無茶を言う



 修行を終えた後、風呂を使いさっぱりすると、酒を飲みたくなった。
 勝手に飲むと料理人がうるさい。ゾロは、覗いたキッチンにいなかった料理人を探し、甲板をうろついた。
 さほど探すこともなく、パラソルの下でくつろぐナミとロビンに給仕している姿を発見した。
「おい、クソコック」
 声をかけると、料理人は愛想よく振り向いた。
「何か困ったことでも? ゾロちゃん♥♥」
「……酒」
「喜んで! おつまみも用意するよ〜」
 言いたいことは山ほどあったが、まずは酒だと、ゾロは飲み込んだ。
 メリー号の料理人・サンジは、ナミたちに仰々しく一礼し、跳ねるような足取りでキッチンへと向かった。その後をゾロが続く。
 腰に差した三本の刀を、ひどく意識した。

 

 

 酒瓶とグラス、そして和食風のつまみが三品ほど。昼間にしては贅沢だ。よほど機嫌が良いらしい。
 テーブルに着き、さっそく酒瓶の封を切ろうとすると、サンジがそれを取り上げ、慣れたしぐさでコルクを抜いた。
「どうぞ、お姫様」
 そう言って軽く傾けて見せるので、ゾロは黙ってグラスを取った。
 酒を満たしたグラスに口を付けるのを、サンジがじっと見つめている。その甘ったるいまなざしに、ゾロはとうとう我慢ができなくなった。

「……いい加減にしろ」

 ドン、とグラスをテーブルに叩きつけ、サンジを睨みつける。
「何が?」
「っじゃねェよ! 何遍言わせんだ。あたしを女扱いするんじゃねェ!!」
 メリー号の戦闘員である女剣士は、きょとんとしているサンジの胸元を乱暴に掴んだ。
 こんなふうにされても動じないサンジに、苛立ちが募る。侮られている気がする。女だって、あたしの力はてめェよりも上だ!
 元々つり気味の目尻をますます鋭く吊り上げて、胸倉を掴んだまま睨みつけてくる美人剣士に、サンジは困ったようにその特徴的な眉を下げた。
「でも――おまえは女性だ。俺は女性に対してこういうふうにしか出来ねェんだよ」
「あたしはナミやロビンとは違う。剣士として最強を目指したときから、命も性別も捨ててる。そう言ったはずだ!」
 ゾロは突き放すようにサンジから手を離し、代わりにその手から瓶を引っ手繰って直接口を付けた。一気に半分以上を飲み干す。
 ひとつ息をつき、サンジを見遣る。
「ついでに言っとく。戦闘のとき、あたしまで守ろうとすんな。てめェよりあたしのほうが強ェんだ。そんな暇があんなら、ナミをきっちり守ってろ」
「……ナミさんのことだって、俺は守るよ。けどよ――」
 サンジは情けない表情で笑い、ゾロをまっすぐに見つめた。
 確かにゾロは強い。女にしてはしっかりと筋肉もついているし、パワー勝負で勝てる気はしない。
 けれど、大きくシャツを盛り上がらせている胸や丸みを帯びた腰――その身体は、確かに女のもので。
 顔立ちだって、綺麗な線を描く眉に切れ長の二重瞼、長い睫毛。すっきりと通った鼻梁、大きめだけれど形のいい、ふっくらとした唇。どこをとっても、女――極上の美女だ。
 バラティエで初めて彼女を見た瞬間、サンジは彼女に一目惚れした。そしてその後、鷹の目との闘いを見てもう一度恋に落ちた。
 ゾロを愛しているのだ。
 ナミやロビン、そして世界中の美しい女たちに向ける気持ちとは、まったく違う気持ちで。
 愛するひとには、優しくしたい。それを、否定されては。
「――おまえを愛してる。何遍も言ったよな?」
「知るかよ――あたしは恋だの愛だのに現抜かしてるような暇はねェんだよ」
 ゾロはサンジから目を逸らし、再び酒瓶に口を付けた。
「ゾロ」
 呼びかけにも、応えない。言いたいことを一通り言って、多少は収まったのか、苛立ちは消えている。
 だが、サンジがなおも呼びかけようとするのをゾロは遮った。
「あたしにそういう目を向けんな。女だと思うな。ルフィやウソップ、チョッパーと同じように扱え」
 それだけ言うと、瓶を手にしたまま、キッチンを出て行く。
 すっきりと伸びた彼女の背を見送り、ドアが閉まると同時、サンジは椅子に腰を落とした。

「……無茶言うなよ……」

 力ない笑いが漏れる。
 愛するゾロの意思は、出来る限り尊重したいと思う。でも、こればかりは譲れない。
 わずかに中身が残ったグラスを取り、サンジはそれを頬に当て目を閉じた。
 何度言われても、ゾロ、おまえを女として見ないなんて無理だ。俺は、おまえを大切にしたいんだよ。
 たとえそれが、おまえのプライドを傷つけるのだとしても。

 

 

 

 

      ――――END?

 



ゾロが先天的に女性であるという設定の話です。
正確には、くいなちゃんと性別が逆転しています。
女の子ゾロたんは、くいな君(笑)が初恋のお相手です。
でも、本人は頑なに「親友でライバル」と言い張ってます。
シリーズとして、色々書けたらいいな。
…つか、どんだけイロモノ好きなんだよ、私(爆)
いや、でも最初にこれ言い出したのは相方なんですよ!!
一人称「あたし」なゾロたんに違和感バシバシでしょうが、
嫌悪感がなかった方は、慣れて下さい(笑)
嫌悪を感じてしまった方は、以後見ないよう注意してください。
苦情は受け付けません★
'08.04.22up


 

 

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