HOLY HOLY NIGHT




「三蔵。これ、受け取って貰えますか?」
 12月24日。クリスマスイブ。
 何故だか二人きりになってしまった宿の一室で、窓の外を眺めていた三蔵は、八戒から小さな包みを差し出された。
 綺麗にラッピングされたそれは、どう見てもクリスマスプレゼント。だが、三蔵は訊かずにはいられなかった。
「……何だ、それは」
「指輪です」
 胡散臭げに見遣ってそう訊ねると、あろうことか八戒はその内容をあっさりと明かした。
 暫し、沈黙が流れる。
「聖なる夜に愛を誓い合った恋人たちは必ず結ばれる、と言われてますし。その証に」
 だれがそんないい加減なジンクスを広めたのやら。三蔵は頭が痛くなってきた。
 突っ込み所は色々ある。――いつお前と恋人同士になった!?…とか、女扱いすんじゃねー!…とか、まあとにかく色々。女扱い、の辺りは現在本当に女の姿になってしまっているため、かなり説得力がないが。
 しかしとりあえず冷静な部分から、
「クリスマスに坊主捕まえて何が『聖なる夜』だ。沸いてんのか、テメー」
 ――冷静な割には、やはり声に似合わぬ乱暴な言葉である。内心の怒りと言うか苛立ちは、抑え切れないようだ。
 ところが、相手が他の誰でもない八戒だということを、三蔵は失念していた。
「あっ、そうですね。すみません。……お釈迦様の誕生日っていつでしたっけ?」
 今気付いたとばかりに手を打って、――あさってな問いを返してきた。
「――――もういい」
 これ以上何を言っても暖簾に腕押し、ぬかに釘。馬の耳に念仏……まあそれは良いとして。
 三蔵はぐったりと肩を落として溜め息をついた。
 もう疑いようがない。今こうして二人きりでいるのが偶然などではないということを。この、町中が浮かれ狂っている夜にこぶ付きで出かけさせられたのだろう悟浄に、ちょっと同情してしまう。
「じゃ、はい。受け取って下さい♥」
 八戒はにっこり微笑むと、素早く三蔵の手をとって包みを半ば強引に押し付けた。
「………」
 認めたくはないが乙女心、と言う奴なのだろうか。中身がとても気になって、
「開けても良いか……」
「もちろんです♥」
 嬉しそうな八戒の答えを聞き、三蔵はそっと包みを開いた。
 小さな箱の中には、細い銀色のリング。
「金も良いかなって思ったんですけどね。貴方に似合いそうだったから……」
 銀ではなく、白金。
 嵌めてみて下さいよ、とせがまれても、三蔵にはどうして良いやら判らない。困惑していると、八戒が左手の薬指に嵌めてくれた。
「……でかいぞ、コレ」
「だって今の貴方のサイズに合わせたら、戻った時に小さすぎるでしょう?」
 指から抜けてしまいそうなリングに思わず漏れた呟きに、さらりと返された答えに驚く。
 今の『女』の自分ではなく、元の自分へ贈られた物だということが、すぐには信じられなくて。
 でも――そういえばコイツは、愛の告白とやらも"戻ったらもう一度"などと言っていたのだった。
 多分、かなりこの雰囲気に流されているような自覚はあったけれど。
「とりあえず……、貰っとく」
 三蔵は軽く背伸びをして、八戒の唇にそっと触れるだけの口付けをした。




 窓の外には雪――聖なる夜の魔法は、生臭坊主をも乙女に変えてしまったようだ。






時季ネタなので、迷いましたが。
うちの八戒氏は、もーホント、玄奘三蔵フリークなので。
男だろーが女だろーが、『三蔵』なら何でも良いのです。
でもやっぱ、男性である方が本来なので…
早く元に戻って欲しい、らしいです一応。






モドル