やっと手に入れた。俺のカワイイひと。

何度でも


 

 一度目の告白は、出会って間もない、葉桜の頃。
 もうすぐ誕生日なんですよ、今年も独り侘しくケーキ食うんだろうな。そんなふうに笑った顔が、寂しげで。
 自制する間もなく抱き締めて、稚拙な言葉で告げた。

 すきです。

 彼はびっくりした顔をして、慌てて俺の腕を振りほどいた。
 真っ赤になって、困りきった表情をして。ゴメンナサイと応えた彼に、傷つきはしたけれど。
 さっきの寂しそうな顔よりはイイと、そんな自己満足で「気にしないで下さい」と言った。
 しばらくの間は気まずそうにしていた彼も、こちらが以前と変わりなく接すると、次第に笑顔を向けてくれるようになった。

 

 二度目の告白は、その年の冬。
 色々と考え方の違いでぶつかったり、仲直りをしたり、その最中に里の大事や俺が寝込むこともあって。
 その頃には友人と呼べるほどに近しくなっていた彼と、差し向かいで酒を飲んでいた時だ。
 馴染みの居酒屋で、彼は酔いにほんのりと目元を染めていて、邪気のない笑顔を向けられたら止められなかった。

 好きですよ。

 微笑みながら告げれば、一瞬きょとんと目を見開き、次いでにっこりと笑って応えた。

 俺もですよ。

 その、何の気負いもない言葉に、それがこちらの意図するものとは異なることが判って、苦笑した。
 初夏の頃の俺の告白など、覚えてもいないのだろう。
 俺は笑って、酒を煽った。気まずくなるよりはいいと思って、彼の勘違いをそのままにした。
 彼はひどく楽しそうで、少しだけ寂しかった。
 彼に近づきたかっただけなのだけど、友人になどなるのではなかったと、少しだけ悔やんだ。

 

 三度目は、出会って二年目の春。
 年度始めで忙しい合間に、俺の誘いを受けてくれた彼と、彼の部屋で食事を摂ったあと。
 意外に家庭的な彼の手料理を食べて、アナタの奥さんになるひとは幸せだろう、などと自虐的な冗談を言った。
 彼は、そうですか? と少し赤くなりながら答え、でも俺は嫁さんの手料理が食いたいです、と続けた。
 彼が夢見る平凡だけれどあたたかい家庭は、とても容易に想像できて。
 胸が痛くて、うまく笑えなくなった。

 好きです。

 俯いたままちいさく告げた。
 彼は応えなかった。
 聞かなかったことにされたのか、本当に聞こえなかったのか。
 ずるいひとだなと、はじめて彼を責める言葉が浮かんだ。

 

 もう、諦めたほうがいいんじゃないだろうか。
 だって彼は、決して俺をそういう対象に見ない。どんなに近づいても、友人以上の関係など望めない。
 判っているのに。
 それでも。
 どうしても、好きだった。

 始めは、一目惚れで。
 今思えば、一度目に想いを告げたときには、きっとそんなにも強い気持ちではなかった。
 あの頃のままなら、とうにこの恋は死んで、彼の望む友人としての情が生まれていたかもしれない。

 目を閉じれば、容易く浮かべられる彼の笑顔。
 ひらひらと舞う薄紅色の花弁が、足元に積もる。俺の、彼への想いのように。

 

 

 最後にしよう、と思った。
 四度目の告白。
 秋の日に、秋刀魚をもらったと夕食に招待してくれた彼に、最後の告白を。

 好きなんです。

 今までの、どの言葉よりも切羽詰った声になった。
 笑われたり、流されたりしたら。今度こそキッパリと彼を諦めよう。未練を断ち切るため、友人としての付き合いも、これきりにしよう。
 俺の覚悟が伝わったのか、彼は長く無言でいた。
 じっと見つめる先、彼は俯いていて表情は見えない。
 このまま、黙殺だろうか。そう思うほど長く、沈黙は続いた。そして。

 

 お……、俺も、すきです。

 はじめて。
 彼から、求める答えが返ってきた。

 

 

 本当はずっと好きだったんです。
 でも、もし恋人としての付き合いを了承してしまえば、いつか終わりが来る。
 それなら、友人としてでもいい。このままでいたかったんです。

 俺の目を見つめられないまま、彼が言う。
 俺の様子から、これが最後だと感じ取った彼は、ここで終るよりも少しでも長く続ける方法を選んだのだ。
 真っ赤になった彼が告げてくれた言葉は、あまりにも愛おしくて。
 俺は、彼を抱き締めた。
 もう、抑える必要などないと、彼が言ってくれたのだ。
 彼は俺の背に、そうっと腕をまわして抱き締め返してくれた。
 そうして、耳元に、もうひとつ言葉をくれた。

 誕生日、おめでとうございます。

 彼の祝いの言葉を聞いて、思い出した。
 自分ですっかり忘れていたのだけれど、今日は俺の誕生日だったのだ。
 もらったと言っていた秋刀魚は、本当は俺の好物だからとわざわざ用意してくれたものだと言う。
 このひとは、いつ俺の誕生日など知ったのだろう。いつから、祝いたいと思ってくれていたのだろう。
 嬉しくて、幸せで、涙が出そうだった。

 

 やっと手に入れた。
 この手に、おちてきてくれた。
 俺の、カワイイひと。

 

 

――――――end★

 



えーと、もう何度目ですか。四度目?五度目か?の、
カカシ先生生誕祝SS。
完全見切り発車でしたが、愛で何とかなるもんですね。
脳内を某海賊団のコックさんと剣士さんに侵されていて、
ぶっちゃけ大丈夫か自分、と思ってたんですけど。
カカシ先生への愛は、変わらないようです(苦笑)
カカシ先生、はぴば!!
'07.09.15up


 

 

※ウィンドウを閉じてお戻りください。※