初恋バースデー


 

「カカシ。ちょっと来てごらん」
 手招かれ、手裏剣投げの練習をしていたカカシが父の元へと駆け寄っていくと、父はひとりではなく傍には一組の夫婦がいた。
 どちらも何度か会ったことのある、父の友人。男がうみのサチ、少し離れたところにいるのがその妻のイサナ。サチは腕に何かを抱えていた。ひどく大切そうに。
「ホラ、カカシくん」
 不思議そうに見上げるカカシに、サチは笑いながら腰を落として、腕の中の者をそっと見せてくれた。
 すやすやと気持ちよさそうに眠る赤ん坊。
 ふわふわした黒髪、ぷくぷくとやわらかそうな頬、ちいさな鼻に桜色の唇。とても可愛らしいその子を、カカシは思わずじっと見つめた。
「どうだ、可愛いだろう」
 自慢げな彼に、素直に頷く。と、父のサクモが隣に屈み込んで、カカシの肩をポンと大きな手で叩いた。
「カカシのお嫁さんになる子だよ。イルカちゃんっていうんだ」
「え……?」
 およめさん。
 ……およめさん?
 カカシはびっくりして、サクモを振り仰いだ。
 一体何を言い出したのか、父は。この子は多分まだ生後半年にもならない赤ん坊で、自分は今日四歳になったばかりだというのに。
 そこまで考えて、カカシはハッとした。まさか。
 するとサクモとサチはカカシの疑惑を肯定するように、にっこりと笑って。

『誕生日おめでとう、カカシ(くん)!』

 ――――つまりこの子が、カカシへのプレゼント、ということらしい。
 人間をプレゼントにしてしまうなど非常識かつ非人道的極まりないが、父らしいといえば父らしく、サチもやはりその父の友人だけのことはあるということか。
 いや、自分の子をプレゼントとして差し出してしまうサチのほうがより問題があるのではないか。彼の妻は止めようとはしなかったのだろうか。
 そう思ってそっと窺った妻のイサナは、鬼のような形相でふたりの男を睨みつけていた。
 辛うじて殺気は抑えているものの、一旦気付いてしまえば忍びとして未熟なカカシにもその怒りのほどがチャクラから感じられて、思わず後退りそうになる。
 彼らはみな上忍で、まだ下忍にもなっていないカカシが彼女のチャクラに圧倒されても決して恥ではないのだが、幼くともカカシにもプライドがあった。
 やがて、イサナがカカシの様子に気づき、ふっとその怒りを掻き消した。感情を抑え切れなかったことを恥じてか、頬を染め、ゴメンネと眉尻を下げた困ったような表情で笑いかけてくる。
 父親とさほど年齢の変わらない女性であるのに、カカシはそんなイサナを可愛いと思った。つられたみたいに、顔が赤くなるのが自分でも判る。
 何とか気持ちを静めて、赤ん坊とその両親を観察する。
 母親のイサナは、柔らかそうな栗色の髪を背中に流しており、一重の目は黒目がちで、まっすぐに相手を見据える気の強く真面目そうな女性。決して美人というわけではないが愛嬌があって、くるくるとよく変わる表情がとても好ましい。
 対して父親のサチは、強い黒髪を頭の天辺で括り、意志の強そうなくっきりした二重の目は髪と同じで黒い。サクモが線の細いタイプであるのに対し、彼は美丈夫という感じだ。
 子供の顔立ちは、どちらかといえば母親似のようだ。鼻や唇の形などがよく似ている。ただ、髪の色は父親譲りだった。
 赤ん坊なんてそんなに何度も見たことがあるわけじゃないけれど、こんなに可愛い子は初めて見る。将来どちらにより似たとしても、きっと魅力的な人間に育つだろう。

 ―――この子が、オレのおよめさん。

「カカシくん?」
 サチのほうへと身体を寄せて、眠っている赤ん坊にそっと手を伸ばしてみた。
 と、イルカがぱちりと目を開いた。潤んでキラキラしている、黒目がちのおおきな瞳。そこに、カカシが映っている。
 泣き出してしまうのではないかと身構えたカカシに、イルカはしかしにっこりと笑った。
 触れようとしていたカカシの手の、人差し指をちいさな手が掴む。
「ん、イルカ、カカシくんが気に入ったのかー?」
 面食いだなーと、サチが豪快に笑う。よかったな、とサクモがカカシの頭をポンポンと叩いてくる。
 気付くと、父とは反対側の隣にいつの間にかイサナがいた。彼女は優しい笑みを浮かべて我が子を見つめていたが、ふとカカシのほうを見て、複雑そうな表情をした。
 やはりイサナだけは、この婚約(?)に反対らしい。理由を問おうとしたカカシに、イサナは苦笑した。
「……あの……?」
「ああ、ごめんなさいねカカシくん。……お父さんたちがおバカで、ホントに」
 その意味は、よく判らなかったけれど。
 イルカが大人になって彼女そっくりになってたら、お嫁さんにもらってもいいな、なんて満更でもないカカシだった。

 

 

 その一年後、訪ねていったうみの宅で。
 全裸で元気に走りまわる風呂上りのイルカを見て、カカシの芽生えかけていた恋心は一旦は無残に散ったのだったが。

 再びその恋が芽吹くまでには、それほどの時間はかからなかった。

 

 

 

 あれから十二年。
 立派な大人の男に成長したイルカは、けれどどこか母親の面影を残したままの笑顔で、今もカカシの隣にいる。
 お嫁さんにはできなかったけれど、誰よりも大切で愛おしい、恋人として。

 

 

――――――end★

 



カカシ先生の生誕祝SS。
超ギリギリ★UP!(苦)
しかも、大変読む人を選ぶ代物で…。
いつかシリーズ化したい、はたけ家&うみの家物語。
サクモさんとイルカ父は親友です。CPではないです!!
むしろ、サクモ→イルカ母を激PUSHします…!
というわけで、イルカちゃんは母親似でv
イルカ’S両親の名前は父=サチ、母=イサナ。
これでずっと行こうと思っています。 ウチのオリジナルです、もちろん。

'06.09.15up


 

 

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