青天の霹靂
〜2〜
ひどく切なげな目を、俺に向けてくるゾロ。本人にそんな自覚はないのだろうけれど。
多分もう、今までのどの女の子とよりもゾロとのほうがセックスを多くしてる。
まなちゃんと付き合っていたのは、ほんの二ヶ月ほどだった。いつもどおりの最後に、それでも胸は変わらず痛んだ。だって、いつだって俺は彼女たちを傷つけたくはなかったのだ。
こんなときばかりは、俺がどれほど馬鹿な呑み方をしても、ゾロは止めない。ここに来るまでの時点ですでに相当酔いが回っていて、なのに呑まずにいられない俺を、ただ呆れたように眺め、自らもグラスを空けていく。
手を伸ばせば、いつも一瞬だけビクついて。そのくせ、押し倒されるがまま、文句のひとつも言わずに身体を投げ出す。
都合のいい相手と扱われていることを知っていながら、決して拒まない。俺に、惚れているから。
キレイな目を潤ませて、ただまっすぐに俺を見つめてくる。
これが女の子なら、そんなヒドイコトとても出来はしないし、他の男なら、そもそも考え付きもしないだろう。
こんなサイテーな男に惚れてしまったゾロを、かわいそうだと思う。でもそれと同じほどかわいいとも思った。
「お前が女の子だったらなァ……絶対恋人にして、そんでずっとお前だけでいいのに」
思わず漏らした呟きは、本心だ。きっとゾロなら、他の子達のように俺から離れていったりしない。別れを告げることはないと、確信できる。
ゾロは全く相手にしていない態度で鼻を鳴らし、「願い下げだ」と言った。
実際はこいつはどう見ても男で、女の子でなどありえないのだから、確かに馬鹿げた話だ。それでも俺は、戯れのような自分の言葉を気に入って、笑いながらゾロに触れた。
勃たなくなっても不思議ではない量を呑んでいるのに、ゾロを組み敷いているだけで欲情した。下肢が熱い。本音を言えば、すぐにでも突っ込みたい。
でもゾロは、女の子じゃない。勝手に濡れたりはしないから、準備を怠れば怪我をさせてしまう。頑丈で、ちょっとやそっとじゃ壊れたりしない奴だけど、どちらかが痛い思いをするようなセックスはあまりしたくない。
できるだけ優しく、ゾロから求めてくるようになるまで焦らすようなキスを繰り返しつつ、ぴったりとしたゾロのジーンズを苦労して脱がせ、下着も取り去った。
尻の奥の、俺を受け入れさせる小さな孔を、指で探る。ぐにぐにと指の腹で揉み、浅く潜り込ませ何度か抜き差しするうち、刺激を受けた腸壁が滲み出すように濡れてきた。
「……ッん」
ぐり、とそのまま中指を根元まで押し込むと、ゾロが息とともに声を飲み込む音がした。
何ヶ月かごと、間を置いてだけれど、三年の間に何度となく俺を受け入れたゾロの身体は、すでにそこだけで快感を得ることを覚えていた。前には触ったことがなかったけれど、最近は俺に後ろを突かれながら、最後には射精に至っている。
俺が育てた、インランな身体。俺だけの身体だ。
判っていて、わざと嬲るような言い方でからかうと、ゾロは涙を湛えたキレイな目に、俺を映し出した。
縋りついてこようとしないのは、きっとこいつなりの矜持だろう。内壁は、俺の指に絡み付いて、逃がすまいとするようにきゅうきゅうと締め付けてくるのに。
「ゾロ。な、もう……挿れてイイ?」
ゾロは俺をじっと見、目を閉じて、頷く代わりに腰を上げて俺の股間に押し付けてきた。
途端、漏らしてしまいそうなほどの昂ぶりを覚え、俺は思わず自嘲する。女の子と初めてシたときだって、ここまで興奮を覚えることはなかった。
俺は急く気持ちのまま、ゾロを弄っていた指を引き抜き、いきり立ったモノを突き立てた。
「――ッ、アアア……ッ!!」
衝撃を受け止めきれず、ゾロは仰け反った喉から悲鳴じみた声を上げた。ゾクゾクするほど艶っぽい声だと思った。そうだ、女の子のカワイイ喘ぎ声なんかよりも煽られた。
俺は、ゾロの腰を掴んでいた手を伸ばし、きつく握りこまれたゾロの拳をそっと包んだ。ゾロはビクッと身を震わせ、閉じていた目を開けて俺を窺ってくる。
