無意識の罪



「ルフィ……?」

 目を瞠って、見上げてくるその双眸。あァ違う、そんな表情をさせたいわけではないのに。
 ルフィはちくりと胸が痛むのを感じた。

「……ゾロ……」

 名を呼んで顔を近づけると、ゾロは観念したように溜め息をついて、ゆっくりと瞼を伏せた。ほんの少しだけ開かれている唇を、ルフィは己のそれで塞いだ。
 ルフィのゴムの腕はゾロの両腕を、両の足はゾロの足の片方ずつを、それぞれ戒めるように巻きついていて。残った片腕をも伸ばして、ゾロの身体のあちこちに触れる。
 塞いだままの口から、ゾロが小さく声を漏らした。眉が寄り苦しげな表情だが、頬や目元が赤く染まっていて、ルフィはそんなゾロをとても色っぽいと思った。
 胸が、ぎゅうっと引き絞られるように痛んだ。
 ルフィはキスを止めてゾロのシャツをたくし上げ、露わになった肌の上に顔を埋めた。鷹の目との戦いで付けられた大きな傷を舌でなぞりながら、何故、と思う。
 ゾロに対して、こんなことをしたいなど、思ったこともない。
 ――――そのはずだった。
 それなのに、何故。

 

 何故、こんなゆめを。

 

 ゾロが、潤んだ瞳でルフィを見つめる。浅い呼吸を漏らしていた唇が、震えながら何かを言う。
 それは、ルフィの名、ではなくて。
 その声で、一度も聞いたことのない響きを――――――

 

 

 

 

 目を覚ますと、サウザンドサニー号の男部屋で、ルフィはいつもどおり寝ていた。身を起こして周りを見回す。
 ウソップ、チョッパー、フランキー、―――サンジ。皆、いる。きちんと眠っている。ジムにいるのだろう、ゾロ以外は。
 ゾロだけが、ここにいない。
 どこかホッとして、ルフィはもう一度身体を倒した。下半身に、熱が燻っている。あの、夢のせいで。
 自分が、ゾロを組み敷く、なんて。絶対にありえない――あってはいけないことだ。ただの夢でも。あんなのは、ダメだ。
 ダメなのに、身体は、厭になるほど単純な反応をする。
 そのまま処理をするのも躊躇われて、ルフィは何とか熱を散らそうと、歯を食いしばってきつく目を瞑った。
 途端、夢の終わりに聞いた、ゾロの声が耳の奥によみがえった。

『サンジ』

 ゾロがサンジを、名前で呼ぶところなど、聞いたこともない。それなのに夢の中のゾロは、ルフィに襲われて、それを許しておきながら、その名を呼んだのだ。
 スッ、と熱が引いていくのが判って、ルフィは思わず笑いそうになった。
 馬鹿みてェ、そう思う。
 ゾロとサンジが、そういう関係だと知っていて、あえて知らんふりをしていた。ゾロが許して、サンジが幸せで。ゾロも幸せなら、それでいいと。気づかないふりで黙認していた。

 だって、俺は違うから。
 ゾロを好きで、大切で、一番で、でもそれは違うから。
 ちがうのに。
 自分に抱かれて、自分以外の名を呼ぶゾロを、一瞬――ほんの一瞬だけれど、メチャメチャにしたいと思ってしまった。

「ダメだ。そんなん……ダメだ」

 ゾロ。
 一番最初に見つけた、仲間。ルフィのことを、一番判ってくれるひと。ルフィの大切なたったひとつの宝。
 その彼を傷つけるなんて、憎むなんて、そんなのはあってはいけないことなのだ。
 強く――強くならなければ。
 もっともっと、強くならなければならない。
 こんな欲になど負けないように。ゾロを、失ったりすることのないように。

 

 

「……けど。………辛ェ……なァ」

 

 

 俺はずっとずっと、ゾロのたったひとりの『船長』で在り続けるのだから。

 

 

 

 

      ――――END

 



矛盾。だけど、どちらも本心。
サンゾロベースのル→ゾロ。夢の中にしかゾロが出てきませんが。
サンジさんなんか、名前しか出てない…
ルフィだって健全(?)な17歳の男の子。
好きなひとがエッチな夢に出ることくらいあります。
でも、それは認めちゃダメだから、必要以上に苦しむ。
そういうのを、書きたかったんですが…表現しきれてない…orz
これでもずっと、ルゾロだったんですけどね。8年近く。
サンゾロにハマる前まではね…(^^ゞ
'08.09.22up


 

 

※ウィンドウを閉じてお戻りください※