今日も晴天
手塚ってば、手塚ってば………俺に「好き」って言ってくれたこと、いっかいもナイ〜〜〜〜っっ! 「愛されてないんじゃない? 英二」 さらっと笑顔でヒデーコトを言ってくれるのは、隣の席でおべんと食べてる不二だ。笑顔だけど、オーラが「つまんねー話すんなよ」とか言ってる。 にゃんてこと言うんだよ〜〜っっお前なんかもー友達じゃねー!! ――っとか言ってやりたい、言ってやりたいけど……っっ。不二になんかこんな相談しちゃった俺もバカだったと思うし、何より、怖い。 行き場のない怒りを、ヤキソバパンに思いっきり齧りついて誤魔化す。 そんなコトないもんね、ちゃんと愛されてるもんねっ! 手塚は俺の前だといつも硬いって言われてる表情が柔らかくなるし、俺がワガママ言っても「しょーがないな」って言いながら聞いてくれるし。不二なんか、手塚の全開の笑顔とかスネてるとことか、そーゆー手塚のカワイイとこにゃんて知らないだろー! ザマーミロっ!! ――――や、そーじゃなくて。 言葉にはしてくんなくても、ちゃあんと判ってるよ。手塚が俺のこと好きって思ってくれてんのは。 でも、だけどさ。 やっぱ……手塚のコトバで、声で、「好き」ってちゃんと聞いてみたい。俺ばっか言ってると、手塚の「好き」は俺の「好き」より全然少ないんじゃないか……にゃんて思っちゃう。それって、イタイ。ツライ。 う……ヤバイ、涙出そう。想像しただけでこんなんなるとは、俺ってホントバカ。これじゃ不二に泣かされたみたいじゃん。うわぁ、カッコワル。 「英二、英二」 誤魔化そうと思ってそっぽ向いて、わざと音を立ててジュースを飲む。と、不二が俺の机の方にずいっと身体を寄せてきた。 「………にゃに」 「手塚にスキって言わせる作戦。ノる?」 「ノるっ!!」 ――――――ハイ、俺は大バカ者です………。 ぴっ、と人差し指を突き出されて、俺は深く考える間もなく、その指を掴んでいた。 アクマに魂を売った瞬間、かもしれない………。 「まずは認識だね。手塚に、英二のことが好きだってことをシッカリ自覚させるんだよ」 「……どぉやって」 二人で柔軟をやりながら、コソコソと作戦会議。二人セットのメニューなので、怪しまれることはない。 チラッと手塚の方に目をやると、手塚は大石と組んでた。部長と幅部長ってコトもあるし、けっこーこーゆーコトは多い。俺だってたまには手塚と組んでストレッチとかやりたいのににゃ〜。ちぇー。溜め息をつきながら、不二の背中を押す。 「ヤキモチ妬かせるのが手っ取り早いんじゃない? どう、僕とウワキしてみるとか」 「イヤ。」 はっ。思わず力いっぱいキョゼツしてしまった。怒らせちゃったか……にゃ? 「ふ、ふ〜じ〜?」 恐る恐る呼びかけると、不二は思ったほど気にしてないよーで。 「ま、フリだけだし。何なら桃とかとでもいーよ。あ、逆に手塚に僕が迫るってのもアリだね」 さり気に、おそろしーコトを言われた。 何がおそろしーって、俺ん時は桃でもいい、にゃんて言っといて、手塚の相手は自分って決めつけちゃってるトコだ。 「にゃ、にゃんでだよぅ〜!」 「だから、『やっぱり菊丸じゃなくちゃイヤだ!』……って思わせるの。任せといてよ、トクイだから」 「……ふ、フリだけだよな? 本当に何かスルとかじゃナイよな?」 「………フフフ」 「にゃ〜〜!! フリだけだって言え〜〜〜!!!」 答えずに無気味に笑う不二の背中をぐいぐい押しながら、俺は声を抑えるのも忘れて思わず大声で喚いてしまった。 ハッとしたけど、もう遅い。 「そこっ! 何を騒いでる。菊丸、不二、グラウンド十周、行って来い!」 案の定、コワ〜イ部長様のお叱りを受けて、俺たちは首を竦めた。さすがに迫力の声だ。でも、この声が、ベッドじゃあま〜く俺の名前を呼ぶんだよにゃあ。 俺たちは顔を見合わせると、命じられたとおりグラウンドを走り始めた。 まさかこの時のことが、その後あーゆー展開になるなんて。俺はまっったく思ってもいなかった。 チクチクチク。 ……何でしょね。さっきっから視線がイタイぞ? 相手は判ってんのヨ。にゃんか気になる種類の目線ではあるケド、だ〜いスキなヒトの目線だもんね。判んなかったら恋人失格デショ。 でも、それは俺が振り向くと、パッて逸らされちゃう。んだケド、俺のほうが目を逸らすと、またチクチクチク。何なんだ?? すっごく気になるケド……俺はとにかく、『手塚にスキって言わせる作戦by不二』のほうに意識がいっちゃってて、それ以上は深く考えなかった。 で、周りに人がいないのを見計らって、スススッと手塚の隣に移動した。