片想いまで、あと少しだけ





 久し振りの、お休み。
 ここは、手塚んち。オレのとこは兄ちゃんと相部屋だからね。ゆっくり二人きりになれるとこって、けっこー限られちゃうんだよね。
 いつもなら、普段あんまりできない分、いっぱいイチャイチャしてちゅーとかもして、思う存分エネルギー充電! しちゃうんだけど。
 にゃんと、今日はと〜〜ってもマジメな話があったりすんだにゃー、これが。
 チラって目上げたら、そーゆー空気が伝わったのか、手塚はちょっと身構えてるみたいだった。
 んー。
 やっぱ、サイコー可愛い♥
 キレーでカワイくてカッコよくて、頭もよくて可愛くて(アレ?)、ホンっと、手塚がオレの恋人! だなんて自分でもいまだに信じらんないよ。
 いや、もうとっくにエッチまでしちゃってるんだけどさ。そんでも時々夢じゃないかって思うことがある。
 だからさ。
 どっかで、この夢が終るコト、オレは判ってたんだろうなぁって思う。




「ね、手塚。オレたち、別れよ?」

 何でもないよーな声が出せたことに、自分でちょっとビックリしてしまう。
 弾かれたみたいに顔を上げた手塚は、いつもの無表情・無愛想っぷりはどこへやら、すっごく哀しそうなカオしてて。
 チクンって、胸が痛んだ。
「………菊丸………?」
 ああ、そんな声で呼ばないでよ。今すぐぎゅーってしたくなっちゃうじゃん。
 ダメだよ、話はまだ終ってないんだからさ。
「手塚、アメリカ行くんでしょ? でもオレ、遠距離恋愛って向いてないから。だから別れよ?」
 だったら行かない――――なーんて言ってくれたら嬉しかったんだけど。
 そんなこと手塚が言うわけないし、もしホントに言われたとしたら、オレはきっと「行け」って言っちゃうんだろうけどね。
 辛そうに歪む、手塚のカオ。判ってるよ、行きたいに決まってるもんね。ゴメン、そんなつもりじゃなかったんだけど、今のはちょっとイジワルな言い方だったよね。
「帰ってくるまで、さ。どんくらいかかんのか知らないケド。その間オレ、ずーっと手塚に片想いしててあげる。そんでさ。もしその間に手塚が誰かを好きになって、」
「そんなことはない」
 オレの言葉を遮るみたいに、手塚がキッパリ言った。怒ってるみたいにオレを睨んで。
 オレは思わず微笑ってしまった。
「てーづか。嬉しーけど、最後まで聞いて?」
 手塚のほっぺたを両手で包んで、おでこをコツンってぶつける。手塚のメガネがカシャンってズレて、ながぁい睫毛とキレーな目が覗いた。
 目の下んとこがピンクに染まってる。手塚ってば照れてるの? カワイーなぁもう♥
 ――――っと、いけない。続き、続きっとね。
「あのね、手塚。もし手塚が帰ってきた時、手塚に恋人がいてもね。オレ、手塚に告白しちゃうよ? 絶対諦めないで、そいつから手塚を奪うから」
 ね、ってニッコリしたら、手塚はビックリしたみたいに目を丸くして、それから。
 手塚の目がうるって揺れて…………大粒の涙がポロポロって零れ落ちた。
 んにゃ――――っ!? にゃ、にゃんで泣くのぉ――――!? ここは、「ありがとう、菊丸。行ってくる」……って笑うとこだよ――――!? そんでもって、「好き♥」なーんて言ってくれたらカンペキなんだけどってちっが――う!
 オロオロしてるオレに、手塚がぎゅっ…てしがみついてきた。
 うわわ、ダメダメ! せっかくマジメにお話してんのに。そんなふーにされたらぁ……オトコはみんなオオカミなんだよ、手塚――――!
「菊丸………」
 耳元でそっと呼ばれて、オレの理性は儚く消し飛んだ。
 ――うもーっ! 大っ好きな人に抱きつかれて、こんな声で名前呼ばれて。
 ここでヤらなきゃオトコじゃな―――いっ!!
 オレは手塚の肩を掴んで、ぐいっと引き離した。ビクンって震えた後、手塚が傷付いたカオでオレを見つめてくる。ああ、違う違う。そんなカオしない。
 オレは勘違いしちゃったらしい手塚に、安心させるように優しく笑い掛けた。
「手塚。今のは、手塚がアメリカに行っちゃってから有効な話だからね。今はまだ、オレたち恋人同士なんだかんね?」
 そう言ってメガネを取り上げて、唇で涙を拭いてあげる。手塚がそっと目を閉じると、オレはその瞼にもチュってしてから、小さく開いた唇に唇を合わせた。
 今日初めてのキスだ。相変わらずやーらかくって甘い、手塚の唇。