その瞬間、判った気がした。
何だ俺、さっきからずっと答を言っていたようなものじゃないか。
「……サンジ……?」
「うん」
めったに俺の名を呼ばないゾロが、戸惑ったように呼びかけてくる。
あたたかい気持ちが胸を満たす。その想いのまま、キスをした。
緩く勃ち上がっているゾロのペニスに空いた手を伸ばす。驚いて逃げようとするのを許さず、しっかりと握り込んだ。
ああ、やっぱり。気持ち悪くない。抱いているのが女の子ではないという、確かな証なのに。
動揺し瞳を揺らすゾロに、笑みを返し、キスを止めないままうっとりと囁く。
「女の子じゃなくても、イイかも」
その途端、ゾロのナカが一際きつく締まり、俺はそのあまりに強烈な快感に抗うことなく欲を吐き出した。
「っ……あ…くっ、」
「んあァッ!」
抱きしめた身体がびくびくと震え、俺の手の中で張り詰めたモノから放たれた精が、互いの腹や胸を汚す。
俺のだ。全部。
そう思ったらひどく満たされて、俺はゾロの上に覆いかぶさるようにして、そのまま優しく穏やかな眠りに落ちていった。
泊まりなんて初めてだ。
いつもはヤるだけヤって、ゾロが失神――てゆーか寝てたよ、アレは絶対!――してる間に勝手にシャワーを借りて帰っていた。自分のほうが意識を飛ばしちまうなんてこと、今までなかったのだ。
俺と間を置かず、ゾロも寝てしまったのだろう。俺たちは繋がったまま、しっかりと抱き合っていた。一晩中こうしていたのかと思えば気恥ずかしく、決して軽くはないだろう俺を乗っけた状態で熟睡しているゾロに呆れる気持ちもあり。
だがそれらすべては、ゾロを愛しく想う気持ちに通じていた。
とにかく、このままでいつまでもいるわけにはいかない。俺はそっと身を起こし、ゾロの内部から慎重に性器を抜き出した。
ぱたり、と落ちた手は、先まで俺の背を抱いていたもので。そう思えばまた愛しさが増し、俺はゾロの髪を撫で額にくちづけた。
そうして俺は、いつの間にか全裸になっていたその姿のまま、シャワーを使いがてらゾロの始末をしてやろうと、タオルを探してバスルームへ向かったのだった。
後始末をする間も、ゾロは目を覚まさなかった。
脱ぎ捨てたものをまた着せるのもどうかと思い、かといってパジャマのある場所など判らなかったので、とりあえず布団だけを被せておいた。
酒の肴を作るのに何度か使ったことのあるキッチンへ入る。冷蔵庫の中には卵と食パンと牛乳、それにビールだけが入っていた。ゾロが甘く焼いた卵焼きが好きだったのを思い出し、フライパンと調味料を探す。
戸棚にはインスタントやレトルトの食品が詰め込まれていて、思わず溜め息をつく。まったく、不精な奴だ。こんなモン食うんなら、俺に言やァもっと上等なメシ食わせてやるのに。
まァ、これからはこんなモン、食わせやしねェけどな。
メニューは、卵焼きとトーストという、至ってシンプルな物だ。それなのに、作っている間じゅうずっと、楽しい気持ちだった。女の子のために洒落たデザートを作ってあげるときのように――否。多分、それ以上に。
自分の想いを自覚し認めた、ただそれだけで昨夜からまるで世界が変わってしまったようだった。
早く起きろよ、ゾロ。お前に伝えてェことがたくさんあるんだ。
お前にとっては、青天の霹靂みてェな話だろうけどな。
――――END
完結。前半より微妙に長くなった?(訊くな)
これでも、最後に付け足そうとした部分をやめたんですよ。
そう、サンジさん→ゾロたんの告白シーン。
でもそれを入れると、くどくなっちゃう感じがしたんで…(^^ゞ
タイトルは、サンジさんじゃなくてゾロたんにとっての『青天の霹靂』でした。
こういうふうに、微妙な騙しというか裏切りをするのが好きです(死)
自己満足みたいな話にお付き合いくださり、ありがとうございました。
まあ、そんなん言ったら全部そうですけどね(苦笑)
'08.10.20up
|