みんな、コート上の試合に集中してるから、俺の動きには全く気付いてない。不二は気付いたかもだけど。 「手塚、あのさ。俺、今日の帰り、用があるからさ……」 手塚の他には誰にも聞こえないよーに、コッソリと言う。いつも一緒に帰ってるのはナイショだから(何人かにはばれてるけど)、何かある時はこーやって伝えなくちゃならない。めんどいけど、手塚がナイショにしたがるからさぁ。俺なんか、みんなに言い触らしたいくらいにゃんだケドね。 実は、今日は桃とおチビにマック奢らされることになっちゃったのだ。 ここんとこずーっと手塚と一緒に帰ってたから、トーゼン他の奴に誘われても断っちゃってたんだけど、いーかげん桃がスネ始めてしまった。後々ウザイことになるのもヤなんで、マックでご機嫌とろーとしたら、何故か勝手におチビまで便乗してきた。う〜、先輩ってツライにゃ〜。 ま、そんにゃワケなんで、手塚とは今日は一緒に帰れないよ、ということを伝えたワケだ……ったんだけど……。 「………不二か?」 ピクって反応した手塚が、ポソッと言った。――――にゃんで不二? キョトンと見上げたら、どーゆ―ワケだかものすっごく不機嫌なカオの手塚。俺のほう、ムキになってるみたいに見ない。 と思ったら、イキナリ部室の方へ歩いて行ってしまった。 ――――え? え? どしたの? 部活中だよ?? 俺はちょっと考えてから、慌ててその後を追った。 密室に二人きり。それも、恋人と。 フツーに考えたらこれほどナイスなシチュエーションもあまりないだろう。今が部活動中で、その恋人がめちゃめちゃゴキゲンナナメでなければ、だケドね。 閉じたドアにもたれながら、俺はどーしていいか判らなくて、手塚の背中を見てるしかできなかった。 うう、だけど俺ってばこーゆーのホントダメにゃんだよね。ガマンできなくなって、思い切って口を開いた。 「あ、のさ。今日の約束は、不二じゃなくて桃たちだよ? にゃんで不二だと思ったの?」 「…………さっきは、不二と楽しそうだった」 なるたけいつもどおりに、明るく何でもないことみたいに訊いてみたら、返ってきたのはそんな答で。手塚はやっぱりこっちを見なくて。 ――――――え。そ、それって。 柔軟の時のコト、だよね。アレが楽しそうに見えたっていうのはちょっと、いやかなり「?」ってカンジにゃんだけど……でもつまり、それって、それって……! 「うそぉ………手塚、ヤキモチ妬いたのぉ!?」 ビックリしすぎて思わず声に出して(しかも大声で)言っちゃった。や、だってまだ作戦決行してにゃいんだよ? ただ話しながら柔軟してただけなのに。そんなの、手塚だって大石といっつもしてんのに。 手塚は弾かれたみたく俺のほうを振り向いて、キッと睨んできた。けど、耳まで真っ赤で全然怖くナイ。どころか。 ――――めっちゃくちゃカワイイんですケド!! ちょっともう、どーしよーかこの人!! すぐにでもぎゅーってして、心配しなくても大丈夫だよん、って言ったげたい。衝動のまま手を伸ばしかけて、走ってた時に不二に言われたコトを思い出した。 『ヤキモチ妬かせたとこで満足してたらダメだよ』 そーでした。目的はその先。せっかく不二(アクマ)の手を借りずに済むチャンスにゃんだもんね。よし。ここで決めちゃえ! 「ね、手塚。ヤキモチ妬いたの、にゃんで?」 ちょっとイジワルっぽく、上目遣いに手塚を見て。そしたら。 「菊丸は……こういうのは嫌か?」 へ? 「こんな……ヤキモチ妬いたりする俺は嫌か? 鬱陶しいか……?」 くしゃ、と泣きそうに手塚のカオが歪んで、きゅっと唇が噛み締められる。そんな表情もとんでもなくキレイで。 うわ、わわわっ。 俺は思いっきり動転して。――――言ってしまった。 「なっ、何言ってんの。うれしーに決まってるじゃん! 大好きにゃんだからっ!」 ………………。 にゃああ〜〜〜!!? 俺が言ってどうするっ!! 俺のバカ――!!! 菊丸英二、あっさり敗北。俺はガックリと肩を落とした。 ――――だけど。 何気に見上げた手塚が、嬉しそうに、ホッとしたようにキレイに微笑ってたから。 うん。 不二とのこと妬いてくれるくらい、手塚が俺のこと好きって判ったし。 うん、今日のとこは――負けといてアゲルよ。きっとそのうち、言わせてみせるケドね! 「部活戻ろっ!」 俺はドアを開けると、手塚の手を掴んで引っ張った。手塚は大人しく手を繋いでくれた。それだけで幸せになれちゃう俺って、結構安上がりなヤツかも? 部室を出ると、広がる青空が、さっきまでよりキレイに見えちゃったりなんかして。 「ねー手塚っ、いー天気だね♥」
ヤキモチ妬いてくれると嬉しい、でも自分は妬かない。 |