俺の勢いにビックリしたらしい手塚が呆れたみたいに言う。や、そーじゃなくて。よっぽどの用事があるんじゃないの!?
 そう訊いたら、手塚は。
「今日、うちへ泊まりに来るか?」
 表情ひとつ変えずに、何でもないことみたいに。
 俺はポカンと口を開けたマヌケ顔で手塚を見た。手塚のほうからこんなコト言ってくるの、初めてだ。にゃんだ? にゃんで今日はこんな、嬉しい初めてづくしにゃんだっ?
 この手塚はホンモノの手塚か? なんて思わずまじまじと見てたら、ふっと手塚のほっぺが赤くなった。カワイイ反応。確かにコレは俺の手塚だ!
「い……行ってもいーの? 平日なのに。にゃんで?」
 次の日がお休みじゃなきゃ、ぜったい許してくんないのに! と、訊いてみたら、何でか手塚はまたも呆れた顔で。
「明日はお前の誕生日だろう」
 ……………………。
 わ、忘れてたーーーーーー!!!
 そうだ俺あした誕生日なんじゃん! そんであしたは帰りにみんなで遊びに行くんだったんじゃん!!
 ………あれ。じゃあもしかして、お泊まりが『今日』なのは。

「誕生日には恋人にいちばんに祝ってほしいと。お前が言ったんじゃないか」

 どこかスネたみたいに。
 手塚のくちから零れた『恋人』とゆう言葉が、俺の中で温度を急上昇させて。

 脳みそがふっとうするかと思った。

「……スゴイ。手塚ってば、もうプレゼントくれちゃった」
 不思議顔の手塚に、何でもないよん、て笑ってみせて。

 

 俺たちは放課後の約束を交わして、別れた。

 

 

 



二回目の菊BDネタ。
てゆーかまた誤魔化されてんじゃん、菊!!(死)
(JEALOUSYシリーズ『今日も、晴天』参照)
しかしラブラブのくせに受が未だに「好き」って言ってないって、
それってどーなのよ桃木さん…?(苦笑)
つーかたぶん間に合ってないけど日付は心意気ってことで。
…や、スミマセン…(T_T)
ちなみにコレの続きを裏仕様で書くかどーか考え中。


 

 

モドル