LOVELY BABY
〜1〜



 携帯でセットしておいたアラームが鳴る。と、途端に隣で眠り込んでいた男がばちりと音がしそうな勢いで目を覚ました。
 それを見守っていた俺は、とびっきり甘ったるい声を、その耳の中に吹きかけてやった。
「モーニン、ミズキさん。起きれそう?」
「…………サンジ」
 慌てて身体を起こそうとしたミズキは、一瞬、辛そうに顔を顰めた。その様子を見て、俺はぺろりと舌を出してみせる。
「あ、やっぱキツイ? だってミズキさん、最近寝てないって言うからさァ、ソッコーで終わらして寝かせたげたの。ついてけなかったみたい? ゴメンね?」
 まァ、寝かせたというか、失神させたわけだが。
 ミズキは赤くなって、いや、と首を振った。俺よりガタイが良くて、五才も年上なのに、カワイイ男だ。素直に家に帰って寝てればもっとゆっくり休めたろうに、久しぶりだからと俺に会いに来ちゃうあたりとか。
 俺が見つめる中、ミズキは急いで身支度を始めた。脱ぎ捨てられたままになっていた衣服を取り、身に着けていく。
 彼が動くたび、質のいい筋肉が伸縮する、それをこうして眺めるのが好きだ。鍛え上げられたあの身体が、ほんの一時間半前まで、俺の下で身も世もなく悶えていた。そう思えばゾクゾクしてきて、また下半身に熱が灯りそうになる。
 俺の視線を気にしてか、妙にゆっくりと服を身に着けるミズキが、落ち着かなさげにちらちらと俺を見遣る。
 それに、にっこりと笑ってみせ、

「ミズキさん、次、いつ来てくれる?」

 ミズキは少し考え、ちょうど十日後の日付を言った。

 

 

 ここは歓楽街の外れにある、所謂ゲイ専門の風俗店『ブルー・オーシャンズ』。俺・サンジはこの店のナンバーワン商品だ。
 当店の基本メニューはマッサージ&トークで一時間、一万ベリー。以降一時間延長するごとに一万ずつ加算で、挿入ありならプラス三万。挿入は商品と直接交渉して、商品側が断れば不可となる。
 基本的には、商品である俺らは、お客サマを選べないことになっている。つまり、相手は選べないが、挿入有り無しの選択権は与えられてるわけだ。
 その点、俺はまあ甘やかされてる。どっかの大グループの重役サンが手慰みに始めたというこの店の雇われオーナーはシャンクスと言って、俺の遠い親戚のオッサンである。俺がここに勤めだしたのは偶然だったが、そのおかげである程度はワガママが通るのだった。
 例を挙げるなら、好みからあんまり外れてる客からの指名は、急用や居留守を使ってお断りも可。挿入はする側のみ、などだ。
 他の奴から反感は買うが、ルックスもテクも店一番の俺に面と向かって文句を言う奴はいないので、無視している。実際ずっと売り上げナンバーワンだし、俺。今じゃ常連以外は要予約、な売れっ子だし。
 ちなみにミズキは、俺の初めての客で。
 六年経った今でも二週間と空けずに通ってくる一番の常連、上得意サマだった。

 

 

 今日の俺の予定は、これで終わり。ミズキを外まで見送ってから部屋に戻り、シャワーを浴びる。タオルで髪を拭きながら着替えをバッグから出そうとしたところで、部屋にある電話の内線が鳴った。
 出れば、予想通り相手はオーナーのシャンクスだった。いやあ悪いね、とまったく悪いと思っていない笑い混じりの声が通話口から聞こえる。

『最後にひとり、飛び入りだけどさ。相手してやってよ。お前に一目惚れしちゃったんだってさ、健気じゃねェのよ、な?』
「はァ??」
『東の間に通すからさ。よろしく〜♪』
「ちょっ、俺はもう帰――シャンクス!」

 ぷつん、と切れた通話。こっちの話など一切聞かず一方的に決め付けて、シャンクスは受話器を置いてしまったのだ。
 ま――普段好きにさせてもらってるし、多少の無理は聞かなくはねェけど。今日は夕方からの入りで三人、延長も挿入もミズキだけだったし、疲れてなくはないがミズキを休ませるついでに俺自身も休んだし、身体的にはもうひとり相手にするくらい全然イケるけどさ。
 飛び入りってことは、一見サンか。馴染みでもない客の無茶を通すなんて、しかも俺の都合も無視なんて、ホント珍しい。よほどシャンクス好みの面白い奴なんだろうな。
 俺は諦めて溜め息をひとつつき、受話器を戻した。裸の上に適当に襦袢一枚を羽織って、帯も締めずに部屋を出る。
 昔の吉原みたいな遊郭でもあるまいし、ここはただの風俗店。着物がユニフォームなんてことはない。単に浴衣や襦袢――は下着だけど――のほうが洋服より脱ぎ着がし易いという理由で、俺は好んで着ているというだけだ。
 廊下の途中で従業員やお仲間にあいさつを寄越され、軽く手を上げて返す。六年も勤めてる上ナンバーワンの俺は、ここでの地位は結構高い。美少年系のネコ専の奴なんかは、人気あっても三年もいりゃ長いほうで、さっさとカレシ作って辞めてく奴が多いのだ。
 ずるずる襦袢の裾を引きずって、東の間へ向かう。
 店の一番端にある東の間は、和室になっている。ちなみにミズキの相手をしてたのは西の間で、洋風の部屋にダブルベッドが置いてあったが、ここはダブルの布団が敷いてある。俺はどっちでもいいけど、受身側にはベッドのほうが楽じゃねェのかな。
 っても、俺が言ったところでどうなるもんでもねェし、ネコの奴の意見を聞いたわけじゃねェから実際のとこは判らねェんだけどさ。
 それはともかく、部屋に着くと、俺はいつもどおりノックもせずに引き戸を開けた。
 そして、「お待たせ」とお客サマに営業スマイルで笑いかけようとして――そのまま固まってしまった。
 振り返ったド派手な緑頭は、俺を見てカアッと顔を赤くした。初心い反応だ。一目惚れ云々はマジらしい。外見的にも内面的にも、タイプ的にはミズキと近い感じだろうか。アレよりもだいぶ小さいけど。
 ぶっちゃけ、可愛い。可愛いのは可愛いんだが、シャンクスが好みそうなタイプで、俺も好みっちゃ好みなんだが。
 問題は、ソイツが身に着けているモノ――だ。

 シャンクスの笑い混じりの声を思い出す。あの変態バカオヤジ、何考えてんだ。これはいくら何でもヤベェだろ。

「――――っガキじゃねェかっっ!!」

 思わず叫んだ俺をびっくり顔で見上げてくるソイツは――真っ黒な学生服に身を包んでいたのだった。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



とりあえず出会いまで。
まだエロに到達していませんが、内容的に18禁です。
次回もエロにいけるか微妙。でも一話ずつを長くしたくない(死)
しつこいくらい強調しますが、サンジさんはタチです。
つか男娼ってか、風俗嬢(…)じゃん…?これ。
まあ、ニュアンスだけ。
最初は陰間茶屋とか、本格的に考えてたんですよ〜(苦)
でも、話が重くなると嫌なので。軽めに。
ちなみに、もちろんマッサージとは性感マッサージです(笑)
'08.11.24up


 

 

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