 スキって気持ちをお互いに持続させていくのは、かなりエネルギーが要る。相手が傍にいない場合は、それがもっともっと必要になる。どんなに信じ合ってたって、時間が経てば不安と疑惑で何にも見えなくなってく。
 でもね、片想いだったら。
 相手に恋人がいたって、それがどーした! オレは好きなんだからしょーがないじゃん! 絶対振り向かせてやるぞ――! って、すんごいエネルギーが湧くんだ。オレだけかにゃ〜?
 とにかく、だから手塚に会えない間、オレは恋人やめて片想いしてようって思ったんだ。
 だってどんなに苦しくたって、手塚のこと忘れるなんて、絶対できっこないもんね。
「菊丸……、菊丸、……きくまる……っ」
 うわごとみたく何回も何回もオレを呼びながら、手塚は胸に吸い付いてるオレの頭を、ぎゅうって抱き締めてきた。
 可愛い。大好き。



 手塚のためって、聞き分け良いフリしてるけど、ホントは。

 ホントは、行かせたくない。離れたくなんかないよ、手塚……!






「…………俺はお前の方が心配だ」

 二人揃って裸のまま、ベッドの中。
 体温が気持ちよくて、手塚を抱っこしたままうとうとしてたオレの耳に、手塚の呟く声。
「にゃにが?」
 腕ん中に囲ってる手塚のカオを、ひょいって覗き込む。
 まだぽやんとしてる表情が、すごく色っぽい。ピンクのほっぺが美味しそう。思わずペロンて舐めちゃったら、くすぐったそうに肩が揺れた。
「っ……お前は、その、カッコイイから。きっとすぐ、俺のことなんか忘れて他の誰かと……」
 ちょっと怒ったみたいにそっぽ向いて早口で、最後の方は殆ど聞こえないくらいの声だったけど。
 にゃんですと?
 ぜーったいにありえない手塚のおバカちゃんな心配は置いといて、……今、にゃんて言いましたかこの人。
 カッコイイ。マジっスか。今、手塚さん、わたしのことをカッコイイとおっしゃいませんでしたか。
 学校とかでも女子たちには「菊丸くん可愛い〜♥」にゃんて言われちゃってるオレのことを。あの、男女共におモテになる、しかし高嶺の花と殆どの奴が諦めちゃってる麗しの生徒会長・手塚国光サンが。
 にゃは〜。カ、カオがニヤケちゃう〜〜。
 ……そっか〜、手塚ってばオレのことカッコイーと思っちゃってたのかぁ。うー、照れるにゃ〜。
 えへへーっと笑いながら、俺は手塚をぎゅーっと抱き締めた。
「そんなコト絶対ないと思うけど。そしたら手塚が、オレのこと奪い返してよ?」
 ね、って甘えた声で言ったら、拗ねた目が見上げてきた。小さな声で、ズルイって言ってる。にゃんで?
 そーだなぁ。
 その頃には今より背も高くなって、テニスももちろん上手くなってて、手塚が惚れ直しちゃうくらい文句なしのイイ男になってる予定だから。
 奪い返しがいは、あると思うよ? なんてね。
 ね、手塚。


 ――――うん。
 大丈夫だよね。何とかなるさ! だってこんなに好きなんだもん。
 それに、行っちゃうまでに思いっきり手塚エネルギー充電しとくんだもんね。
 手塚、覚悟〜〜〜!


「大好きだよ、手塚♥」










なぜに菊塚。(笑)
そして…留学ネタです。あははー。
菊丸って、どこまでもとことん前向きなイメージがあって。
くーにゃん(=部長/死)とつり合いが取れるかなって。
しかし菊丸の一人称…手が進むわ〜(笑)
元気いっぱいの男の子、って感じが楽しい!
なんか、まだまだ書きたいです、菊塚。






モドル