LOVELY BABY
〜8〜



 シャンクスは肩を竦め、「お前が見せ付けたんだろ」と返してきた。もっともだ。けど、腹が立ったんだからしょうがない。シャンクスの呼びかけに応えたときには、何か楽しい展開があるかと思っていたのに。自分が何を期待していたのかも、もう判らなかった。
 シャンクスはもう一度ちらりとガキを見て、ここはラブホじゃねェんだがなァ、などとぼやきながら出て行った。
 腕の中、身を縮めて泣きじゃくる可愛いにゃんこを、俺はぎゅっと抱き締めてやる。そうしてから、挿れたままだったモノを抜き、向かい合う形で改めて抱え込んだ。
 行為後の火照りと、泣いていることで体温が上がって、ぬくぬくと温かい身体。
 あァ、もう観念するしかねェかな。思えば最初から、こいつは特別だったんだ。客相手にハマるなんてありえなくて、気付こうともしなかった、けど。こんなガキ、まともに相手にしようなんて、もしこいつじゃなかったらきっと。自分から挿れたいと思ったのだって。
 しばらく抱いていると、少し落ち着いてきたのかガキの震えが止まり、すん、と小さく鼻を鳴らすのが聞こえた。

「……なァ。お前、そんなに俺が好き?」

 こんな扱い、されても? そう、顔を覗き込むようにしながら訊く。
 ガキは、真っ赤な目にまだ涙をいっぱいに溜めたまま、頷いた。潤んだ瞳は、それでもまっすぐ俺に向けられている。この目にやられたのかもなァ、なんて思いつつ。
「そ。じゃあ、俺に飼われてみる?」
「…………?」
 意味が判らないらしい、きょとんと首を傾げるガキ。俺は、瞬いた拍子に零れた雫を、やっぱりキレイだとぼんやり見つめながら、続ける。
「もちろん、お仕事優先だけど。カラダが空いたときは、いつでも構ってやるよ。いくらでも、お前が望むだけ可愛がってやるし」
 ガキの目が、ゆっくりと見開かれていく。
 戸惑いと、ほんのわずかの期待。そしてそれを打ち消そうとしているのが伝わる。まなざしを揺らして、少し俯き加減で、それでも上目遣いに俺を見つめてくる。それから、躊躇いがちに口を開いた。
「で、でも。俺、そんなに金ねェし……」
 聞いた途端、思わず噴き出してしまいそうになった。
「バァカ。どこにペットから金もらう飼い主がいんだよ。タダに決まってんだろ」
 俺は抑えきれず漏れる笑いに唇を歪めつつ、ガキの頬に手を伸ばした。
 飼うの何のと、本当は、こいつをここに来させたくないだけ。そしてそれは、俺の勝手な気持ちだ。
 この店にいる人間、客にしろ商品にしろ、そいつらの中の誰かがこいつに目をつけないなんて、どうして言える? この俺に、こんなふうに思わせるこいつを。シャンクスが他意もなく向けた視線でさえも許せなかったのに。

「俺のにゃんこになりな」

 ガキは泣きながら、何度もおおきく頷いた。その素直さが、純真さが眩しい。
 まさか、こんなガキんちょに堕とされるとはな。
 可笑しくなって、声に出さずに笑ってそして、甘ったるいガキの唇へとくちづけた。一所懸命に応えてくるガキの頭を撫で、くちづけの合間に囁いた。
「店への道順は、もう忘れていーからさ。俺んちへの行き方、しっかり覚えろよ? ま、そのうち迷子札作ってやるけどな」
「……迷子になんか、ならねェよ」
 ガキは真っ赤な顔になりながらも、そこは譲れないとばかりそう反論して、むくれて見せた。

 

 

 厨房にいた李梨ちゃんにあいさつをし、一応謝っておいてから、俺はペットの手を引いたまま店を裏から出た。店からそれほど離れていない、駅近くのマンションへ向かう。
 ガキはしきりに辺りを見回している。こんなにきょろきょろしていたら、却って景色とか覚わらねェのかもな。あとでケーバンとメアド交換しとかねェと。住宅街からは外れてるし、変なとこに迷い込まれたらヤバイ。
「でけェ建物だな。サンジさんちって、何階?」
「んー? 三十階建ての、十二階」
「ふぅん。高ェな」
 俺んち、二階建てアパートだ、とガキはマンションを見上げて呟く。何となく、名前だけは洒落たボロアパートを想像した。
 入り口からまっすぐエレベーターに向かい、そのすぐ隣にあるパネルのキーを押す。すぐに反応してエレベーターのドアが開くのを、ガキは感心した様子で見ていた。いや、ちゃんとやり方覚えとけよ?
 乗り込んでボタンを押せば、俺の部屋のあるフロアまでノンストップだ。部屋の前でカードキーを差し込み、相変わらず物珍しげにしてるガキを招き入れる。ソファに座らせておいて、俺はまず、寝室へ足を向けた。どこかに仕舞いこんだままになっているはずの、スペアキーを捜すためだ。
 箪笥やクローゼットを開けていき、ベッドサイドの棚の奥にあったのを見つけた。それを手に戻ると、ガキはソファで固まったままでいた。
「……お前、そのカッコ、疲れねェ?」
「だ、だって」
 呆れたように言ってやると、ガキは困ったように眉尻を下げて俺を見上げてきた。
 俺は肩を竦め、その隣に腰を下ろした。ビク、とガキがさらに身を硬くする。ここまでのこのこ付いて来たくせに、今更緊張してるらしい。借りてきた猫、って感じか?
 とりあえず携帯を出させて、番号とアドレスを交換しておく。ガキは画面に表示された俺の名前をじっと見て、ぽうっとしている。あーもーこいつ、たまらんね、ホント。思って笑い、ケータイを手にしたままのガキをそっと抱き寄せた。
「さ、サン……っ」
「首輪、着けねェとな。……お前に似合う奴、選んでやるよ」
「……俺、……あんたのペットになんのか? ホントに?」
「何。冗談だと思った?」
 耳朶に唇をつけて囁くように訊けば、ぴくんと肩を震わせ、戸惑った表情で俺を見る。
 やっぱり嫌なの? と重ねて問えば、ふるふると首を横に振って否定する。
「あんたのもんになれるんだったら、何でもいい」
 ――また、そんなふうに健気なことを言って、俺をこれ以上どーしたいのよ、お前は。
 さっき店でヤったばっかなのに、ムラムラしてくる。つか、そーいや自宅に他人入れたのだって初めてだぞ、俺。まだたった二回会っただけのガキに、どんだけ狂わされてんだか、まったく。
 だけど、そういう狂った自分が嫌じゃない。それどころか、むしろ。

「なァ、……明日の朝、アパートまで送ってやるからさ。泊まってくよな?」

 ガキはどこかとろんとした熱っぽい瞳で俺を見つめ、こくりと頷いた。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



にゃんこになっちゃいました(笑)
ノルマはあとひとつ。これもすぐ、次かその次にできそうです。
書きたいシーンが、結構続けてあったんですね。
何か、思ったよりもラブモードになっててびっくりした。
おかしいな。もうちょっとこう、サンジさんが…
まあいいや(おい)
ゾロたんの健気さは、天井知らずです。
楽しいなァ、可愛いゾロたんにメロメロになってくサンジさん!(笑)
シャンクスが普通のオッサンでつまんないですか?(訊くなよ)
'09.02.02up


 

 

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