一番の誕生日サービス、のつもりだろーか。 目の前で、お風呂上りの手塚がパジャマのボタンを外してる。まだ湿ってる髪の毛を、拭いてあげたい、のに。 そこで見てろって言われて、俺は動けなくなってしまっていた。 ぶきっちょな手塚の手が、キンチョーしてるのか、かすかに震えてて。たかだかボタンをボタンホールから抜き取る作業に、異常に手間取ってる。もたもたと、焦らされてるみたいだ。 ゴクン、思わず唾を飲み込む音が、手塚にまで聞こえそうなほど大きく、耳に響いた。 ひとつずつ、ゆっくりボタンが外されていくたび、どんどんパジャマの前がはだけて。 お風呂であたたまって薄いピンクに染まっている肌が、少しずつ見えてくる。もう、手を伸ばしたい。まだ動いちゃダメなのかにゃ。うう。 「………てづか、」 自分でもビックリするくらい、かすれた声。手を伸ばしかけたら睨まれた。 サービスっていうより、イジワルされてるよーな気分だ。 なんか、なんにもしてないのにもうアレが熱くなってきちゃってる。手塚はまだ、パジャマの上だけさえ脱いでない。 もーダメ。いくらあとで怒られたってもういい。だってこれ以上ガマンなんかできないよ! 最後のひとつのボタンを外し終える前に、俺は今度こそ手を伸ばして、手塚を捕まえた。ビックリ顔の手塚が何かを言おうとして開きかけた口を、自分の口で塞ぐ。勢いに任せてそのままベッドの上に押し倒したら、ギギイッと大きな音を立ててベッドが軋んだ。 ヤバイ、マズイ。おばさんが来ちゃうかも。だけどもう、止めらんない。 大丈夫、ウチと違って手塚んちの家族は勝手に部屋に入ってきたりとかはしない。言い聞かせて、はだけかけたパジャマを思いっきり開かせた。 「菊丸ッ……」 抑えた声で呼ばれるけど、その声は怒っているというより困ったみたいで、少し震えてる。 何かを言いたそうに見えるそのカオから、眼鏡をさっさと取り上げる。 トン、トン、トン…。小さな足音のあとで、ドアがノックされた。息を飲む手塚に、しぃって人差しゆびを唇に当てる。 「国光? どうしたの? すごい音がしたわよ?」 「ごめんなさーい、おばさん! 俺がコケちゃったの!」 「まあ、大丈夫菊丸くん? 気をつけるのよ」 「はーい!」 良い子のお返事をすると、おばさんはあっさり納得して、またトントントン、と足音が遠ざかってく。 ふたりして同時にほうっと息を吐いて、それから手塚が急いで、怒ってるんだぞってふうに睨みつけてきた。 怖いどころか可愛くってしょーがないんだケド、一応ゴメンナサイを言っておく。手塚怒らせると、長いかんね。せっかく手塚から誘ってくれて、もうすぐ俺の誕生日が……。 そこで俺はハッと気づいて、時計を見た。針は、11時59分を指してる。 そういえばゆっくりゆっくりパジャマを脱ぎながら、手塚はやたらと時計を気にしてたよーな気がする。あれって、もしかして。 「……もう、少しくらい待てないのか、お前は……!」 諦めたみたいに目を閉じて、それでもおさまんないのか、そう小さく言う手塚は、どーしよーもないくらい可愛い。 だって、ねえ、どーするよこのカワイイひと! だれよりいちばんに、オメデトウを言ってほしい。そんな俺の願いを、律儀に叶えようとして。 きっと日付が変わるのと同時に、『手塚』っていうプレゼントといっしょにオメデトウって言ってくれようとしてたんだよね。 もう、大好きっていうキモチがおさえらんなくって、俺は手塚を抱き締めてそのキモチを口にしようとした。 その口を、手塚がキスで塞いできた。 いままでになかったんじゃないかっていうくらい珍しい、手塚からのキス。 それに、じわじわっと胸にしあわせなキモチが広がってく。 もう、なんでほんのちょっとでも手塚のこと疑ったりしたんだろう。こんなにこんなに、俺はちゃんとあいされてる。 コトバは、やっぱり欲しいけど……、これだけだってじゅーぶんなんじゃないだろうか。 キスに酔いながら、俺はそんなことを思った。 カチ。 時計の針が動く音が、妙に大きく聞こえて。 「誕生日……オメデトウ、英二」 そうっと唇を離して、手塚が囁いてくれた。そして。 さっき遮った、俺のセリフを。 俺が、ずっとずっと聞きたかった、そのコトバを。 「すき、だ」 すごく言いにくそうに、ほっぺを赤く染めながら、だけどすごく大切そうに――――――言ってくれたのだった。 それは、いままででいちばんの、サイコーのプレゼント。 いちばんしあわせな、誕生日。
まさか年を越すとは思いませんでした… |